Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『転換の時代を生き抜く投資の教科書』:後藤達也と共に学ぶ経済と金融の本質

後藤達也さんというと、最近注目を集めるフリーの経済ジャーナリストで、経済系のウェブの媒体で最近見ないの日の方が少ない人気振りだ。が、この方、注目は集めているものの、不思議と「飛ぶ鳥を落とす勢い」という言葉が似合わない。きっと「飛ぶ鳥を落とす勢い」をえるには、ブームからブームに飛び移つりがちな大衆を射程にいれないといけないのだが、彼の話はわかりやすくも内容そのものに厚みがあるので、関心が移ろいやすい大衆受けはそれほど良くないのだろう。が、本人はそんなことを気にする素振りをみせず、「自分が価値があると思う情報を発信し、それを受けてくれる層を大事にする」という戦略をはっきりと打ち出しており、気持ちが良い。

 

元々、日本経済新聞社のエース記者であったが、2022年に独立し、NOTEやYouTubeを中心としたウェブ媒体で発信を続けるという経歴に好感を持ち、話も面白いので応援しているのだが、そんな彼が下記の新刊を出版したので手にとってみた。

資産形成を目的とした投資のテクニックというよりは、経済と金融の基礎を解説し、日々の経済の動きがどうやって株価に反映されていくのかという仕組みの説明に重きをおいている。ゴルフ好きのおっさんやおばさんがゴルフの魅力を若手にとくとくと説くかのように、経済や金融の世界のダイナミズムに魅了され、その動向を日々楽しみと興奮を持って接している筆者が、投資を興味をもった若者に「こんなに面白いんだよ」と語りかけているような内容で、彼らしい一冊に仕上がっている。

 

内容については、「どこかで読んだことがある内容」という評価もあるかもしれない。が、それは『投資の教科書』と謳う本書への批判としては的外れだろう。誰もが知っておくべき情報を網羅すべきが教科書の役目なので、「どこかで読んだことがある内容」が多いのは当たり前の話だ。教科書の内容が突飛で新しい視点に富んでいては困るではないか。むしろ、書店に平積みになった多くの類書を比較してどうかという点で評価をくだすべきだ。私自身は、投資は既にかなりしているので、本書を読んでめちゃくちゃ勉強になった、ということはなかったが、高校生の娘と息子に是非勧めたい一冊である。

 

理由としては、

  • 非常にわかりやすく、かつ内容も濃いこと
  • 資産形成のノウハウではなく、経済と金融への理解を促す内容であること
  • 中央銀行の役割などの金融の根幹に紙面が割かれ、経済ニュースの理解にもつながること

などがあげられる。特に彼は、日本経済新聞社で日銀のキャップを勤めていただけあって、中央銀行がはたす現代経済と金融市場における役割については非常に造詣が深い。現代の市場経済において、FOMCや日銀金融政策決定会合、そしてFRM議長や日銀総裁のコメントは株価や相場に大きな影響を与え、非常に重要度が高い。例えば、日本の利上げとアメリカの利下げのタイミングは、株式市場を見通す上でかくことのできない要素であるが、本書は「何故中央銀行の利率が企業の株価に影響を及ぼすのか」という原理をわかりやすくしている。「移動平均線がゴールデンクロスを形成しているからこの株は買いだ」みたいな話より、子どもには経済と金融の知識をおぼろげながらでも身につけて欲しいので、本書を課題図書としてあげたいと思う。

 

バートン・マルキールとチャールズ・エリスの『投資の大原則』も「投資の教科書」としては大変な名著だ。

 

投資や金融の第一線で戦ってきた彼らの発言には凄みもあるし、その上で枝葉末節を省いた原理原則を語る構成は圧巻であり、子どもにも将来的には読んで欲しいと思うが、高校生の彼らにはまずは親しみやすい『転換の時代を生き抜く投資の教科書』を薦めたい。アメリカの知らないおじいちゃんが書いた本より、YouTubeチャンネル登録者数27万人、Xフォロワー65万人という方が彼らにも親しみが持てるだろう。

 

本書は、「投資の教科書」でありながら、投資、そして経済と金融の知識を通して現代社会を読み解こうと呼びかける啓発書でもある。新NISAなどを受けて、投資という言葉がアンテナに引っかかった方、何から初めたら良いけど難しそうでよくわからないという方だけでなく、経済や金融について子どもに興味を持って欲しいという親御さんにもおすすめの本だ。事前知識も特に必要はなく、経済と金融の世界の入り口まで読者を導いてくれる良書なので、多くの方に手にとって頂きたい。

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