Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

娘の勧めで読んだ『絶望死のアメリカ』に垣間見るトランプ人気の背景

娘が選んだ一冊:『絶望死のアメリカ』

日本で受験勉強中の娘は予備校で勧められた本をよく購入する。自分では買わないなぁ、という本がたまに購入されるので、結構楽しみにしている。先日も、Kindleでの書籍購入通知がメールで飛んできた。¥3,800、なかなか高い本を買うじゃねーか、娘。そして、本のタイトルは『絶望死のアメリカ』、総ページ数352ページ。これは読み応えがあり、面白そうな本だと思い、読み始めたら、やはり当たりであった。でかした、娘。

 

見捨てられた非大卒アメリカ白人層

この大作の要点を思い切ってまとめてしまえうと、

  • 現代アメリカにおいて、非大卒白人アメリカ人の自殺、薬物、アルコールによる死亡(本書では絶望死と定義)は、飛躍的に伸びている

  • 背景には、経済成長の果実を共有する輪から、非大卒のアメリカ人は外れてしまっており、質の高い仕事は失われ、低賃金に喘いでいる現状がある

  • 現代アメリカでは、資本主義は富を下から上に配分する仕組みになってしまい、民主的な政治による再配分の仕組みを機能せず、アメリカの魅力である「機会の平等」すら脅かされている

と言ったところだろう。この経済と社会の発展から「見捨てられた層」の存在とその問題が深刻化していることと、アメリカ大統領選におけるトランプの躍進は決して切り離すことはできない。

 

アメリカン・ドリームはどこにいった?

「アメリカンドリーム」という言葉はアメリカを象徴する言葉だ。「機会の扉」というのは誰に対しても開かれており、能力と才覚さえあれば誰でも成功することができる、というのはアメリカの魅力であり、私自身も10年以上アメリカに住んでいて感じることだ。
だが薄々は勘付いていたが、どうも私はアメリカ社会の片側でのゲームに興じていただけらしい。そして、もう一方のアメリカでは「機会の平等」が脅かされ、将来に展望を見ることができない人が溢れ、さらに絶望死に追い込まれる人も多くなっているとのこと。そういう人には「Make America Great Again」という言葉は心地よく心に響くのであろう。

 

株主重視主義が生み出す格差

私はファイナンスの部署に勤めているので、アメリカ企業の極端な株主重視の経営姿勢は毎日感じている。会社の利益は、お金をだしている人と経営陣により強烈に吸い上げられるシステムががっちり構築されている。「エリート」としてその仕組みを利用する側には住みやすい国ではあるが、そこに入れる人は極少数だ。私のような一般従業員は株式投資を通して、その仕組みをぷち活用するわけだが、給与を抑えられた非大卒アメリカ人はそのプチ活用すらままならない。そして、そういう人たちは「エリートと政治家ばかりが得をしている」という不平こそあれ、その極端な株主重視や旺盛なロビーイングなどの問題への理解もままならない。なので、「エリート」と「既存の政治構造」を政治家らしくない言動で批判するトランプにやたらと惹かれるのだろう

 

トランプ人気のカラクリ

本書によれば、アメリカでは巨額の資金がロビー活動に費やされている。2018年にはワシントンで1万1654人ものロビイストが登録され、34.6億ドル(140円換算で4,844億円)が投入されたらしい。これは連邦議員一人当たり22人もロビイストがいる計算で、常軌を逸している。
そして、その中には次のようなトランプに100億円以上献金をしているトランプ支持者人たちに雇われたロビイストも沢山おり。

  • イーロン・マスク:自社の成長を支援する規制緩和や税制優遇措置を推進、そして大統領選では懸賞金付き署名活動を実施

  • リチャード・ウイライン:製品の安全基準や環境規制の緩和や自社に有利な税制優遇措置の導入を推進

こうした富豪たちは、ロビー活動を通じて資本主義の仕組みを利用し、民主主義をゆがめている。にもかかわらず、トランプは民主主義を歪めているこれらの行為は棚に上げ、「不法移民」や「グローバル化」といった叩いても一切票の減らないスケープゴートを作り上げ、非大卒白人たちの不満をそちらに向けている
だが、社会的に追い詰められた人々は、トランプが「なんかやってくれるかもしれない」と期待し、その「変革の兆し」にすがっているのだ。

 

アメリカ大統領選を理解するための必読書

アメリカに住んで良いことも色々あり、日本から出ないとわからない日本の問題点も沢山見えてきた。その一方で、10年以上も住んでいると、社会の構造としてのアメリカの問題点も目につくようになってきた。『絶望死のアメリカ』は統計データに基づいて、「他の先進国はもっとうまくやっているのに、なんでアメリカだけがこんなに上手くいっていないんだ」という点を浮き彫りにしている。「アメリカだけがダントツに上手くできていないこと」を知らずに大統領選を読み解くことはできない。
なぜトランプを国民の半数近くの人が指示しているのかが、正直全くわからない、という方は本書は手に取ったらきっと参考になるだろう。読み応えはあるが、その価値が十分にある本だ。

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