Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

荒涼の地、デスバレーに見た文明の分岐点

デスバレーの荒涼とした景色に思う

今年の年末の家族旅行は、セコイア国立公園、デスバレー国立公園、ロサンゼルスに。北カリフォルニアに住むわが家、文字通り広いカリフォルニアを車で縦断横断することに。同じ州内でここまで違う様相を見せるものなのかと、カリフォルニアの広さを実感した。
全米で最大、かつ最高気温をほこるデスバレーは特に印象的だった。夏は54度に近くになるので、とても訪れることはできない。荒涼とした大地を走る地平線まで続く一本道をひたすら疾走。運転しながら左右を見ると、幾重に
も重なった地層がむき出しになった乾いた山がどこまでも並走する。


<果てしなく続くデスバレーの道>

<海抜-84メートルのバッドウォーター盆地>

走れど走れど同じ景色で、目にする生物と言えばたまにすれ違う車に乗った人間のみ。「あぁ、こんなところでガソリンがきれたら、野垂れ死ぬな」と背中にひやりとしたものを感じつつ、こんなところによく作ったものだという道路をひたすら疾走した。ここはとても人が住めるところではない、デスバレーとは本当によく言ったものだ。

 

『銃・病原菌・鉄』

そんなデスバレーの景色は、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』の主張を、より実感をもって浮き上がらせてくれた。

本書は、地理的な環境が文明の発展にどのような影響を与えたのかを解き明かす人類史の名著だ。

  • 栽培しやすい植物、家畜化できる大型哺乳類がその大陸にどれだけいたかが、人口の増加の速度に大きな影響を与えた

  • 農耕・牧畜、そして言語や技術が伝播しやすいほど、人口増加と技術の発展に大きな影響を与えた

という2つの原則を元に、なぜユーラシア大陸の文明が、アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸より早期に発展したかを解き明かす。かいつまんで言うと、ユーラシア大陸は

  • アフリカやアメリカと異なり東西に長く伸びており、また山脈も東西に連なっているため、文明の伝播の障害となる地理的な障壁が少なかった(緯度は同じであれば、同じ作物が育てやすいし、南北に連なる山脈がなければ横展開しやすい)

  • 現在人類が家畜化している大型哺乳類は14種しかないが、そのうちユーラシア大陸にはもともと13種類が生息しており、麦や米などの多くの穀物も野生種として存在していたため、他の大陸より食料の生産が容易であった(アメリカ大陸に原生していた大型哺乳類はラマ・アルパカのみ)

という主な2点で優位にあり、他の大陸より圧倒的に早く文明が発達したとしている。

話題を呼んだ世界的に名著だけあり、大変読み応えはあるが、綿密な研究に基づいて、様々な示唆をくれ、知的好奇心を大いに刺激してくれた。

 

アメリカ大陸の文明の発展は何故遅れたのか?

私が住むアメリカ、そしてカリフォルニアは世界で有数の農業生産地であるにも関わらず、近世になるまで文明的な発展は遅れていた理由を本書ははっきりと示してくれる。
ユーラシア大陸からやってくるまで、ラマ・アルパカ・とうもろこしくらいしか農作物や家畜がなく、人口増加とそれに伴う文明の発展の妨げになっていたというのは説得力がある。
そして、「南北に連なるシエラネバダ山脈、ロッキー山脈という大きな山脈」、そして「テキサス・アリゾナ州の農業や牧畜に不向きな乾燥した内陸部と砂漠」が北米大陸を東西に分断してしまい、知識や技術の伝播を難しくしている。
わが家が疾走したデスバレーの荒涼とした大地は、舗装された道路を高速でぶっ飛ばす分には大きな障壁とはならないが、太古の人類にとっては北部の山脈以上に大きな障壁となったことは容易に想像できる。

<ホテルから見たデスバレーの夕日>

雄大なアメリカの自然に想う

今回の旅では、セコイア国立公園の「シャーマン将軍の木」も見に行ったのだが、こちらの樹齢はなんと2200年。

<世界最大の「シャーマン将軍の木」>

<デスバレーと全く異なる装いのセコイア国立公園>

デスバレーとは対局にある鬱蒼としげる見事な森林。数日で両極端な大自然を体験できるカリフォルニアの広さに圧倒されつつ、北米大陸には未だ言ったことのない大自然が沢山あることを実感した。
雄大な自然を目の当たりにして、「すげー」と感嘆し、写真とぱしゃぱしゃ撮りつつも、これらの大自然も今のアメリカと世界を彩る物語の大きなパズルのピースと考えると、観光を超えた知的な刺激を感じずにはいれらない。どうにも出不精で旅行への腰が重いのだが、来年はもっと色々なアメリカの原点を見に行かなければと、思いを新たにした年末の旅行であった。

インディアン・カジノの歴史と現在:6兆円産業の光と影

https://www.redhawkcasino.com/
この煌びやかなカジノリゾートホテル。ラスベガスを彷彿させる絢爛さだが、実はわが家から車で30分もしないところにあるネイティブ・アメリカン保留地にあるいわゆるインディアン・カジノだ。


アメリカのカジノの代名詞であるラスベガスの2022年の売上は約1兆3千億円、ネバダ州全体で2兆2千億円ほど。それに対して全米のインディアン・カジノの同年の売上は何と6兆2千億。あのラスベガスのほぼ5倍の規模を誇る。自然や伝統を重んじるネイティブ・アメリカンというステレオタイプとカジノ産業は相入れないため、違和感を覚える人はいるかもしれないが、インディアン・カジノは過去30年間成長し続けてきた。

 

本日紹介する『インディアンとカジノ』はインディアン・カジノという視点から、アメリカの建国と開拓の歴史、州政府と連邦政府の関係、民主主義と資本主義の覇権国家としてのアメリカの良心と矛盾を、立体的に浮き上がらせてくれる良書だ。今年は大統領選挙もあり、アメリカについての本をかなり読んだが、間違いなくベスト3に入る面白さであった。

 

インディアンカジノとは何か:その自治と経済

インディアン・カジノとは「保留地には州の税制や法制度の適用が制限される」という経済活動上のメリットを最大限に生かし、個々のインディアン部族が保留地で独占的に展開する保留地ビジネスの一つである。
『インディアンとカジノ』

保留地の最大の特徴は州の税制や法制度の適用が限られているという点だ。アメリカは合衆国という名前だけあり、州の権限が非常に強く、州独自の法が非常に多い。州を跨いで引っ越せば、運転免許は取り直さないといけないし、場合によっては学校の学年だって変わることもある。そんなアメリカで州内にありながら、州の法制度が及ばないというのは非常に特徴的だ。


アメリカ国内では、このインディアン・カジノの拡大に、「資本主義にどっぷり使って伝統的な生活を捨てた先住民」、「自治権をたやすい金儲けの手段として乱用している」という批判は耐えない。が、そういった批判をする人の大半は、ネイティブ・アメリカンの歴史に対して無知であるし、「インディアンゲーミング規制法」によって、カジノの収益は部族の政府運営、福祉、文化的伝統の保全という限られた用途にのみ利用されつつ、一部の収益が州政府に収められているなどのことを知らないのだろう。


インディアン・カジノは、過去100年以上定まらない政策によって、ネイティブ・アメリカンに貧困をもたらし続けた歴史に終止符を打つ、苦心の上の政策なのだ。

 

アメリカ国土と保留地の真実

インディアン・カジノを理解するためには、ネイティブ・アメリカン保留地について理解をしなければならない。ネイティブ・アメリカン保留地は、アメリカが開拓期に国土を拡大するために各部族と条約を締結して定められた自治区である。元々、ネイティブ・アメリカンが住んでいいた地域に、「このエリアは部族の自治も認めるし、福祉などをアメリカ政府として提供するので、他の土地についてはアメリカ政府が頂きますよ」という契約を締結し、アメリカは国土を拡大していった。


即ち、現在のアメリカの国土、並びに国の形は、ネイティブ・アメリカンに保留地における自治を認めることで成り立っている。その過程で多くの暴力や強制移住が伴ったことは事実であり、その時々の「アメリカの良心」に左右をされた契約関係であるが、その縛りは今でも有効である。


もし、それを解消したいと思えば、アメリカ国土を返還した上で、その土地からアメリカ人が出て行かなければならず、これは現実的とは言えない。勿論、武力制圧で解決という手も取りうるが、条約の強制的な武力による破棄ということで、その強硬さはロシアによるウクライナ侵攻の比ではない。それに等しいことを歴史的にしてきたのは事実だが、現在においてはこちらも現実的ではないだろう。

 

数字でみるインディアン・カジノの成功と課題

『ネイティブ・アメリカンへのインディアン・カジノの収入並びに健康への効果』という研究では、カジノを運営する部族について、下記の経済的効果がでているという調査結果が示されている。

  • 部族員1人あたりの平均収入が約20~25%増加(収益の直接分配や教育・住居補助プログラムが拡充)

  • 部族員の雇用率が12%向上(カジノ施設、レストラン、ホテルへの就業)

  • 部族員の貧困率が14%減少(特に低所得世帯の改善が顕著)

  • 健康保険への補助、医療アクセスの改善を通して、死亡率が平均2%低下

連邦政府によって様々な施策が過去にうたれてきたが、これ程までの改善効果がでた施策は「インディアン・ゲーミング規制法」だけだろう。ある時は同化政策をとり、またある時は連邦政府による福祉政策の充実化をはかり、そして時の政権の意向によって福祉政策がカットされ、様々な憂き目にあってきたネイティブ・アメリカン。民主主義的なアプローチより、資本主義による解決が実現されたというのは、アメリカ的でありながらも、民主主義の脆さも示しており興味深い。

 

インディアン・カジノに見るアメリカの形

私が現在住むカリフォルニア州は連邦政府から認定されたネイティブ・アメリカンの部族が110存在し、そのうち87の部族がカジノを運営している。これは共に全米で最も多い数だ。
インディアン・カジノは部族の経済的自立を実現するだけでなく、周辺地域の発展にも寄与している。
その反面、周辺地域の治安や犯罪率の悪化が懸念されるだけでなく、近隣での渋滞の発生などの社会問題を引き起こしている。
「アメリカの良心」を実現する他の対案がない以上、個々に発生する問題に個別の解決策を知恵を出して見つけていくしかないのが現状だ。
せっかく、インディアン・カジノの集積地に住んでいるので、今度実際にカジノリゾートに宿泊し、アメリカの光とも影ともなっている、アメリカとネイティブ・アメリカンが紡ぎ出した解決策をこの目で見てみたい。

選挙地図に垣間見るアメリカのリアル

「真っ赤」なアメリカ地図の不思議

2024年の大統領選の選挙結果は、得票率をみるとトランプは50.1%で、ハリスは48.3%なので圧勝という程ではない(勿論選挙人の数はかなり差がでたが)。が、アメリカ地図で見ると下記の通り真っ赤で、実際の得票率との大きな差は興味深い。

2024年アメリカ大統領選結果 得票率50.1%???

激戦州ノースカロライナの選挙模様

私が10年近く住んでいたノースカロライナ州は、2024年の大統領選挙で激戦州と呼ばれる注目の州であった。これまた接戦ではあったが下記の通りトランプが制した。

ノースカロライナ州の2024年大統領選挙結果
ノースカロライナ州の郡ごとの2024年大統領選挙結果

 

が、地図で見るとやっぱり真っ赤だ。自分が実際に10年も住んでいた州なので、真っ赤な地図からだけでは見えてこない点を、より高い解像度をもってとらえることができる。ノースカロライナ州での経験や生活体験も踏まえて、読み取れることを共有したい。

 

都市部と郊外の「赤と青」の分断

私は、州都ラーレーの隣の市に住んでいた。上の図で星マークがついたRaleighと記載された所だ。ラーレー近辺には、デューク大学やノースカロライナ大学チャペルヒル校(マイケル・ジョーダンの出身校)といった名門大学が多く、アメリカの多くの企業がその研究開発拠点をおいている。最近ではAppleがどデカい研究開発所を建設しており、大変景気が良い。
他の名前が記載されている都市も、一度は訪れたことがある比較的大きな都市で孤軍奮闘でかろうじて青色となっている。都市部は青、郊外は赤とこれだけ分かりやすく結果が分かれている所に、アメリカの分断が顕著に現れている。

 

所得分布と選挙結果、驚くほどの相関性

下の図は選挙結果と酷似しているが、これは実は選挙結果ではない。

ノースカロライナ州の所得の中央値に基づいたヒートマップ

ノースカロライナ州の郡ごとの2024年大統領選挙結果

 

これは州の所得の中央値の人口割合だ。青いほうが所得水準が高く、赤いほうが低い郡を表している。私の住んでいたラーレーは企業の研究拠点や国際展開しているIT企業が多く、左下の濃い青い所はシャーロットという金融都市でバンク・オブ・アメリカの本社がある。
これだけはっきり所得水準と選挙結果に強い相関が見られるのは、アメリカの格差の根深さだろう。

アシュビルまでの田舎の風景が教えるもの

地図の左側にあるアシュビルは芸術や自然が美しい観光都市で、家族で何度か訪れたことがある。ラーレーからアシュビルに行くにはノースカロライナを横断することになる。車を走らせて30分くらいするとラーレーを抜け、郊外に入っていくが、街並みは一変する。

アシュビルまでの通り道、トランプ得票率78%のランドルフ郡

 

見渡す限り牧草地と草原の田舎道をひたすら走るのだが、家と家の間隔はゆうに100mはあり、人より牛のほうが多いのではというのどかな景色だ。たまに突如出現する大きな立派な建物は必ず教会で、地域の人たちの信仰心を支えている。

突如出現するバプティストの教会

 

週末に教会で礼拝をし、生活圏やコミュニティというのもかなり限られており、多様性や国際色はあまり感じられない。

そういう人たちからすれば、環境規制と言われても、「都市部の人たちがエネルギーの無駄遣いしてんだろ、田舎でエコな生活送れ!」と思うだろうし、銃規制と言われても、「隣の家との距離が100m近くあるところで、自分で銃を持たずに、どうやって家族を守るんだい?」と感じることだろう。

 

なお、下記はデューク大学のあるダーラム郡ダウンタウン。この郡のトランプの得票率はなんと18.2%。写真は若干盛ってはいるが、新しい商業施設やビルが建っており、同じ州内でもかなり温度差がある。

盛ってはいるがハリス得票率80%のデューク大学のあるダーラム郡ダウンタウン

 

「青い地域」が教えてくれないこと

私はノースカロライナでは国際色の豊かな都市部に住んでいたし、現在は根っから青い州であるカリフォルニアに住んでいる。勤めている会社もずっと国際展開しているIT企業なので、職場でも近所でもきっと民主党支持者が多く、あまり共和党支持の方と接する機会はない。周りにはもっと共和党支持の方はいると思うのだが、地域の雰囲気もあって、隠れトランプ支持がきっと多く、交流の機会が本当に限られるのだ。
前回のトランプ政権のときは、アメリカでの生活を回すだけで精一杯で、あまり政治に関心を持つ余裕がなく、あまりそういう点に注目してこなかった。が、今後4年間は、自分があまり目を向けて来なかった、「もう一つのアメリカ」についても、勉強として見ていき、アメリカの全体像に近づく機会としたい。

アメリカン・ドリームを実現したヴァンス次期副大統領

2016年の大統領選挙でトランプが勝利した際に『ヒルビリー・エレジー』という本が話題になった。本書の序文は下記のような内容から始まる。

私は上院議員でもなければ、州知事でも、政府機関の元長官でもない。
私は何か特別なことを成し遂げたから本書を書いたわけではない。むしろ、私と同じような境遇に育った多くの人たちには実現できない、ごくふつうの生活を送っているから本書を記したのである。
『ヒルビリー・エレジー』

 

ごく控えめな序文から始まる本書は、典型的なラストベルトで生まれた筆者の生い立ちを綴った回想録だ。筆者は、生まれた街を、「仕事も希望も失われ、薬物で命を落とす人が後を絶たない地方都市」と称している。生物学上の父親はいなくなり、母親は薬物依存症。彼を育てた祖父母も高校卒業をしていない。そんな厳しい家庭環境とラストベルトの現実を描いたこの本は、「トランプにはどんな人が投票したのか?」という問いに答えるものとしても話題を呼んだ。。ご存知の方も多いと思うが、その『ヒルビリー・エレジー』の筆者が次期アメリカ副大統領J・D・ヴァンスだ。

 

政治的な背景の理解、という小難しいことをおいておいても本書は読み物としてかなり面白い。次期副大統領の自叙伝としてはかなりぶっ飛んでいる。
3章から6章までのタイトルは、「追いかけてくる貧困、壊れはじめた家族」、「スラム化する郊外」、「家族の中のはてしのない諍い」、「次々と変わる父親たち」と絶望的だ。
劣悪な家庭環境の影響も大きく、高校を落第寸前になるヴァンス。高校中退の瀬戸際に立たされた彼にある事件がおこる。

母は私に「クリーンな尿をくれないか」と言うのだ。前の晩から祖母のところに泊まっていた私が、学校へ行く準備をしていると、取り乱した母が行きを切らして部屋に入ってきた。看護師免許を更新するためには、看護協会が実施する無作為抽出の尿検査に応じなければならない。その日のうちに尿を提出するようにと、朝、電話がかかってきたという。
『ヒルビリー・エレジー』

 

年頃も年頃である高校生にはこれはきつい。いや、つらすぎる。薬物はやめると自分に約束した母親が、約束を破って薬物をやっていただけでなく、「お前さんのきれいなおしっこをおくれ」と頼むのだ。これでグレないやつはいるのか。当然、ブチギレて「クリーンな小便が欲しいんなら。つまらないことはやめて、自分の膀胱からとれ」と吐き捨てるヴァンス。
ところが、この話はそれで終わらない。その場にいた祖母が怒れるヴァンス青年をいさめたところ、、、

私は祖母をバスルームに引っ張り込んで、耳もとで打ち明けた。ここ何週間かで二度、ケンのマリファナを吸った。「だからだめなんだよ。おれの小便を持ってったら、ふたりともやっかいなことになるんだ
『ヒルビリー・エレジー』

 

まさか、ここでまさかの衝撃のカミングアウトをするヴァンス青年。「おい、お前もかーい」と、読んでいて思わずのけぞってしまった。
が、「マリファナ2回くらいで検査でひっかかりゃぁしないよ、どうせちゃんとした吸い方も知らないんだろう」と老練な祖母の助言を受けるヴァンス青年。おばあちゃんも誠に経験豊富である。

 

そして、この事件を機に、母親から離れて祖母と暮らすようになるヴァンス青年。その祖母との生活で何とか生活と成績を立て直す。そして、どん底の環境から抜け出すべく海兵隊に入り、まともな人生の歩み方のイロハを学び、オハイオ州立大学、そしてイェール大学ロースクールを卒業するというサクセスストーリーを歩んでいく。その逆転劇は読んでいて痛快だ。が、その過程で、自分の育った環境がゆえに、壁にぶつかり、葛藤し、苦悶の中で一歩ずつ進み続けたヴァンス青年の姿にも、私は心を打たれた。

 

執筆当初は、上院議員でも、会社の創業者でも、NPOを立ち上げたわけでもなかったヴァンスは、その後VCの社長になり、オハイオの薬物対策を担うNPOを立ち上げ、そして上院議員になる。そして、来年の1月からはアメリカの副大統領だ。
私は、価値観の多元性を重んじる方だし、ラストベルトを救うのは減税や規制緩和よりも福祉や適切な医療規制だと思ってる(要は民主党推し)。だが、私は所詮この国では傍観者であり、野次馬にすぎない。ラストベルトから真のアメリカンドリームを実現したヴァンス。彼が真の当事者としてどのような政策を実行に移していくかについては興味がある。問題発言も色々あったようだが、今後の健闘を見守りたい。

ピンクのドレスから学ぶ、自由に自分の人生を生きること

私は色々な価値観が入り乱れつつ、それぞれの個人が自分の人生を自由に生きているアメリカが気にいっている。この国では「いい歳をして!」とか「公衆の面前で!」みたいな世間の目は存在しないというか、そういうことを気にする人は殆どいない。
ジムに行けば自分の身体の一番自信がある部位をこれみよがしに強調した服を来ている人が多いし、肌寒くなった昨今通学する高校生の多くは、「お前さん、それパジャマだろ?」というような暖かそうなスウェットのパンツを履いている。

 

そんな自分自身の人生を自由に生きるアメリカ人エピソードの中で私が気に入っているのが妻のコーラスクラブでの話で、今日はそれを紹介したい。

 

私の妻は現地のコーラスクラブに参加している。コミュニティ・カレッジの生涯学習プログラムを活用したクラブであり、アメリカの教育制度の懐の深さも感じる。練習はかなりハードだが、老若男女幅広い人たちが参加しており、結構ご高齢の方も多い。1年に2回、大きなコンサートホールでライブをするのだが、それに向けて13-14曲も暗譜をしないといけないので、なかなか大変そうだ。

 

とあるライブの舞台衣装について、以下の指示がクラブのディレクターより伝えられたらしい。

今回のステージは「絵の具のパレット」をイメージしようと思う、だから舞台衣装はそれぞれ原色のものを選択して欲しい。だが、「絵の具のパレット」である以上、バリエーションがないといけないので、色の偏りは避けたい。なので、各自が着る予定の色をコーディネータに連絡して欲しい。

 

ディレクターは以前はハリウッドでも活躍していた本格派。かなり情熱的に指導をしつつも、全体の構成から舞台演出までを一手にコーディネートするやり手だ。

 

私の妻は青系が好きなので、自分は青で連絡しようかしら、と思っているところ、その申込みを開始してからそれほど時間をおかずにコーディネータから、急に以下の連絡がきた模様。

皆から、次回のステージ衣装の色を報告してもらっているけど、これ以上「ピンク」は受け付けられないので、「ピンク」以外でお願いします

 

比率でいうと女性が多いのでわからなくはないが、妻曰く色の制限がかかったのは結局「ピンク」のみだという。「ピンク」どんだけ人気なんだよ。

 

私もそのライブを見に行ったのだが、ステージの上は確かにピンクが最大勢力のようだ。そして、よくよく見てみると、自信満々かつとても幸せそうに「ピンク」のドレスを纏ってステージに立っている方の殆どはおばあちゃんである。若い女性メンバーに物怖じせず、いの一番に手をあげたおばあちゃんたちによって占められたピンク枠。誰も「この歳でピンクなんて」とか、「若い子を差し置いてピンクなんて」などと気にしないのだ。

 

そして、ピンクに限らず原色の衣装を纏った特に高齢の男性・女性が。「このステージで歌うことこそが、私の人生の楽しみ」とばかりに、楽しそうに歌っている姿が印象的であった。勿論、舞台の完成度も非常に高く、私自身もパフォーマンスを大いに楽しむことができたが、それ以上に歳をとっても自分が生きたいように人生をいきる皆さんに力をもらった。

 

アメリカでは、私生活でも仕事でも、「あなたはどうしたいの?」ということを良く聞かれる。そして、「自分はこうありたい」と思っている人たちを応援するという文化が社会の隅々まで行き渡っている。ピンクの衣装で楽しそうに歌うおばあちゃんたちを見ながら、世間体よりも「自分の生き方」を追求することが、この国ではずっと大事なんだってことを再認識した。

 

5年以上リバウンドなし!理想の体型を実現する三原則

私がダイエットに失敗した数を数えたら、30回はくだらないだろう。そんな数々の失敗を重ねた末に、この肥満大国のアメリカでも、5-6年ほどは自分のなりたい体重と体型を維持できている。きっかけは、体重を減らすことから『良い生活習慣を作ること』に目的を切り替えたことだった。このエントリーでは、私の考えるリバウンドしないダイエットの「基本の三原則」を紹介したい。また、原則からくる「10個の行動指針」については別で紹介する。

 

第一の原則:体重より生活習慣

「体重」は結果であり、大事なのは「生活習慣」

「体重を何キロまで減らす」というのはよくあるダイエットの目標だが、そこを目的化してしまうと、待っているのはリバウンドだ。体重の減少というのはあくまで良い生活習慣の結果である。なので、「体重を減らす」のではなく、「良い生活習慣を作る」ことに注力しなければならない

 

「自分が無理なく続けられる」ことが肝

生活習慣を作る上で一番大事なのは「自分が無理なく続けられる」こと。「低糖質ダイエット」にしろ、「16時間断食ダイエット」にしろ、一時的にやるだけでは意味がない。瞬間最大風速で体重を減らしたところで、元の生活習慣に戻せば、それに紐づく体型と体重に戻っていくだけの話だ(世の中ではこれをリバウンドという)。なので、自分が一生、そして無理なく続けることができる生活習慣を作ることこそが大事だ。

 

「健康的な生活習慣」は、時間をかけて作ることが大事

これさえ気をつければ痩せる」という謳い文句は眉唾だ。人の体型というのは1つの要素のみで決まるほど単純ではない。新しい生活習慣を取り入れ、

  • それが自分のなりたい体型に近づくために効果があるのか

  • それを自分が無理なく継続することができるのか

ということを日々の生活の中で評価をしていかないといけない。色々なことを沢山試して、効果があって自分が無理なく生活習慣として取り入れることができるものを残していけばよいのだ。60分のウォーキングを毎日続けるのは無理でも、15分を4回なら無理なくできるかもしれないし、毎晩の晩酌を全でやめるのは無理でも、週に一日の休肝日ならできるかもしれない。自分が無理なくできる、より健康的な生活習慣に継続的によせていくことが大事だ。

 

自分にあった「健康的な生活習慣」は自分しか作れない

性格、嗜好、仕事の状況、人付き合いのスタイルは人によって様々だ。出張が多い人、在宅勤務をしている人、夜の会食が多い人、それぞれの人によって無理は異なる。人の意見や方法を参考にしたり、色々試すのは良いことだ。だが、「無理なく取り入れることのできる生活習慣」というのは、最終的には自分しか作れない、ということを理解しよう。

 

第二の原則:筋肉量と脂肪量を管理

体重より筋肉量と脂肪量

私の一日は体組成計に乗ることから始まる。が、私は体重は全くと言って良いほど見ない。その代わりに、骨格筋量と体脂肪量を見て、その日の調子を見る。例えば朝の測定値が下記のようだったとする。

  • 体重0.5キロ減、骨格筋量0.3キロ減、体脂肪量0.1キロ増

  • 体重0.5キロ増、骨格筋量0.3キロ増、体脂肪量0.1キロ減

私は後者のように筋肉量が増えつつ、体重も増えていれば、「よし、良い一日のスタートだぜ」となるが、前者のように体重が減っても筋肉量が減ってしまうと、「あちゃぁ、やっちまったか」と感じる。良い体型には脂肪を減らすことが大事で、脂肪を減らすには基礎代謝をあげる筋肉量を増やすことが大事なので、体重にとらわれすぎないようにしている。

 

利益だけみて経営しないように、体重だけみて健康管理をしない

会社の経営を考えると、利益だけ管理している会社は皆無だ。どの会社だって、売上と支出の両方を管理し、ネットの利益の改善をはかる。ダイエットも同じで体重だけでなく、もう一段階解像度をあげて、筋肉量と脂肪量を管理するのが大事だ。そのために体組成計くらいには惜しみなく投資しよう。

 

第三の原則:低糖質ではなく、低脂質

低糖質ブームにご用心

ダイエット業界は空前の低糖質ブームと言っても過言ではない。多くの健康を打ち出した商品のパッケージには「糖質カット!」、「糖質◯◯%オフ!」という文字が踊っている。だが、低糖質だけにこだわっても効果はでない。

 

低糖質より、低脂質が大事

糖質のとりすぎは良くはない。が、優先順位としては、まず脂質をカットし、その上で許容範囲に応じて糖質を減らしていく、というのが正しい。脂質に気をつけず、糖質だけ減らしたって、体型は改善しない。もちろん、ケトーシスになるまで糖質を制限するなら話は別だが、そこまで制限している人は殆どいないだろう。

 

買い物をする時の注意点

私は、一時帰国時にコンビニで何かを買う時は、成分表の脂質を必ず見る。手に取った商品が、

  • 糖質が低いが、脂質が高い

  • タンパク質は高いが、脂質も高い

という場合は購入を躊躇する(勿論、「食べちゃおー」となる時もある)。一方で、

  • 糖質が高く、タンパク質も高いが、脂質は低い

場合は、殆ど気にせず食べてしまう。なぜかと言うと

  • 1グラムあたりのカロリー量は糖質は4カロリーに対して脂質は9カロリーであり、脂質のほうがカロリーが高い

  • 同じカロリー量であっても、代謝や貯蔵の方法の違いから、脂質のほうが圧倒的に脂肪になりやすい

  • 糖質は十分タンパク質をとり、ある程度運動すれば、燃焼されやすいし、筋合成のエネルギーにもないうる

からだ。

 

食品業界の裏側

食品業界の人たちはダイエットには糖質減より脂質減のほうが大事ってわかっていると思う。で、彼らがそれでも低脂質ではなく、低糖質を推すのは、脂質を沢山使えば、多少糖質を落としても美味しいものを作ることは難しくないからだ。
健康的だが美味しさはそこそこのものと、多少健康的だが美味しいものであれば、後者の方が売りやすいのだろう。なので、彼らは脂質への言及を避けた「低脂質」ブームを作っているのではないかと思う。

 

まとめ

以上、リバウンドしない体型維持のための三原則を紹介した。要点をもう一度おさらいする。

  1. 体重よりも「生活習慣」に注力する:無理なく続けられる習慣こそが長期的な成功の鍵

  2. 筋肉量と脂肪量を管理する:体重だけでなく、筋肉量と脂肪量を見て全体を把握する

  3. 低糖質より「低脂質」を意識する:カロリー管理は脂質に注目し、「低糖質」マーケティングに踊らされない

以上参考になり、読んでいただいた方が、なりたい体型と体重に近づいていけたら、こんなに嬉しいことはない。今回の記事では考え方を中心においたので、その原則に従って私が決めている10個の行動原則をまた別記事で紹介するので、乞うご期待。

娘の勧めで読んだ『絶望死のアメリカ』に垣間見るトランプ人気の背景

娘が選んだ一冊:『絶望死のアメリカ』

日本で受験勉強中の娘は予備校で勧められた本をよく購入する。自分では買わないなぁ、という本がたまに購入されるので、結構楽しみにしている。先日も、Kindleでの書籍購入通知がメールで飛んできた。¥3,800、なかなか高い本を買うじゃねーか、娘。そして、本のタイトルは『絶望死のアメリカ』、総ページ数352ページ。これは読み応えがあり、面白そうな本だと思い、読み始めたら、やはり当たりであった。でかした、娘。

 

見捨てられた非大卒アメリカ白人層

この大作の要点を思い切ってまとめてしまえうと、

  • 現代アメリカにおいて、非大卒白人アメリカ人の自殺、薬物、アルコールによる死亡(本書では絶望死と定義)は、飛躍的に伸びている

  • 背景には、経済成長の果実を共有する輪から、非大卒のアメリカ人は外れてしまっており、質の高い仕事は失われ、低賃金に喘いでいる現状がある

  • 現代アメリカでは、資本主義は富を下から上に配分する仕組みになってしまい、民主的な政治による再配分の仕組みを機能せず、アメリカの魅力である「機会の平等」すら脅かされている

と言ったところだろう。この経済と社会の発展から「見捨てられた層」の存在とその問題が深刻化していることと、アメリカ大統領選におけるトランプの躍進は決して切り離すことはできない。

 

アメリカン・ドリームはどこにいった?

「アメリカンドリーム」という言葉はアメリカを象徴する言葉だ。「機会の扉」というのは誰に対しても開かれており、能力と才覚さえあれば誰でも成功することができる、というのはアメリカの魅力であり、私自身も10年以上アメリカに住んでいて感じることだ。
だが薄々は勘付いていたが、どうも私はアメリカ社会の片側でのゲームに興じていただけらしい。そして、もう一方のアメリカでは「機会の平等」が脅かされ、将来に展望を見ることができない人が溢れ、さらに絶望死に追い込まれる人も多くなっているとのこと。そういう人には「Make America Great Again」という言葉は心地よく心に響くのであろう。

 

株主重視主義が生み出す格差

私はファイナンスの部署に勤めているので、アメリカ企業の極端な株主重視の経営姿勢は毎日感じている。会社の利益は、お金をだしている人と経営陣により強烈に吸い上げられるシステムががっちり構築されている。「エリート」としてその仕組みを利用する側には住みやすい国ではあるが、そこに入れる人は極少数だ。私のような一般従業員は株式投資を通して、その仕組みをぷち活用するわけだが、給与を抑えられた非大卒アメリカ人はそのプチ活用すらままならない。そして、そういう人たちは「エリートと政治家ばかりが得をしている」という不平こそあれ、その極端な株主重視や旺盛なロビーイングなどの問題への理解もままならない。なので、「エリート」と「既存の政治構造」を政治家らしくない言動で批判するトランプにやたらと惹かれるのだろう

 

トランプ人気のカラクリ

本書によれば、アメリカでは巨額の資金がロビー活動に費やされている。2018年にはワシントンで1万1654人ものロビイストが登録され、34.6億ドル(140円換算で4,844億円)が投入されたらしい。これは連邦議員一人当たり22人もロビイストがいる計算で、常軌を逸している。
そして、その中には次のようなトランプに100億円以上献金をしているトランプ支持者人たちに雇われたロビイストも沢山おり。

  • イーロン・マスク:自社の成長を支援する規制緩和や税制優遇措置を推進、そして大統領選では懸賞金付き署名活動を実施

  • リチャード・ウイライン:製品の安全基準や環境規制の緩和や自社に有利な税制優遇措置の導入を推進

こうした富豪たちは、ロビー活動を通じて資本主義の仕組みを利用し、民主主義をゆがめている。にもかかわらず、トランプは民主主義を歪めているこれらの行為は棚に上げ、「不法移民」や「グローバル化」といった叩いても一切票の減らないスケープゴートを作り上げ、非大卒白人たちの不満をそちらに向けている
だが、社会的に追い詰められた人々は、トランプが「なんかやってくれるかもしれない」と期待し、その「変革の兆し」にすがっているのだ。

 

アメリカ大統領選を理解するための必読書

アメリカに住んで良いことも色々あり、日本から出ないとわからない日本の問題点も沢山見えてきた。その一方で、10年以上も住んでいると、社会の構造としてのアメリカの問題点も目につくようになってきた。『絶望死のアメリカ』は統計データに基づいて、「他の先進国はもっとうまくやっているのに、なんでアメリカだけがこんなに上手くいっていないんだ」という点を浮き彫りにしている。「アメリカだけがダントツに上手くできていないこと」を知らずに大統領選を読み解くことはできない。
なぜトランプを国民の半数近くの人が指示しているのかが、正直全くわからない、という方は本書は手に取ったらきっと参考になるだろう。読み応えはあるが、その価値が十分にある本だ。

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