Thoughts and Notes from NC

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

アメリカ南部在住日本人のコロナ禍の憂鬱

2021年9月16日時点で日本でワクチンを2回接種した人の数は53.2%。1ヶ月前の37.9%と比較すると+15.3%となる。これは私が住んでいるアメリカから見ると爆速とも言うべきペースだ。我がアメリカ合衆国は、同じ時点で55.0%と辛うじて上回っているが、この1ヶ月の伸び率は何と+3.6%である。箱根駅伝に例えれば、第二区でごぼう抜きをしていく助っ人留学生選手に背中につかれ、あっという間に姿が見えなくなるやつだ。

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日米のワクチン接種率*1

若者が中々予約がとれないという嘆きはニュースなどでよく目にするが、予約無しでいつでも受けれる状態なのに、なめくじのようなスピードでしか接種率が伸びないアメリカと比較し、ワクチン供給に応じて接種率が上がっていくというのは羨ましい限りだ。色々批判は多いようであるが、日本政府はよくやっているのではないだろうか。

 

なお、そんなアメリカでも、マサチューセッツ州やコネチカット州は現時点で接種率が67%を既に超えており頭一つ飛び抜けている。こういった州であっても感染力の強いデルタ株の影響で感染者数は決して少なくないのだが、死者数が激減していることは見逃せない。両州とも猛威を奮った2020年4月頃の10分の1程度の死亡者数であり、ワクチンの重症化率を抑える効果がてきめんに表れていると私はみている。

8月のCDCのデータ*2をみると全米の死者数の中でCOVIDに起因するものは15%となっているが、マサチューセッツ州3%、コネチカット州5%と全国平均を遥かに下回っているのは興味深い。日本も2ヶ月もすれば、両州と同じかそれ以上のワクチン接種率となる。年末に向けて乾燥が進むので感染者は激減するには至らないが、重症化率はかなり抑えられ、少なくともデルタ株の猛攻を防ぐことはできる、と私は見ている。

 

一方でアメリカの中で、ワクチンの接種率で地を這っているのは、アラバマ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州などのいわゆる南部諸州だ。それぞれ、41.1%、44.2%、42.1%という残念な進捗だ。そして、8月の全死亡率におけるCOVIDの比率は25%、29%、29%と衝撃的な高さを誇る。先に紹介した州も含めて表にまとめると下記のようになる。

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私の住むノースカロライナ州もノースとついてはいるものの一応南部諸州の一角をなしており、ちょっと北側ということもありアラバマ州やミシシッピ州ほどはひどくはないが、決して褒められた数字ではない。

 

同じアメリカの中でも、どうしてこんなに差がでるのだろうか。私が住むノースカロライナ州については、オンラインでWalgreenやCVSのような薬局でワクチン接種の予約をすれば翌日にでも接種ができるので、決して供給量の差ではない。アラバマ州や他の接種の遅れている州に家族や親戚が住むという友人や同僚に聞いてみると、少なくない数の人たちが、

  • COVID-19なんていうのは、国や製薬会社が大騒ぎしているだけで、ワクチンを売りたいだけなんだ
  • 私は毎週日曜日に教会に礼拝にいっており、マスクやワクチンなどが無くても、神様が私のことを守ってくれる

ということを言っているとの話を良く聞く。これは決して極端でケースではなく、特に南部諸州の片田舎では普通の話だ。国際結婚をしている私の友人が、アラバマ州に住む夫の両親、親戚が、同じようなことを言って、「だから、今年の感謝祭は絶対にこちらに来て一緒に過ごそう」と言われるのだが、怖くてとても行けないとぼやいていた。

 

もう一つデータを紹介したい。下記はアメリカの州別の信心深さを示したデータで、青が"Very Religious"、紺が"Moderately Religious"、グレーが"Nonreligious"で上記に紹介した南部諸州はプロテスタントが多いので、軒並み全米でトップに入っている。上位の中で南部でないのはモルモン教徒が人口の70%を占めると言われるユタ州くらいだ。

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州別の信心深さ(上位)

そして、同じランキングの最下位群を見ると、上記で紹介したコネチカット州、マサチューセッツ州などの接種率高い組が名を連ねる。最下位に位置するバーモント州とメイン州のワクチン接種率を見ると、68.9% / 67.5%と全米ベスト5にランクインしており、ワクチンの接種率と信心深さはきれいな逆相関を示しているのが興味深い。

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州別の信心深さ(下位)

 

最近読んだ『現代思想の教科書 世界を考える地の地平15章』という本に下記のことが書いてあった。

宗教改革によって何が起こったのかというと、信仰というものはそのような所与の制度によって保証されるのではなく、一人ひとりの人間が「内面」で神と向き合うことによって初めて成り立ち、人はそのことで「義」とされる、つまり正しいとされる、そういう転換が起こったのです。

『現代思想の教科書 世界を考える地の地平15章』 「第12章 宗教について」

宗教や信仰心を自分の内面にとどめ、世俗社会との折り合いをつけるという特にプロテスタント系のキリスト教の現代のあり方を、政教分離をしないで制度システムとしての機能を前面に備えるイスラム教と対比する形で本書では語られている。「神は『コーラン』を掲示し、我々に対して、全ての宗教が神のものとなるまで戦い続けよと命じた」という声明をイスラム国は発しているが、同じ宗教・信仰であっても確かにアメリカのキリスト教信仰はイスラム原理主義のそれとは大きくことなり、現代の世俗社会にうまく適合しているようにも見える。信仰の自由というのは、誰にでも認められるものであり、それ程信心深くない私も、他の方の信仰の自由は大いに尊重したい。

ただ、上記のような統計をみると、内面の信仰という自由がこのパンデミック化では、内面にとどまらない形で表出しているように私には思えてならない。別に教義の中でワクチンの接種を禁止しているわけではないんだから、牧歌的に「神様が守ってくれるから大丈夫」とか言ってないで、世俗社会ともう少し折り合いをつけてくれよ、即ちとっととウェブで予約してワクチン接種してくれよ、と南部諸州の片隅に住む者として、ぼやきと言うか、悲鳴に近い思いを持っているわけである。

でも、建屋と建屋の間が100メートル間隔の田舎町にやたらと立派な教会がそこかしこにあるアメリカ南部の典型的な田園風景を思うと、そんな私の思いは届きえないことは自明である。なので、嗚呼と嘆息しながら「アメリカ南部在住日本人のコロナ禍の憂鬱」なんてタイトルのブログを綴って母国に発信するくらいしか、私にできることはないのだ。

日本の皆さま、日本はきっともう一息ですよ。



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