Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

理解と支援が醸す職場の和:ラマダン明けの休みを巡るチームワーク

期初にラマダンがやってきた

4月9日と10日に休みをもらいたいんだけど。ラマダン明けなんで。

私のチームのアフガニスタン人が3月半ばくらいに休みの申請をしてきた。12月決算の私の勤める会社で、4月の頭は第1四半期が終わった直後だ。私の勤めるファイナンスの部署では、期末期初は数字の締めとレポート作成で当然のようにかなり忙しい。
私のチームは、アメリカ本社の社員はリーダーの私も含めて3名(1名レイオフで解雇したので欠員状態)、そしてインドのオフショアセンターに5名体制でやっている。アメリカ本社に勤め、私の隣の席に座るそのアフガニスタン人は、言わば私にとっては水戸黄門の助さん格さん的なポジションだ。最も忙しい期末に2日でも不在になるのは、痛いと言えば痛いが、「ラマダン明け」と言われると仕方ない。彼だって本当はもっと休みをとりたいのに、事情を考慮して2日で我慢しているのだ。なので、

そうか、それは仕方ないね。休み前にできることをなるべくやっておいて、休み中に私がフォローしないといけないことがあれば、共有してね。

と答えた。私はイスラム教徒のチームメンバーを持つことは初めてだったので、ラマダンについて勉強をする良い機会にもなった。勿論通常より負荷はかなり高かったが、お陰でこちらも学びの機会をえたし、私は夏に日本に3週間ほど一時帰国したりするので、お互い様ってやつだ。

 

急に子どもの病気になった同僚Aのはなし

プリスクールから連絡が入って、子どもが熱出したみたい。妻が出張中なんでこれからこどもを迎えにいかないといけない。後でオンラインに戻ってから、この案件フォローをするから。
~子どもが病気になって迎えにいかないといけない同僚A~

オンライン会議で、小さい子供のいる同僚が、病気の子供をピックアップしないといけなくなり、会議を退出するという。「後からオンラインに戻って対応する」、「妻が主張中」という言葉に、みんなが何となくぴくっと反応する。

えっ、奥さんが出張中で、子供が病気なんでしょ。じゃぁ、この件は、私が対応できるからやっておくよ。
~他の同僚B~

殆どの人が言おうとしたことを、ある同僚が口火をきって言った。子どもの迎えは男女を問わずに、仕事を中座せざるをえない日常だ。そして、子どもが小さいほど、怪我をしたり、急に具合が悪くなる、というのは「あるある」だ。その、申し出を聞いた同僚Aは

いやぁ、多分これくらいはできるから、大丈夫だよ。

~子どもが病気になって迎えにいかないといけない同僚A~

といったん固辞する。私はこの彼の気持ちもよくわかる。こどもを寝かしつけて、落ち着けば、できないことはない。そうすると、その場にいた上司がすかさず突っ込む。

ほぅ、君は自分の部下が、同じ状況になっても、彼らに帰って仕事をするように求めるのかい?よくない例を作ってはいけないから、これは同僚Bにやってもらおう。さぁ、早くお子さんを迎えにいきなさい。

~私たちの上司~

こう言われては、同僚も「いや、自分でできるから」とは流石に言えない。

皆、家族の事情で急遽仕事を中断しないといけなくなった経験はあるからこそ、自分ができることはなるべくやりたい、という気持ちが強いし、そういう協力的な雰囲気を作ることにも上司は腐心している。



『男性中心企業の終焉』

先日、『男性中心企業の終焉』という本を読んだ。


女性の社会進出が思った以上に進まない日本の現状について、

  • 企業や政府がどのような「女性の社会進出」の施策をとっているのか

  • その施策の思想、前提条件が、いかに時代に逆行しているのか

  • 結果として、それらの施策がどのように現場に歪みをもたらしているのか

という流れに従って、見事に描ききっている。豊富な具体例、長年の取材メモ、そして著者自身の経験が集約された一冊となっており、「女性の社会進出」に関心のある方には必読の本だろう。

が、『男性中心企業の終焉』というタイトルに反して、そこに描かれているのは、男性中心企業が終焉していく様ではなく、現在の価値観から転換するにはもっと長ーい時間が必要というつらい現実だ。
本書の主要な主張の一つは「企業や政府の施策が、残業を厭わず忠実に働く社員が会社で中心的な役割を果たす現状の中に、如何に女性の居場所を作るかという点にフォーカスしており、その方向性が世界の趨勢から大きくハズレている」という点であり、それはかなり核心をついている。

社員の家族や私生活を大事にする企業文化

冒頭で紹介したようなシーンを日常的に見ている私からすると、企業や政府の施策、並びに本書の主題としてあるべきは、「男性中心企業」を終焉させることではないと思う。ジェンダー論によってしまうと問題解決はもっと遠ざかってしまう気がする。むしろ、「社員の家族や私生活を大事にしない企業」を終焉させるという視点が大事なのではないか。企業の上から下まで文化として「社員の家族や私生活を大事にする」ということが浸透していれば、「育休をいかに取りやすくするか」、「子育て中の人も働きやすいように時短勤務の仕組みを整えるか」などの議論は必要すらなくなると思う。「女性が子育ての中心的な役割を担いつつ、仕事もできるようにする」ではなく、全ての子育て中の社員が家族を大事にしながら、仕事でも活躍できる文化づくりが何よりも大事だ。

 

もちろん、上記の前提として、自分自身がどの企業にとっても輝ける人材である努力を続け、企業から求められる人材であり続けなければならない。アメリカの殆どの州では企業が理由なく従業員を一ヶ月前通知で解雇できるので、家族と私生活の土台が揺らぐ危険性は私にだっていつもある。ただ、企業側は優秀な社員が活躍できる文化や場を築き、社員側も活躍できるように努力を続ける、その関係性は健全であると思うし、私には肌にあっている

 

すこしずつ日本でも多様な価値観と人材を尊重する企業が増えてきている。変わらない企業もあるが、新しい芽や時代の変化に対応する企業がでてきているのは良い傾向だ。こういう企業が主流派となり、多くの人から選ばれる会社になるにはもう少し時間がかかるかもしれない。外の生々しい事例の紹介というのは、その流れを早める一助となるかもしれないので、今後も「あるある」を発信していきたい。

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