Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』 老後に向けての貯筋

ここ数年の私のテーマは「老後に向けての貯筋」である。勿論、誤字ではない。金銭面の「老後に向けての貯金」は一定の目処がつきそうなので、健康面の準備を始めようという算段だ。若い時と同じライフスタイルでは歳を重ねるごとに筋肉は減るというのは定説。老後に向けて筋肉を貯蓄しつつ、継続的な筋量の上昇の見込めるライフスタイルを構築しようとしている。

「貯筋」活動の一環として、1年ほどウェブ経由のパーソナルトレーニングを受けた。そこで学んだ一番大きなことは「適切な食事管理」だ。勿論、筋トレの量と質は大事であるが、どんなに充実した筋トレをしたところで、筋量の増加が見込める食事をとらなければ何も意味はない。そういった指導のもと間食を含めてPFC(タンパク質、脂質、糖質)の管理をして2年ほど経つ。基本的には、脂質をなるべく抑え、体重の2倍をグラムに変換した量のタンパク質は最低限とるようにし、糖質も極端に抑えず、運動量に応じてきちんと摂取するように心がけている。当初は、食事の量を一々計測する私の行動は、「また、お父さん何かやっている」案件として家族から白い目で見られた。が、明らかに体を絞り、筋肉をつけ、肉体改造を着々と進める私の姿の影響か、他の家族も今は濃淡もあれど、同様の食事管理に勤しんでいる。

昔は「糖質オフダイエット」というマーケティングワードに踊らされ、糖質を極端に控えていたが、糖質を控えると私の場合は、運動時のパフォーマンスが格段に落ちる。特に散歩をしたり、走ったりする際に糖質が足りないと、とにかく足が重く、だるくなり、運動が苦行にしかならない。が、きちんと糖質を摂取すると、爽快感と共に走ることができ、それによってより距離を伸ばすこともできた。また、いくら「ぷち筋トレ」をしても一向にムキムキになる気配のなかった体型も、タンパク質と糖質をバランスよく摂取することにより、XSかSであった服のサイズが、Mが丁度良くなるようにビルドアップされてきた。そういう経験を通して、自分が食べ、体に取り込んだ食事内容が、どのように自分の身体能力に反映されるのか、ということにこの2年間意識を向けてきたが、手にした健康体よりも、その意識が一番の収穫であった。

 

『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』は、自分の身体を極限までに管理し、鍛え上げるアスリートたちが、自分の肉体、そして食事とどのように向き合うかを克明に描きあげたルポタージュ。

 

筆者平松洋子女史の本を読むのは初めてであるが、取材対象と真摯に向き合う姿勢、マスコミのヘッドラインには表出しない現代社会の一様を切り取る視点、そしてそれをプロの書き手ならではの卓越した表現力で描き出す手腕に驚きつつ、大変充実した読書体験をえることができた。

 

本書で取り扱われるスポーツは、相撲、プロレス、長距離ラン、ラグビー、サッカーと多岐に渡る。そして、その第一線で活躍する超一流のアスリートたちの、自らの肉体、そしてそれを構成する食事への真摯の向き合いようは、勿論私では到達できない領域であり、畏敬の念を覚える。が、その反面、私には眩しくもある彼らの鍛錬は、異次元というものでは決してなく、中年筋トレおじさんの日々の奮闘の延長線上にある、即ち程度の差こそはあれ、原理原則は同じであることがわかったのは大きな収穫であった。
プロレスのスター棚橋弘至選手の取材時の下記の一節がとても印象的だ。

食べている姿を見て、あっと思った。箸で鶏肉をつまむと、肉についている皮や脂肪をいちいち指で取り除いている。

『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』

プロレスラーの若手の寮の取材に、たまたま立ち寄った棚橋選手が若手の用意したちゃんこ鍋を食べるシーンだ。隆々とした肉体と派手なパフォーマンスで豪快なイメージのあるプロレスのスター選手が、鶏肉についてる脂肪をいちいち取り除いているというではないか。私は勿論脂質を抑えるために調理時に肉に付着する脂肪は取り除き、それが不可能なひき肉を使う時は一旦湯がいて脂肪を落とす。筋肉量も、運動量も桁違いのプロレスのスター選手が、ちまちまと脂肪をつまむという、そのギャップに驚かされつつ、繊細かつ徹底した食事管理を地道に続けることの重要性を改めて認識した。

 

一人辺り30~40人前の焼肉を食べた、というような豪快な逸話のつきない相撲の世界でも、様子はそれほど変わらない。丸々とした体躯が印象的な力士も、脂肪はあくまで稽古や取組の際の怪我を避けるための防護が目的であり、その下には筋肉がぎっちりつまっているという。力士は体重よりも骨格筋量をより注意して管理するという事実も非常に興味深い。一流力士は90から100キロほどの骨格筋量を保持し、体脂肪率は30%程度という。私の想像もできない骨格筋量であるが、ただ何でも食べているわけではなく、骨格筋量と適正な体脂肪率を維持するために、一流力士ほど厳密な管理を実施しているという。本書の第一章では押尾川部屋の取材を元に、その模様が克明に描かれている。「身体を作る」ためには、力士が自分自身で「身体と食事」の両方を自主的に管理することの重要性を説いた際の押尾川親方の下記のぼやきは、微笑ましくも、興味深い発言であった。

名古屋場所で名古屋に行って、コメダの喫茶店にみんなで行って甘いシロノワールとかソフトクリーム食べて喜んでいるようじゃだめです。あれは身体を作るためじゃなく、ただのリフレッシュ。

『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』

 

本書に描かれているのは、一流のアスリートのみが到達できる異世界の話ではない。自分の身体を構築する食事の重要性は、平等に誰にとっても変わらない。到達したい点がどこかというところの違いだけの話で、「自分で考えて食べる」、そして「身体と対話」することの重要性は、健康を志す以上常につきまとうテーマだ。「糖質オフダイエット」、「16時間断食ダイエット」などのトレンドに踊らされつつ、いまいち成果を実感できない人は、本書を是非手にとって欲しい。溢れ返る玉石混淆のダイエット情報から自らにあったものを選別するには、原理原則の理解が大事であることがわかるはずだ。さて、ブログも書き終わったし、「老後のための貯筋」に勤しむためにジムでも行くか。

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