Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

泉房穂氏の『社会の変え方』から見る市民の力

泉房穂氏の政治哲学

元明石市市長・泉房穂氏、ウェブの政治討論番組で最近引っ張りだこの人物だ。甲高くインパクトのある声量での歯に衣着せぬ発言、やるべきことを反対勢力に負けずにやりきる実行力とその実績、そして既存の仕組みをぶっ壊してくれそうなクレイジーさ、支持率低迷に息も絶え絶えの某国総理大臣にないものを全て持っており、人気もでるわけだ。

そんな泉氏の著書である『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』を読んでみた。

口角泡を飛ばす泉節が376ページ全面に展開されており、読後感を一言でまとめれば、「お腹いっぱい」である。

  • 大胆なこども施策への資源再配分

  • 市民の目線にたって役所の縦割りを壊し続ける行政サービス改革

  • 票になりにくマイノリティへのセーフティネットの構築

などの様々な明石市の施策が紹介され、全ページに市民のために全力で政治に取り組んできた彼の熱意で溢れている。泉氏の政治哲学を一言でまとめれば、下記の言葉に収斂される。

「税金」 とは、 国民から預かっているお金だ。
それに「知恵」と「汗」の付加価値をつけ て
〝国民に戻す〟のが、政治の役割
だ。
『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』

社会への分配を権限や権力と考える普通の政治家とは違い、彼はそれを責任ある重い役割と考える。出発点が違うので、成果や支持率に差がでるのは当たり前だろう。

本書に見る、日本と日本人への希望

私は日本の向こう10~20年に対して実は結構悲観的で、残念ながらゆるやかに衰退していくんだろうなぁ、と正直思っている。それでも、日本人はとても世界で思いっきり活躍できる人材に溢れていると思うし、もっと海外に舞台を広げることで飛躍できると思うので、こんなブログをつらつら下記つらている。そして、本書を読んで日本は、特に日本人にはやっぱり地力が十分にあるなぁ、と強く感じた。
泉氏の剛腕を見て、それを感じたわけではない。正直、泉氏は良い意味で頭の線が一本切れた変人である。「公共工事の予算を減らして、子ども政策に回す」というのは市長の決断であり、腹のくくり方次第でどこでもできると彼は言うが、既得権益者から脅しや殺害予告を受けてまで、それを推進するなんてことは常人はできない。なので、泉氏がすごいからと言って、「日本人は地力がある」とは私は感じない。彼は各所で否定をしているものの、やはり彼は特別なのだ。私はむしろ本書を読んで、市民と市政を支える市職員の力に強い希望の光をみた。

明石市の民主主義とその力

泉氏は市職員に対しての暴言を吐き、その音声がマスコミに流れて泉氏が市長辞職に追い込まれている。その際に子育て層と若者を中心に泉氏に再出馬を要請する署名活動が行われ、それを受けて泉氏は立候補し、市長選挙で70%の得票率を獲得し、当選したという。これは、彼の市長としての実績もさることながら、彼を引きずり降ろそうとする政治勢力に対する市民により民主的な抵抗であり、正に明石市民の力である。住みやすい市を自ら守ろうという市政を思う市民の力が政治を動かした好例である。明石市は泉氏の強力な個性によってのみ作り上げられたのではなく、市民が民主的にその市政を作り上げているのだ。

公募への全国からの反響

また、本書で明石市がLGBTQ+/SOGIE担当を採用した時のエピソードがこのように紹介されている。

2020年にLGBTQ+/SOGIEの施策担当を採用したときのことです。全国から99名の応募があり、採用したのは2名。いずれもLGBTQ+の当事者で、支援活動にたずさわってきた人です。新年度から施策を本格的に進めていく方針でした。
『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』

明石市の市政は全国的にも定評がある。そこでの2名の募集枠に対して99名も、しかも全国から応募があったという事実は、公のために存分に自分の専門性を発揮する職場を求めている人が日本には沢山いるということの証左だ。どこの役所にだって、当初は高い志で入所したものの、縦割り行政と行政組織の内部論理に染まり、疲れ果て、志の薄れてしまった人はいるだろう。そんな縦割り組織と内部論理から解放され、思いっきり公のために自分の専門性を活かせる職場があったらそこで働いてみたいと思う志の高い人が応募に対して50倍いたというのは、これまた希望の光だと思う。リーダー次第で輝ける熱意のある人材は、日本にはまだまだ沢山いるということだ。

まとめ

本書を読んで、「こんな人が国の政治を担ってくれたら」と夢想することは筆者の意図と反することだろう。本書で語られているのは、泉氏の独自性もあるが、それ以上に市政を支える明石市の職員と市民の力だ。
明石市の各種の子ども施策は周辺の自治体にも派生しているという。また、全国の自治体からも見学も絶えず、国政でも既に一部の明石市の政策の取り込みの検討が続いているという。市民と市職員が支える「市民にやさしい政策」が全国に広がっていくかどうかは、やっぱり市民と行政を担う一人ひとりにかかっている。日本の政治をより良い方向に向けていくために、本書を通して多くの人がどのように市民と市職員が市政を変えていったかを参考にされたら良いと思う。

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