デスバレーの荒涼とした景色に思う
今年の年末の家族旅行は、セコイア国立公園、デスバレー国立公園、ロサンゼルスに。北カリフォルニアに住むわが家、文字通り広いカリフォルニアを車で縦断横断することに。同じ州内でここまで違う様相を見せるものなのかと、カリフォルニアの広さを実感した。
全米で最大、かつ最高気温をほこるデスバレーは特に印象的だった。夏は54度に近くになるので、とても訪れることはできない。荒涼とした大地を走る地平線まで続く一本道をひたすら疾走。運転しながら左右を見ると、幾重に
も重なった地層がむき出しになった乾いた山がどこまでも並走する。
<果てしなく続くデスバレーの道>
走れど走れど同じ景色で、目にする生物と言えばたまにすれ違う車に乗った人間のみ。「あぁ、こんなところでガソリンがきれたら、野垂れ死ぬな」と背中にひやりとしたものを感じつつ、こんなところによく作ったものだという道路をひたすら疾走した。ここはとても人が住めるところではない、デスバレーとは本当によく言ったものだ。
『銃・病原菌・鉄』
そんなデスバレーの景色は、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』の主張を、より実感をもって浮き上がらせてくれた。
本書は、地理的な環境が文明の発展にどのような影響を与えたのかを解き明かす人類史の名著だ。
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栽培しやすい植物、家畜化できる大型哺乳類がその大陸にどれだけいたかが、人口の増加の速度に大きな影響を与えた
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農耕・牧畜、そして言語や技術が伝播しやすいほど、人口増加と技術の発展に大きな影響を与えた
という2つの原則を元に、なぜユーラシア大陸の文明が、アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸より早期に発展したかを解き明かす。かいつまんで言うと、ユーラシア大陸は
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アフリカやアメリカと異なり東西に長く伸びており、また山脈も東西に連なっているため、文明の伝播の障害となる地理的な障壁が少なかった(緯度は同じであれば、同じ作物が育てやすいし、南北に連なる山脈がなければ横展開しやすい)
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現在人類が家畜化している大型哺乳類は14種しかないが、そのうちユーラシア大陸にはもともと13種類が生息しており、麦や米などの多くの穀物も野生種として存在していたため、他の大陸より食料の生産が容易であった(アメリカ大陸に原生していた大型哺乳類はラマ・アルパカのみ)
という主な2点で優位にあり、他の大陸より圧倒的に早く文明が発達したとしている。
話題を呼んだ世界的に名著だけあり、大変読み応えはあるが、綿密な研究に基づいて、様々な示唆をくれ、知的好奇心を大いに刺激してくれた。
アメリカ大陸の文明の発展は何故遅れたのか?
私が住むアメリカ、そしてカリフォルニアは世界で有数の農業生産地であるにも関わらず、近世になるまで文明的な発展は遅れていた理由を本書ははっきりと示してくれる。
ユーラシア大陸からやってくるまで、ラマ・アルパカ・とうもろこしくらいしか農作物や家畜がなく、人口増加とそれに伴う文明の発展の妨げになっていたというのは説得力がある。
そして、「南北に連なるシエラネバダ山脈、ロッキー山脈という大きな山脈」、そして「テキサス・アリゾナ州の農業や牧畜に不向きな乾燥した内陸部と砂漠」が北米大陸を東西に分断してしまい、知識や技術の伝播を難しくしている。
わが家が疾走したデスバレーの荒涼とした大地は、舗装された道路を高速でぶっ飛ばす分には大きな障壁とはならないが、太古の人類にとっては北部の山脈以上に大きな障壁となったことは容易に想像できる。
<ホテルから見たデスバレーの夕日>
雄大なアメリカの自然に想う
今回の旅では、セコイア国立公園の「シャーマン将軍の木」も見に行ったのだが、こちらの樹齢はなんと2200年。
<世界最大の「シャーマン将軍の木」>
デスバレーとは対局にある鬱蒼としげる見事な森林。数日で両極端な大自然を体験できるカリフォルニアの広さに圧倒されつつ、北米大陸には未だ言ったことのない大自然が沢山あることを実感した。
雄大な自然を目の当たりにして、「すげー」と感嘆し、写真とぱしゃぱしゃ撮りつつも、これらの大自然も今のアメリカと世界を彩る物語の大きなパズルのピースと考えると、観光を超えた知的な刺激を感じずにはいれらない。どうにも出不精で旅行への腰が重いのだが、来年はもっと色々なアメリカの原点を見に行かなければと、思いを新たにした年末の旅行であった。