Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

アメリカの地方都市の日本食レストラン事情

アメリカの日本食レストランというのは、大都市と地方都市で2極化している。ニューヨークやロサンゼルスのような大都市は、日本人も多いし、マーケットの規模が大きいので、居酒屋スタイルの日本食レストランで、なかなか美味しいものを食べることができる。アメリカ国内の大都市に旅行に行く楽しみの一つは、日本食を食べることにあったりもする。特にロサンゼルスは、在米日本人からは「東京24区」と呼ばれるほどの充実振りで、レストランの質も数も選択肢が豊富で、ぷち一時帰国気分を味わうことができる。

 

一方で、私が長く住むアメリカの地方都市は事情がかなり異なる。地方都市のアメリカ人の日本食の解像度というのは非常に低い。まず、寿司がなければ「えっ!?日本食レストランなのに、寿司がないってどういうこと?」というようなリアクションが客から返ってくる。ラーメン屋を開業したとて、形だけでも寿司(もちろんカリフォルニアロール的なものだが)がメニューにないと、一定層の顧客を失うことになる。また、ラーメン屋であっても、前菜として枝豆や唐揚げやたこ焼きは、ほぼ必修の科目だ。「寿司、枝豆、たこ焼き」は日本食レストラン三種の神器と言っても過言ではないほど、どこに言ってもおいてある。

 

まぁ、これは「イタリアンにはピザとパスタ」、「インド料理屋はカレー」、「中華料理屋は焼餃子」を日本人が求めるのと同じ感覚なのだろう。アメリカでレストランをやる以上、お客さんの8割はアメリカ人を呼び込まないと地方都市では絶対に成り立たない。なので、鉄板の三種の神器ですら、「スパイシーツナロール」、「ホットチリオイル枝豆」、「揚げたこ焼き」は定番中の定番であり、アメリカでは「日本食レストラン」と言っても日本人がイメージするものとは異なった形態を取っている場合が殆どだ。なので、私は殆ど「日本食レストラン」には行かない。正直、家で自分で作った方がずっと口に合うし、美味しいのだ。

 

先日『ロサンゼルス居酒屋開業日記』という本を読んだ。

アメリカに住んだことがなく、英語も大して話すことができない大阪のおばちゃんが、激戦区ロサンゼルスで日本の居酒屋を開業するまでのドキュメンタリーだ。タイトル通り、ノンフィクションというより、ほぼ日記であり、構成や文章に巧みさは全くない。ただ、その分、あまりに赤裸々で生々しく引き込まれてあっという間に読んでしまった。

 

店舗を探し、改装を施し、機材を購入し、人を採用する過程が描かれているのだが、それぞれのステップで数々の「アメリカあるある」の洗礼を受け、それを乗り越えていく様子が心温まる。湯水のように減っていく自己資金をにらみながら異国の地で奮闘するおばはんの姿に少なからず心を打たれるだけでなく、私は敬意すら覚えた。

 

「国際化」や「多様性」について、学者の書いた小難しい本なんて読んだって本当に理解することなんてできない。本書は、痛みの伴う「国際化」や「多様性」を肌で感じることのできる良書だ。実際に筆者のようにアメリカで飲食店を開業しようとしている勇者に参考になるだけでなく、アメリカにこれから駐在などで住むことになる方々にも強く薦めたい。そういう方が今後ぶつかり、へこむ事案が本書には山のように盛り込まれているので、事前学習としては格好の教材だ。

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