Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

5年以上リバウンドなし!理想の体型を実現する三原則

私がダイエットに失敗した数を数えたら、30回はくだらないだろう。そんな数々の失敗を重ねた末に、この肥満大国のアメリカでも、5-6年ほどは自分のなりたい体重と体型を維持できている。きっかけは、体重を減らすことから『良い生活習慣を作ること』に目的を切り替えたことだった。このエントリーでは、私の考えるリバウンドしないダイエットの「基本の三原則」を紹介したい。また、原則からくる「10個の行動指針」については別で紹介する。

 

第一の原則:体重より生活習慣

「体重」は結果であり、大事なのは「生活習慣」

「体重を何キロまで減らす」というのはよくあるダイエットの目標だが、そこを目的化してしまうと、待っているのはリバウンドだ。体重の減少というのはあくまで良い生活習慣の結果である。なので、「体重を減らす」のではなく、「良い生活習慣を作る」ことに注力しなければならない

 

「自分が無理なく続けられる」ことが肝

生活習慣を作る上で一番大事なのは「自分が無理なく続けられる」こと。「低糖質ダイエット」にしろ、「16時間断食ダイエット」にしろ、一時的にやるだけでは意味がない。瞬間最大風速で体重を減らしたところで、元の生活習慣に戻せば、それに紐づく体型と体重に戻っていくだけの話だ(世の中ではこれをリバウンドという)。なので、自分が一生、そして無理なく続けることができる生活習慣を作ることこそが大事だ。

 

「健康的な生活習慣」は、時間をかけて作ることが大事

これさえ気をつければ痩せる」という謳い文句は眉唾だ。人の体型というのは1つの要素のみで決まるほど単純ではない。新しい生活習慣を取り入れ、

  • それが自分のなりたい体型に近づくために効果があるのか

  • それを自分が無理なく継続することができるのか

ということを日々の生活の中で評価をしていかないといけない。色々なことを沢山試して、効果があって自分が無理なく生活習慣として取り入れることができるものを残していけばよいのだ。60分のウォーキングを毎日続けるのは無理でも、15分を4回なら無理なくできるかもしれないし、毎晩の晩酌を全でやめるのは無理でも、週に一日の休肝日ならできるかもしれない。自分が無理なくできる、より健康的な生活習慣に継続的によせていくことが大事だ。

 

自分にあった「健康的な生活習慣」は自分しか作れない

性格、嗜好、仕事の状況、人付き合いのスタイルは人によって様々だ。出張が多い人、在宅勤務をしている人、夜の会食が多い人、それぞれの人によって無理は異なる。人の意見や方法を参考にしたり、色々試すのは良いことだ。だが、「無理なく取り入れることのできる生活習慣」というのは、最終的には自分しか作れない、ということを理解しよう。

 

第二の原則:筋肉量と脂肪量を管理

体重より筋肉量と脂肪量

私の一日は体組成計に乗ることから始まる。が、私は体重は全くと言って良いほど見ない。その代わりに、骨格筋量と体脂肪量を見て、その日の調子を見る。例えば朝の測定値が下記のようだったとする。

  • 体重0.5キロ減、骨格筋量0.3キロ減、体脂肪量0.1キロ増

  • 体重0.5キロ増、骨格筋量0.3キロ増、体脂肪量0.1キロ減

私は後者のように筋肉量が増えつつ、体重も増えていれば、「よし、良い一日のスタートだぜ」となるが、前者のように体重が減っても筋肉量が減ってしまうと、「あちゃぁ、やっちまったか」と感じる。良い体型には脂肪を減らすことが大事で、脂肪を減らすには基礎代謝をあげる筋肉量を増やすことが大事なので、体重にとらわれすぎないようにしている。

 

利益だけみて経営しないように、体重だけみて健康管理をしない

会社の経営を考えると、利益だけ管理している会社は皆無だ。どの会社だって、売上と支出の両方を管理し、ネットの利益の改善をはかる。ダイエットも同じで体重だけでなく、もう一段階解像度をあげて、筋肉量と脂肪量を管理するのが大事だ。そのために体組成計くらいには惜しみなく投資しよう。

 

第三の原則:低糖質ではなく、低脂質

低糖質ブームにご用心

ダイエット業界は空前の低糖質ブームと言っても過言ではない。多くの健康を打ち出した商品のパッケージには「糖質カット!」、「糖質◯◯%オフ!」という文字が踊っている。だが、低糖質だけにこだわっても効果はでない。

 

低糖質より、低脂質が大事

糖質のとりすぎは良くはない。が、優先順位としては、まず脂質をカットし、その上で許容範囲に応じて糖質を減らしていく、というのが正しい。脂質に気をつけず、糖質だけ減らしたって、体型は改善しない。もちろん、ケトーシスになるまで糖質を制限するなら話は別だが、そこまで制限している人は殆どいないだろう。

 

買い物をする時の注意点

私は、一時帰国時にコンビニで何かを買う時は、成分表の脂質を必ず見る。手に取った商品が、

  • 糖質が低いが、脂質が高い

  • タンパク質は高いが、脂質も高い

という場合は購入を躊躇する(勿論、「食べちゃおー」となる時もある)。一方で、

  • 糖質が高く、タンパク質も高いが、脂質は低い

場合は、殆ど気にせず食べてしまう。なぜかと言うと

  • 1グラムあたりのカロリー量は糖質は4カロリーに対して脂質は9カロリーであり、脂質のほうがカロリーが高い

  • 同じカロリー量であっても、代謝や貯蔵の方法の違いから、脂質のほうが圧倒的に脂肪になりやすい

  • 糖質は十分タンパク質をとり、ある程度運動すれば、燃焼されやすいし、筋合成のエネルギーにもないうる

からだ。

 

食品業界の裏側

食品業界の人たちはダイエットには糖質減より脂質減のほうが大事ってわかっていると思う。で、彼らがそれでも低脂質ではなく、低糖質を推すのは、脂質を沢山使えば、多少糖質を落としても美味しいものを作ることは難しくないからだ。
健康的だが美味しさはそこそこのものと、多少健康的だが美味しいものであれば、後者の方が売りやすいのだろう。なので、彼らは脂質への言及を避けた「低脂質」ブームを作っているのではないかと思う。

 

まとめ

以上、リバウンドしない体型維持のための三原則を紹介した。要点をもう一度おさらいする。

  1. 体重よりも「生活習慣」に注力する:無理なく続けられる習慣こそが長期的な成功の鍵

  2. 筋肉量と脂肪量を管理する:体重だけでなく、筋肉量と脂肪量を見て全体を把握する

  3. 低糖質より「低脂質」を意識する:カロリー管理は脂質に注目し、「低糖質」マーケティングに踊らされない

以上参考になり、読んでいただいた方が、なりたい体型と体重に近づいていけたら、こんなに嬉しいことはない。今回の記事では考え方を中心においたので、その原則に従って私が決めている10個の行動原則をまた別記事で紹介するので、乞うご期待。

娘の勧めで読んだ『絶望死のアメリカ』に垣間見るトランプ人気の背景

娘が選んだ一冊:『絶望死のアメリカ』

日本で受験勉強中の娘は予備校で勧められた本をよく購入する。自分では買わないなぁ、という本がたまに購入されるので、結構楽しみにしている。先日も、Kindleでの書籍購入通知がメールで飛んできた。¥3,800、なかなか高い本を買うじゃねーか、娘。そして、本のタイトルは『絶望死のアメリカ』、総ページ数352ページ。これは読み応えがあり、面白そうな本だと思い、読み始めたら、やはり当たりであった。でかした、娘。

 

見捨てられた非大卒アメリカ白人層

この大作の要点を思い切ってまとめてしまえうと、

  • 現代アメリカにおいて、非大卒白人アメリカ人の自殺、薬物、アルコールによる死亡(本書では絶望死と定義)は、飛躍的に伸びている

  • 背景には、経済成長の果実を共有する輪から、非大卒のアメリカ人は外れてしまっており、質の高い仕事は失われ、低賃金に喘いでいる現状がある

  • 現代アメリカでは、資本主義は富を下から上に配分する仕組みになってしまい、民主的な政治による再配分の仕組みを機能せず、アメリカの魅力である「機会の平等」すら脅かされている

と言ったところだろう。この経済と社会の発展から「見捨てられた層」の存在とその問題が深刻化していることと、アメリカ大統領選におけるトランプの躍進は決して切り離すことはできない。

 

アメリカン・ドリームはどこにいった?

「アメリカンドリーム」という言葉はアメリカを象徴する言葉だ。「機会の扉」というのは誰に対しても開かれており、能力と才覚さえあれば誰でも成功することができる、というのはアメリカの魅力であり、私自身も10年以上アメリカに住んでいて感じることだ。
だが薄々は勘付いていたが、どうも私はアメリカ社会の片側でのゲームに興じていただけらしい。そして、もう一方のアメリカでは「機会の平等」が脅かされ、将来に展望を見ることができない人が溢れ、さらに絶望死に追い込まれる人も多くなっているとのこと。そういう人には「Make America Great Again」という言葉は心地よく心に響くのであろう。

 

株主重視主義が生み出す格差

私はファイナンスの部署に勤めているので、アメリカ企業の極端な株主重視の経営姿勢は毎日感じている。会社の利益は、お金をだしている人と経営陣により強烈に吸い上げられるシステムががっちり構築されている。「エリート」としてその仕組みを利用する側には住みやすい国ではあるが、そこに入れる人は極少数だ。私のような一般従業員は株式投資を通して、その仕組みをぷち活用するわけだが、給与を抑えられた非大卒アメリカ人はそのプチ活用すらままならない。そして、そういう人たちは「エリートと政治家ばかりが得をしている」という不平こそあれ、その極端な株主重視や旺盛なロビーイングなどの問題への理解もままならない。なので、「エリート」と「既存の政治構造」を政治家らしくない言動で批判するトランプにやたらと惹かれるのだろう

 

トランプ人気のカラクリ

本書によれば、アメリカでは巨額の資金がロビー活動に費やされている。2018年にはワシントンで1万1654人ものロビイストが登録され、34.6億ドル(140円換算で4,844億円)が投入されたらしい。これは連邦議員一人当たり22人もロビイストがいる計算で、常軌を逸している。
そして、その中には次のようなトランプに100億円以上献金をしているトランプ支持者人たちに雇われたロビイストも沢山おり。

  • イーロン・マスク:自社の成長を支援する規制緩和や税制優遇措置を推進、そして大統領選では懸賞金付き署名活動を実施

  • リチャード・ウイライン:製品の安全基準や環境規制の緩和や自社に有利な税制優遇措置の導入を推進

こうした富豪たちは、ロビー活動を通じて資本主義の仕組みを利用し、民主主義をゆがめている。にもかかわらず、トランプは民主主義を歪めているこれらの行為は棚に上げ、「不法移民」や「グローバル化」といった叩いても一切票の減らないスケープゴートを作り上げ、非大卒白人たちの不満をそちらに向けている
だが、社会的に追い詰められた人々は、トランプが「なんかやってくれるかもしれない」と期待し、その「変革の兆し」にすがっているのだ。

 

アメリカ大統領選を理解するための必読書

アメリカに住んで良いことも色々あり、日本から出ないとわからない日本の問題点も沢山見えてきた。その一方で、10年以上も住んでいると、社会の構造としてのアメリカの問題点も目につくようになってきた。『絶望死のアメリカ』は統計データに基づいて、「他の先進国はもっとうまくやっているのに、なんでアメリカだけがこんなに上手くいっていないんだ」という点を浮き彫りにしている。「アメリカだけがダントツに上手くできていないこと」を知らずに大統領選を読み解くことはできない。
なぜトランプを国民の半数近くの人が指示しているのかが、正直全くわからない、という方は本書は手に取ったらきっと参考になるだろう。読み応えはあるが、その価値が十分にある本だ。

新卒で入った会社をすぐに辞める人が理解しておくべきこと

先日とあるYouTubeの番組で「【新卒】すぐ退職するってダメ?自分にあった働き方とは?」という企画をやっていた。厚生労働省の調べによると、大学を卒業した新卒の32.3%が3年以内に会社を離職する模様。この傾向はここ30年くらいは変わらないようだ。3割が3年以内でずっと辞めているという統計は、若者の我慢強さも変われなければ、いつの世も長く勤めるに値しない会社が沢山あるという現実を表している。

私は、日本で働いている時は新卒の後輩から不思議と頼りにされ、転職などの相談を受けることが多かった。私は別に3年以内に離職をすることが悪いこととは思わない。他によりよい将来の展望が開けていればチャレンジしろよって思う。ただ、相談された際はいつも、辞める判断をする前に考慮すべきこと、理解しておくべきことを伝えていた。今回はそのポイントを短くまとめて紹介したい。

 

片道切符か、往復切符か

「転職先は、今勤めている会社と比べて知名度が低く、規模の小さい会社か?」という問いへの答えがYesなら片道切符、Noなら往復切符だ。往復切符なら、今回の転職がうまくいかなかったとしても、同程度の規模・知名度の会社に転職できる可能性が残るためリスクはそれほど高くない。が、片道切符なら、それ以上の規模・知名度の会社への転職は飛躍的に難しくなる。

既に手に職がついており、自らの専門性で食っていける実力が備わっていれば、あまり片道、往復にこだわる必要はないが、まだそれほどの専門性がない場合はその切符が片道か、往復かはちゃんと理解した上で判断した方がよい

今回が片道切符の場合は、次の会社がもしあわなかった時はさらに行先の限られた片道切符しか買えないということを理解しておこう。要するに結構リスクの高い賭けにでているってことだ。

 

将来性の下駄を履けるのは新卒だけ

新入社員面接で、今までの経験をどんなにアピールしようが、採用側はあなたの経験が直接仕事に活きるなんてこれっぽちも考えていない。その時点では何もできない新卒の将来性を判断するのが新入社員面接なのだ。

言い換えれば、新卒の面接は「何ができるか」は殆ど求められず、将来性という高い下駄を履いて勝負をしているのだ。その将来性プレミアムを最大限活用して到達できたのが今のあなたの勤め先であることは理解しておいてほしい。

初めての転職の際に下駄の高さは間違いなく新卒採用の20%くらいしかないだろう。減ってしまった80%を埋めるものは何か。それは専門性と経験だ。自分が仕事を通してえた専門性と経験は、失った将来性プレミアムを埋めるに十分であれば問題ないが、まだ何もえていないのであれば少ないカードでのゲームを強いられる、即ち選択肢が狭くなることは理解しておこう。

 

ジョブホッパーになるリスク

きれいな履歴書、汚い履歴書って表現が転職業界にはある。色々な要素があるが、「一つの会社での在籍期間が短く、転職経験の多い」ことをジョブホッパーと言い、短い勤務経歴が履歴書に入ることを、「履歴書が汚れる」という。要するに、新卒の会社を3年以内で辞めることは履歴書を汚すということだ。世の中きれいであるばかりがいいことではないが、きれい好きが多いってことは理解して欲しい。

ジョブホッパーというのは、中途面接では嫌われる。複数の会社で働いた幅広い経験が高く評価されることはあまりなく、「どこの会社でも高く評価されることはなかった人」とか、「しんどい局面でそれを打破する踏ん張りのきかない人」というような目で見られることが多い。

新卒として入った会社を3年以内で辞めるということは、ジョブホッパーにリーチがかかるということだ。今回の転職がそういうリスクを犯しても決断すべき魅力あるものか、十分に評価した方が良い。

 

「早すぎる最適化」になっていないか

「好きを貫け」、「喜んで週末働きたくなるような仕事を選べ」とか、色々言われている。そういうことを聞き、「今の自分の仕事は本当にやりたいことではないのではないか」とか、若者が色々思い悩むのもよくわかる。ただ、今の会社がつまらなく思え、外の機会に対する期待感が膨らみ、「自分はもっとやりたいことがある」という思いが大きくなった時、それが「早すぎる最適化」ではないか自問して欲しい。

「やりたいことを追い求め、キャリアのゴールに一直線に進む」というのは聞こえはいいが、「そのゴールが正しいのか」、というのは結構難しい問いだ。入社3年以内の経験というのは、その問いに答えるにはかなり心もとない。とりうるオプションが沢山あり、自分の可能性に一定のあたりがつくと、最適化をしやすくなるが、限られた選択肢の中で、自分が何者かよくわからない状況で、最適化を試みるのはキャリアにおいては博打的要素が強い。そういうリスクは理解しておいたほうが良い。

 

嫌いと付き合うのが会社員

「人間関係で退社を決意」っていうのは良く聞く。冒頭で紹介した動画にもそういう人がでてきた。が、だるい人間関係が存在しない会社なんてそうそうない

そもそも会社員っていうのは、「嫌い」と付き合う職業と言っても過言ではない。今の会社の人間関係、非効率性、無駄に嫌気がさして辞めたとしても、転職先が自分と気の合う人たちばかりで、効率的な最適化された職場なんて保証は何もない。というか、多かれ少なけれそういうものと付き合うのが会社員って職業だ。だから、転職の面接の際は、自分の異なる性格・利害関係の人と上手くやり、組織の抱える非効率的な面を短期的にはいなし、中長期的には解決した実績がある人が評価される。

どうしても「嫌い」と付き合うのが苦手な人はフリーランスや起業という道もある。もちろん、そこには専門性と経験が求められるし、会社組織では人事や総務がやってくれていた、だるい事務を自分でこなさないといけないという新たな非効率性がでることは理解しないといけない。

 

まとめ

以上、新卒で入った会社をすぐに辞める人が理解しておくべきことを紹介した。リスクを散々あげたので誤解されるかもしれないが、私は新卒で入った会社をすぐに辞めてはいけない、なんてことは言っていない。冒険家の角幡唯介さんの言葉だが、「後悔しないのは決断できた人生で、後悔するのは決断できなかった人生だ」と思う。自分のキャリア、自分の人生なんだから自分が主体性を持って決めればよい。
ただ、起こり得るリスクを事前にそれなりに認識した上で決断をすることは必要、と言っているだけだ。想定されていたリスクが顕在化しても、それは自分の決断なので、きっと乗り越える活力も生まれるだろう(生まれるべきだ)。が、「こんなはずじゃなかった」となってしまうと、折角の決断が後悔につながりかねない。
抑えるべきところ抑え、色々な人の意見や話を聞き、自分のキャリアと人生を前に進めるために熟慮断行して欲しい。Good Luck。

外資の人事制度PIPでやらかした話

PIPって何だ?

外資系企業に勤めている人にとってPIP(ピップと読んだりする)はあまり気持ち良い言葉ではない。Performance Improvement Planの略で、日本語に訳せば業務改善計画だ。あまり成果のでていない従業員に対して、改善プランを策定し、そのプランに従って改善できれば良いし、改善できなければ「残念ながらさようなら」という結果になってしまう。

血も涙もないと感じる人もいるかもしれないが、血も涙もある生身の人間がやっているわけだから、このプロセスはマネージャ側もとてつもなく苦痛だ。PIPがあまりに大変なので目を瞑っている人だって沢山いるはずだ。が、リソースと予算を預かっているマネージャは、チームとして高い生産性を維持する責任が伴う、なので一定レベルを超えれば見過ごすわけにはいかない。

 

私の部署の問題児

私が採用した人のうちの一人が期待値をかなり下回る成果しかあげられないという辛い事態が発生した。上司からは半年くらい前から「彼の成果が全く見えてこないんだから、マネージャとして必要なアクションをとれ(要するに早くPIPをやって、きってしまえ)」とプレッシャーを受けていたのだが、採用した者の責任もあるので、フォローしまくって何とか彼が立ち上がるように全力を尽くしてきた。
その彼が3週間夏季休暇をとったので、私の同僚に懸案の彼のパフォーマンスについて率直に意見を聞いてみた。信頼できる同僚のフィードバックは「彼は全然頼りにならないので、彼には仕事は頼めない」、「あなたは、彼の仕事を代わりにやってあげてるだけよ」という容赦のないものばかり。
おまけに彼が休暇をとったのは半期がしまった直後という私の勤めるファイナンスでは最も忙しい時期。そんな時期に休みとんなよ、というのもあるが、私がそれ以上にショックだったのは、そんな忙しい時期に彼がいなくても大して困らなかったのだ。勿論、仕事は増えるには増えるが、彼に任せて、レビューして、修正依頼をして、言葉に気を配りながらフィードバックして、またレビューと修正を繰り返すことと比較すると、いわゆる「自分でやったほうが早いし、クオリティも高い」という状態であった。
これは流石にいかんと覚悟を決めてPIPを実施することに。

 

並行して走っていたリストラプログラム

が、微にいり細にいり全精力を投じて指導してきたので、PIPで設定する改善プランを彼がクリアできないのは正直自明であった。実は、リストラ・プログラムが裏で並行して進行しており、リストラのリストに彼を載せることもできた。リストラとPIPの違いはざっくり言うと、

  • リストラは会社都合でスパーンと解雇できる。PIPは、どの期待値を満たしていなくて、何故見込みがないと判断したのか、などの説明が必要で、それなりの期間が必要であり大変。が、PIPは挽回のチャンスもある。

  • リストラは通告を受けた日にいきなり失職するが、PIPは評価の期間の間は会社に属し、給与を受け取ることもできる。次の職を見つけるまでの助走期間はPIPの方が長めにとれる。

  • また、通告を受けた日に失職すると医療保険が失われる。特に彼は子供が5人もいて、そのうちの一人は病気がちで通院をしている。医療費が天文学的に高いカリフォルニアで、医療保険がないのはかなりきつい。

  • リストラをするとカリフォルニア州の場合は、会社都合で不要なポジションを削減するというような位置づけになるので、後任の採用に色々制約がでる。

正直なところを言うと、転職期間を長めにとってあげ、かつ医療保険も一定期間は確保してあげたい、という手心が働いて、上司に頼んでリストラのリストから外してしまった。本来であれば会社の中でリストラされる人が大勢いるのだが、心を鬼にして見込みがないのであればリストにのせるべきであった(猛省)。そして、結果としてはそれが裏目にでることになる。

 

パフォーマンスレビュー

四半期に一度パフォーマンスレビューをしており、その度に評価をだす。評価は下記の5段階。

  • Exceptional(期待を大幅に上回る)

  • Exceeds Expectations(期待を上回る)

  • Meets Expectations(期待通り)

  • Partially Meets Expectations(部分的にしか期待を満たさない)

  • Did not Meet Expectations(期待を全く満たさない)

彼の前四半期の評価は”Partially Meets Expectations”であり、今期も残念ながら同様の評価。2期連続この評価というのは明らかにパフォーマンスに問題があることを意味するので、彼も必死に自分はもっとできているはずだと抗弁する。なので、何ができていなく、どこが期待値と乖離していたのか懇切丁寧に説明をすることになる。「同意は全くできないが、君のいいたいことはわかった」と憮然とした表情を浮かべる彼。そして、評価を終えた後に、

  • 残念ながら、君はPIPに入ることになる。

  • 勿論、パフォーマンスがプランに即して改善すれば、そのまま一緒に働けるが、著しい改善がみられなければ、失職することになる。

  • 正直、これまでの結果を見ていると、期待値を満たす成果をあげることはかなり難しいと思うし、今の仕事は君にとってベストフィットではない。

  • これは、飽くまで個人的な助言であるが、PIPの期間は長めにとれるように善処するから、別の職を探した方が良い。

彼は決して能力が低いわけではないのだが、やはり向き不向きというものがあり、現在の役割は不向きであった。彼も自分が期待通りの成果をだせていないことは自覚していたであろうし、前四半期の評価を伝える段階でかなり覚悟をしていた部分もあるであろう。
勿論、憮然とした表情を浮かべ、期待値に到達できるように善処をしたい、という殊勝な発言を残してはくれた。

 

やっぱり吐きそうになるPIPの実際

PIPにはそれなりに準備が伴う。期待値を客観的に判断できるように記載して合意をしないといけない。1週間くらいでPIPを作成しようと、通常業務に追加して気の乗らない作業をしていた。
一方でPIPいりを通告した彼とも毎日顔を合わせ、今まで以上に日常業務の中でフィードバックをしていかないといけない。

  • 頼んだ作業の結果のどこが期待値と異なり、どんな知識が求められているのか

  • 他部署との会議で自分の担当エリアについて正確な受け答えができなかった際に、どういう知識を元にどういう発言をすべきだったのか

などを適宜フィードバックをしていくのだが、彼も都度都度「いや、あそこでああ言ったのは、自分なりにこういう狙いがあった」などの抗弁をし、それを一つ一つ丁寧に説明していく。この作業はかなり苦痛である。が、彼もその間は能力的には不十分ながらも一生懸命はやっていた。
PIPを正式に早く正式に回さないといけないが、作成したPIPに対してもきっと一悶着あるので、正直かなりだるい。が、彼を採用したのは私なのだから、そこは責任をもって対処をしないといけない、と自分に言い聞かせ、気の滅入るフィードバックを毎日続けていきつつ、PIPをを作成したいた。

 

そして、顛末は

「あぁ、こんなことを3ヶ月近く続けていくのか」と目眩がしそうな時に、彼から添付ファイルのついた一通のメールが「FYI!」というメッセージだけ添えられて送られてきた。なんだろうと思ってファイルを開くとそれは医師の診断書であった。

「あぁ、やってくれたな、、、」

診断書を目にした私

そう、彼は医師の診断書をとって3ヶ月の傷病休暇を取得したのだ。この期間は少なくとも仕事は一切しなくてよく(というかしてはいけない)、彼は就職活動にフォーカスできるわけだ。これが転職活動に集中するためなのか、なるべく退職を先に伸ばそうという狙いなのかは正直わからない。

勿論、彼の仕事も含めてその間は全て私が対応しないとけないので、仕事量は間違いなく増える。決して責任のある態度とは思わないが、ジョブセキュリティの厳しいアメリカ社会で家族を養わないといけない者として、気持ちはわからなくはなく、それ程腹は立たなかった。

いや、むしろ私はそのメールを受け取って、
「あぁ、これでしばらく、仕事にフォーカスできる」
とホッとしたのだ。正直、都度都度フィードバックをして、「自分はもっとできているはずだ!」と抗弁をし続ける彼の相手をする未来に吐きそうになっていた私。先延ばし感は若干漂うが、前向きな仕事に短期的にフォーカスできることに安心したのは事実だ。

先のことはどうなるかわからないが、今はとにかく
「この3ヶ月で良い仕事を見つけてくれ!」
の一念である。

 

まとめ、そして教訓

なお、この顛末を人事に報告したところ、

  • PIPに入る時はやはりPIPの書類を完成させて、向こうにボールを投げた状態にするのがやはり安全。

  • 今回のように、通達はしたが、まだこちらにボールがある期間があると、従業員は色々手が打てるから注意が必要。

  • 気持ちはわかるし、難しいところだが、「職探しを勧める」のは少し危険だし、相手の警戒度をマックスまでたかめ、この手のアクションに誘導してしまいがちだから注意が必要。

というごもっともな助言を頂いた。また、一つ学びを得たと思って頑張ろう。彼にも就職活動を是非頑張って欲しい。

アメリカを先行する日本の給食無償化—公平な食事の未来へ

「米がない」、息子の昼食の危機

息子:あれ、米ないじゃん

アメリカに住んでいても主食は白米のわが家。晩御飯の支度をしている時に、米がないことが発覚し、買いに行くにはもう時間が遅く、その日の夕食はパスタに切り替えてしのいだ。問題になるのは次の日の朝食と昼食。高校生の息子は生粋の米党であり、昼食には、白米、そぼろ、自作の味付け卵を毎日持っていっている。

 

私:あぁ、明日の昼飯どうしようか、ベーグルならあるけど。
息子:まぁ、そんな嫌いじゃないから、カフェテリアでいいよ。
私:そう、じゃぁそうしてくれる。お金いくらあれば良い?
息子:え?無料だからお金いらないよ。

そうだった、カリフォルニア州では幼稚園から高校生までカフェテリアでご飯が無料で提供されているのだ。これが、昼食だけでなく、なんと朝食まで対象となっているからすごい。

 

カフェテリアのメニュー

なお、今週の昼食のメニューは下記のような感じ。

毎日提供されるメニュー:
ピザ(チーズ、ペパロニ、またはフレンチブレッド)
デリサンドイッチ
チキンシーザーサラダ
ヨーグルト、マフィン、チーズスティック
ハンバーガー(レタスとトマト付き)
ビーンズ&チーズ・ブリトー

今週のスペシャルメニュー:
月曜日: チキンドラムスティック(手羽元)とワッフル
火曜日: チキンナゲットとクラッカー
水曜日: オレンジチキン&ライス
木曜日: クリスピーチキンサンドイッチ、プルドポークサンドイッチ
金曜日: チーズスティックとマリナーラソース

まぁ、レストランのキッズメニューっぽく、食材に偏りがあることは否めないが、週ごとにスペシャルメニューがあり、オレンジチキンなどのアジア料理もあり、健闘していると思う。

カリフォルニア州の無料給食制度

このカリフォルニア州の制度はユニバーサル・ミール・プログラムというが、コロナ禍で連邦政府主導が実施したプログラムを恒久化したもの。なお、

When access to meals is not publicly tied to poverty, students are less likely to skip a meal if they need one. School Meals for All has led to reduced stigma, more students eating school meals, and eliminated unpaid meal debt in our state.
無料カフェテリアの利用が低所得によるものだとわからない場合、生徒が食事を抜く可能性は低くなり、必要な食事をよりとることができるようになります。この『School meals for All』プログラムにより、スティグマ(恥の意識)が軽減され、より多くの生徒が学校給食を利用するようになり、州内で未払いの給食費がなくなりました。
参考

所得制限なしに全ての生徒に無料の食事を提供するというプログラムであるが、「学校のカフェテリアを無料で利用=貧乏な家の子供」ということがわからなくなるという点が重要だ。「あいつんち、貧乏だからカフェテリアの飯食ってるぜ」なんて見方を同年代の子どもたちから浴びせられることは、年頃の子供には耐えられない。そういう事態を避けるためにあえて所得制限を撤廃したところ、低所得層の利用率は格段にあがり、そして学業への良い効果も出ているようだ。

日本の給食制度とその歴史

アメリカのカフェテリアを見ると、どうしても日本の給食と比べてしまう。

  • 子どもたちが自らの手で用意や片付けをする

  • みんなが同じ食事を一緒に食べる

  • バラエティに富み、より栄養学的な配慮もされている

など、日本の給食の素晴らしさを強調してしすぎることはない。
が、上記のようなことは在米日本人に既に語り尽くされていることである。新たな給食の知見をえるために、『給食の歴史』を手にとってみた。

 

本書は日本の給食の歴史を振り返りつつ、

  • 子どもたちに栄養価の高い食事を提供し、飢えのない社会の実現のために給食の果たしてきた役割

  • アメリカの余った小麦の受け入れ先としてのパン給食の導入、また余剰米の消費先としての米飯給食へのより戻しなどの政治的な意味合い

  • 行革の対象として合理化・民間委託に伴う、質の低下と保護者の反対と社会運動

  • 欧米と異なり「食育」という教育の一環として位置づけられた日本の給食の独自性

など、網羅的かつ俯瞰的に給食の歴史を振り返る盛りだくさんの内容。自分の経験からしか見たことのなかった給食の様々な側面を立体的に浮き上がらせる力作であった。

 

あらためて日米の給食について考える

アメリカに来て、子どもたちから聞くアメリカのカフェテリアの現状を聞く度に、日本の給食の素晴らしさを再認識してきた。ハンバーガーやピザなどの偏ったメニュー、自分で掃除をしないので食事やゴミの散乱するカフェテリアの床、などの話に眉を潜めてきた。

が、カルフォルニア州のユニバーサル・ミール・プログラムや日本の給食の歴史を見て、最近は少し違う感じ方をしている。「食育」まで射程にいれた日本の給食制度は確かに素晴らしい。が、それには当然コストが伴うわけで、合理化によって低コスト・低負担を追求するか、質を求め充実と教育的効果の充実をはかるか、常にいったりきたりしてきた歴史もある。

給食の歴史とカリフォルニア州の現状をみると、まずは貧困家庭の子供が心に後ろめたいことを感じることなく給食を食べることができることが一番大事なのではないかと思う。
日本では多くの全国で3割の自治体が小中学校で無料給食を実現しているため、給食費未納は徐々には減ってきているが、2018年の調査では42%の学校に給食費未納の家族がいるという。衣食足りて、食事の質や教育効果に目が行くのは自然の流れではあるが、まずは給食無償化の実現があり、その後で質や効果を問うのがあるべきだと感じている。

 

まとめ

日本の給食制度は、食育を通じて子どもたちに栄養バランスの取れた食事を提供し、子どもたちの成長を支えてきた。アメリカではカリフォルニア州を含めユニバーサル・ミール・プログラムを9つの州が実施している拡大を続けている。一方で、日本ではすでに3割の自治体が無償化を進めており、食事と教育を結びつけた取り組みという点で世界的に見ても大変優れており誇らしい。今後、無償化をさらに推進し、貧困の有無に関わらずすべての子どもが公平に給食を受けられる環境を作ることが重要だ。日本はその道をさらに切り開き、世界の給食モデルケースとして注目される存在になっていってほしい。

グリーンカードの再入国許可証

日本の大学に進学する子どもの永住権

私の娘は日本の大学を受験するために現在日本に滞在している。娘はアメリカ永住権、いわゆるグリーンカードを持っているのだが、アメリカ国外に6ヶ月以上滞在するとグリーンカードの保持意思を疑われ、場合によっては没収となる。
まだ、日本で就職するか、アメリカで就職するかはわからないが、学生の間は将来の選択肢を増やすためにグリーンカードを維持することを親としてはサポートしてあげたい。あれこれ調べてみると「再入国許可証(I-131 Reentry Permit)」というのを取得すると、アメリカ国外に少なくとも2年は滞在でき、場合によっては2年間の延長も可能とのこと。受験期間を含めると結局4年間を越してしまうのだが、将来の選択肢は多いほうがよいので、取得することにした。このエントリーでは、同じ境遇で同じことを考えている方のためにわが家の経験をまとめたい。

 

「再入国許可証(Reentry Permit)」とは

「再入国許可証(I-131 Reentry Permit)」について要点をまとめると下記のとおり。

  • 目的: 1年以上アメリカ国外に滞在がする場合、グリーンカードの維持するために申請する手続き

  • 有効期間:通常2年間有効。

  • 再申請の可能性: 有効期間が切れる前に新たに申請し、受理されればさらに2年間更新が可能だが、審査の上却下される可能性もある。

 

「再入国許可証」の申請手続き

移民局のサイトでアカウントの作成

以下が「再入国許可証」の申請のための移民局のサイト。まずは娘にUSCISのサイトでアカウントを作ってもらった。

Application for Travel Document Use this form to apply for a reentry permit, refugee travel d www.uscis.gov  

作成日:2024年3月24日

申請書類の作成と提出

申請は移民局のサイトでオンライン申請できるので便利。

Forms Available to File Online | USCIS This page lists the USCIS forms that are currently ava www.uscis.gov  

上記のサイトで「I-131 | Application for Travel Document」という箇所の「File Online」というボタンをクリックすると申請フォームがでてくる。それ程難しくなく、30分もかからず提出できる。
耳慣れない言葉で、「Refugee Travel Document」と「Advance Parole Document」という言葉がでてくる。それぞれ、「難民渡航許可証」、「事前渡航許可証(GCやVISAが手続き中の人のためのもの)」といった感じのものでグリーンカード保持者には関係ないので、この部分は無視して構わない。

アカウントを作成すればすぐに申請できる。

作成日:2024年3月24日

申請料の支払い

「再入国許可証」の取得には申請料が発生する。これが思いの外高い。わが家が申請した際は、申請料が$575であり、後に指紋を取得するのでその際の「生体認証サービス料」が$85と合計$660。が、これはわが家が手続きをした際の値段であり、2024年10月時点では申請料が$630に値上がりしているようだ。なかなか強気な価格だが、No Optionなので仕方がない。オンラインでの支払いができず、チェックを郵送した。不便。

送付日:2024年3月24日

申請料の受取通知受領

移民局の手続きはご丁寧に経過報告や通知が書面にて届く(”Form I-797C, Notice of Action”)。今回は申請料と生体認証サービス料の受領書を受け取った。
2024年3月24日にこちらから書類を郵送したものを、3月27日にUSCISが受領し、受領通知書類が4月2日に発送され、4月9日にわが家に到着した。2週間と少しで届いたのでこれはかなり早かったのではないか。

受領日:2024年4月9日

予約通知書の受領

上記の受取通知書と同じ日に生体認証の予約通知書が届く(これも”Form I-797C, Notice of Action”)。ここには、ACS(Application Support Center - 申請手続きセンター)の住所と予約日時が記載されている。「この日、この場所に来い!」というピンポイント指定。一応予約変更もできるようだが、予約変更にどのくらいかかるかわからないし、その変更手続きもきちんとなされるかわからないので、「予定を調整して、指定日時に行く」の一択だと思う。
持参する持ち物として下記が記載されている。

  • 送付された予約通知書

  • 写真付きのID(グリーンカード、パスポート、運転免許証、など)

  • 記入済みのAIS (Application Information Worksheet - 申請書)

AISは予約通知書に同封されている。氏名、性別、生年月日などのかなり基本的な内容なので、恐れるに足らず。

生体認証の取得

予約通知書で指定された場所と日時に行き、指紋をとる。死ぬほど待たされることを覚悟していったが、30分もかからずスムーズに終わった。この際に予約通知書は回収されてしまったので、事前にコピーなどをとっておくと後々安心。

手続き日:2024年4月19日

申請開始から指紋の取得まで1ヶ月弱で終わり、正直思ったよりスムーズであった(他で散々な目にあっているので)。

その後の話

こちらでできる手続きをとりあえず全て完了させ、娘は日本に旅立っていった。次にアメリカに戻ってくるのはいつのことやら。大学受験頑張れよ。
娘の帰国に伴うばたばたで、しばらく本件のことを失念していたが、よくよく思い出して見ると、そう言えばその後音沙汰ない。
それこそ、半年近くたっているので、流石に何もないのは不安なので調べてみた。

ステータス確認ページ

下記で自分の申請のステータスを確認できる模様。

https://egov.uscis.gov/casestatus/landing.do

その際に”Receipt Number"の入力が求められる。I-797C(申請料の受取通知書と予約通知書の両方)に記載されているので、それを上記のウェブフォームに入力すれば良い。”Receipt Number"を入力し、えいやぁ、とボタンを押すと下記のステータスが表示された。

Case Was Updated To Show Fingerprints Were Taken
As of April 19, 2024, fingerprints relating to your Form I-131, Application for Travel Document, Receipt Number LINXXXXXXXXXX, have been applied to your case. If you move, go to www.uscis.gov/addresschange to give us your new mailing address.
ケースステータス:指紋取得済み
2024年4月19日時点でForm I-131(再入国許可証)についての指紋は手続きされました。もし、お引越しの場合は新しい住所を提出してください。

一応、指紋は取得済みとなっているのは安心。が、それ以上の情報はない。この後どれくらいかかるんだよ。

通常処理時間確認ページ

おそらく、「どうなってますか?」という問い合わせが多いのだろう。下記のページで大体どのくらいの時間がかかるのか確認することができる。

https://egov.uscis.gov/processing-times/

色々な申請内容の通常処理時間が表示できるようで、選択肢が色々ある。とりあえず、該当する「I-131」と「Reentry Permit」を選択する。おや、「処理センター」の選択も求められる。どこで手続きされるなんてこちらの知るところではないが、Nebraska Service Centerしか表示されないので、その一択を選択して、”Get Processing Time”ボタンを押す。すると、

I-131は通常14.5ヶ月かかります

ちーん、えっ!?14.5ヶ月ですか?えらいかかりますね。同じページ下部に”Receipt Date"を入力して、見込みの時間を確認できる箇所がある。どの日付を入力すれば確かではなかったが、指紋の取得日である4月19日を入力すると。

要するに、

  • 2025年7月30日より前に問い合わせをすることはまかりならん

  • 処理時間は状況によって変わるのでたまにチェックしてね

とのこと。結局、出国後1年経っても、再入国許可証が発行されない可能性が高いということらしい。その間に娘がアメリカに帰国することがある場合は、下記の文書のコピーは持たせたほうが良いな。

  • I-797C:申請料の受取通知書

  • I-797C:予約通知書

  • 上記のステータス確認ページのプリントアウト

  • 上記の通常処理時間ページのプリントアウト

U.S. Customs and Border Protection(アメリカ合衆国税関・国境警備局)による入国審査は担当官のさじ加減が経験上大きい。私は比較的丸腰で行って、別室送りに二度ほどなっている。きちんと準備をしていけば、誠意が伝わって入国を許可してくれやすくなる、というのは人間同士なので、かなりあるように思う。娘には鉄壁の準備で臨んでもらおう。

10年経ったオバマケア:成果と課題

ACA(Affordable Care Act)と言われても何のことかわからないという日本人は多いのではないか。通称でオバマケアと言われるやつだ。2010年から施行され、2014年から本格的に運用が開始され、今年で10年ほど経つ。だが、当時は注目を集めた割にはその話はその後あまり聞かない。トランプが大統領になった際に廃案になるだろうなんて話を職場で同僚と話したことがあるが、アメリカ人との話で話題にあがることは殆ない。最近読んだ本の一部を引用しながら、現状をまとめてみたい。

 

オバマケアの成果はあったのか

CDCの資料によると2010年の全米の無保険者は4860万人(全体の16.0%)であったが、2023年時点では2500万人(全体の7.6%)まで減少したという。施行以後、無保険者が半分以下になり2400万人近い人が健康保険を手にしたというのは大きな成果だろう。国民皆保険という状況にはまだ遠いが、大きな成功を収めていると言っても過言ではない。

 

州ごとに異なる無保険者率

以下は州ごとの無保険者率を表した図でリンク先に行くと州ごとの比率を参照できる。一番低いのはマサチューセッツ州の2.8%であり、高いのはテキサス州の18.9%。ちなみに私の住むカリフォルニア州は7.5%、そして以前住んでノースカロライナ州は11.3%。

https://www.kff.org/uninsured/issue-brief/key-facts-about-the-uninsured-population/

何で、同じ国なのにこんなに州ごとに差があるのか。最近読んでいるポール・クルーグマンの本では以下の指摘がなされる。

どこで差がついたのか? 根っからの民主党州であるカリフォルニアは、知事も州議会も民主党で、オバマケアを機能させるべく手を尽くした。メディケイドを拡張し、独自の市場を運営し、人々を保険に入らせようと頑張った。共和党配下のノースカロライナ州は何もしなかった。

『ゾンビとの論争 経済学、政治、よりよい未来のための戦い

州の色が青か赤かで変わるとのこと。オバマケアの内容は、中央政府はガイドラインや補助金を出し、運用そのものは州政府が担う。オバマケアを活用し、保険マーケットプレイスやメディケイド(低所得者向けの健康保険)を拡大したカリフォルニア州は大幅に無保険者を削減したが、オバマケアを拒み、折角の補助金も活用していないテキサス州やノースカロライナ州は以前無保険者が多い。アメリカは異なる自治を持つ州の集合体であることが色濃く出ている。

 

そもそもオバマケアって何なのか

アメリカの健康保険の構造

オバマケアって何なのかを理解するためには、まずアメリカの健康保険の構造を理解しないといけない。

https://www2.census.gov/library/publications/2024/demo/p60-284.pdf

 

上記は民間保険に加入している人と公的保険に加入している人の数を表したもの。ざっくり言うと、”Any private plan(民間保険)”が2億人で、”Any public plan(公的保険)”が1億人で、公的保険を利用してない人が半数以上だ。オバマケアが導入されても、この大きな構造は変わっていない、というのは大事なポイント。
ちなみに私はどこに位置するのかというと、”Employment-based"の中におり、勤め先の提供する福利厚生を活用して健康保険に加入しており、このグループが実はアメリカでは一番多い。”Any public plan”の下の”Medicare"は高齢者向けの公的保険、”Medicaid”は低所得者向けの公的保険であり、これらもアメリカの健康保険の主要な部分に新しい。
で、それらに当てはまらない人は自分で民間の保険会社から直接購入しないといけない。そういう「福利厚生で健康保険を提供しているような大きな会社には勤めておらず、かつMedicaidを受給するほど生活が困窮していない」人たちは高額な健康保険になかなか手が出ず、少なくない人たちが無保険者となっていたのだ。そこの部分をパッチワークでもよいので解決しようというのがオバマケアだ。

 

オバマケアの4つの施策

具体的に何をしているのかと言うと、まずは「保険加入の義務化」。「とにかく全員入れ」というもので、当初は罰金があったが、トランプ政権で罰金が撤廃されたため、義務化の効果は若干薄れてしまった。
そして次に、低所得者向けのMedicaidの拡大。中央政府から州政府の補助金を出して、もっと広い所得範囲の人にMedicaidを適用しようよ、というもの。ただし拡張の選択権は州政府にあるので、先程述べたように州ごとに差が出ている。
そして、”Any Private Plan”の下の”Direct-Purchase"、即ち勤め先ではなく保険会社から直接保険を購入している人を増やそうぜ、というもの。そのために、州政府が健康保険を購入できるようマーケットプレイスを設立できるようにし、そこ経由で購入した人はプレミアムつきの税控除を通して補助金を受給することができるのだ。”Market Place Coverage”と書いてあるのがそこに該当する人たちで、あえてここを別立てに表記しているのは、オバマケアの効果測定をするためだろう。まとめると、オバマケアは、

  • 大部分を占める勤め先経由での保険加入している人はタッチしない

  • 健康保険への加入を義務化する

  • 補助金をだして低所得者向けのMedicaidを拡充する

  • 補助金付与とマーケットプレイス設置の組み合わせで民間加入を増やす

というあたりがメインにある。既往歴のある人も加入できるようにするとか、保険の最低保証内容のラインを作るなどの点もあり、大事な点だが、上の4つを抑えておけば、おおよその理解としてはよいだろう。

 

オバマケアで保険金が爆上がりした?

08 年の大統領選挙ではオバマに投票したスパルディングが、「何かがおかしい」と感じ始めたのは、〝オバマケア(医療保険制度改革法)〟が成立した後で、家族の健康保険料が月額400ドルから2700ドルに跳ね上がった時のことだ。

『「トランプ信者」潜入一年 ~私の目の前で民主主義が死んだ~

 
横田増生氏の『「トランプ信者」潜入一年』は大変な力作ではなるが、健康保険についての掘り下げは浅い。こういう単発のホラーストーリーはたまに見るが、政策として欠陥を統計的に説得力をもって証明するデータは殆どない。確かに、一部の地域で保険会社が撤退することを受けて保険料が上がったなどの話はあったようだ。オバマケアを廃案にしようと頑張った共和党政権が血眼になってこういうケースを探したけど、影響は限定的で構造的欠陥を指摘するほどの反証はできなかったようだ。
面白おかしいので、保険料爆上がりのエピソードはたまに出てくるが、共和党議員の調査の残り滓みたいな眉唾ニュースが多いと私はみている。

 

今回の大統領選とオバマケア

ヒラリー・クリントンと激戦を繰り広げた大統領選挙ではトランプ前大統領は「オバマケアの廃案」を主要な政策の一つとした。私の周囲の人も「トランプが大統領になったらオバマケアは廃案となるだろう」と予想をしていた人が多かった。が、実際には廃案には至っていない。何故か。私なりに理由を考えるに以下の3つが頭に浮かぶ。

  • オバマ政権時に「絶対に上手くいかない!」と共和党の議員の多くが指摘していたが、控えめに言ってもかなり上手くいっているから。

  • 「自分なら競争を促進し、もっと医療保険を下げることができる」とトランプ前大統領は豪語していたが、現実的な案は生まれなかったから。

  • 拡大したメディケイドの対象の人、既往歴があるが保険を購入することができた人、などオバマケアの恩恵を受けている人が既に多くいたから。

結果として、2017年に議会で撤廃案を通そうと提案を試みたが、一部共和党員の賛成を得ることができず、失敗に終わった。自分の裁量で大統領令(行政命令)をだすことはできるが、議会と調整をし、立法に持ち込むという政治手腕にトランプ前大統領がかけているのも大きかっただろう。

今回の大統領選で、何故オバマケアが争点にはあまりならないのか。それは7年前に自分が大統領の時に廃案できずに、健康保険適用を2500万人も拡大したオバマケアを攻撃することは、大統領選の戦略上得策でもないし、それに変わる対案もだすことができないからだろう。

 

まとめ

オバマケアは導入から10年以上が経過し、無保険者を大幅に減らし、特に低所得層への医療保障を拡充した。州ごとの格差などの課題は依然としてあるが、アメリカの医療制度の一部として既に根付いていると言っても過言ではないだろう。とは言っても、アメリカの医療保険と制度には問題は多い。先日、妻と血液検査とちょっとした追加の検査、その診断を受けただけで、$1,800ドルもの請求書が送られてきた。引き続き、生活者の視点からアメリカの医療制度とその現状と問題について発信していきたい。

Creative Commons License
本ブログの本文は、 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 非営利 - 継承)の下でライセンスされています。
ブログ本文以外に含まれる著作物(引用部、画像、動画、コメントなど)は、それらの著作権保持者に帰属します。