Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』 日米の「親の愛情」の違い

2022年の日本の合計特殊出生率は1.26と過去最低とのこと。1989年に1.57という出生率がを記録し、「少子化」という言葉が広がってから、30年以上改善の兆しの見られない。本日紹介する『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』は、タイトル通り殆ど効果のみられない日本政府の少子化対策の何が間違えであり、なぜ失敗したのかを、社会学の視点からまとめあげている。筆者は「婚活」、「パラサイト・シングル」などの言葉を作り出した社会学者の山田昌弘氏。とらえどころのない社会的事象を端的かつ適切な言葉に落とし込むその能力で、日本の少子化の問題点を完結かつ明確にまとめあげているのは流石。

 

親の愛情と、世間体意識、そして、リスク回避意識の三者が結合して、少子化がもたられされていると考えられる。

その状況に対して、欧米型の少子化対策、つまり、女性が働きに出られればよい、とにかく子供が最低限の生活を送れればよい、という形での支援は「無効」なのである。

筆者は本書の要点を上記のようにまとめているが、日本とアメリカの両方で子育てをしている私には大変興味深い指摘であった。それぞれについて、一つづつ記事が書けそうなテーマであるが、本記事では「親の愛情」について焦点をあててみたい。

別に筆者は欧米の親が子供に愛情を持っていない、と言っているわけではなく、その愛情の注ぎ方に違いがあり、その違いが政策に対する反応の差を表しているという。もう少し細かく見ていこう。

筆者は、欧米では「子育て自体が楽しい、子供を育てることが自分自身の成長につながる」という子育ての過程に意味を見出す人が多いと筆者は分析し、それは私のアメリカでの経験とも合致する。”Family Time”は何にも増して重視されることであり、「週末は何をして過ごしたか?」というのは「週末に家族とどう過ごしたのか?」という質問とほぼ同義である。子供の学校への送り迎えは正当な遅刻早退の理由となり、仕事を優先して家族を蔑ろにするというのは軽蔑の対象にすらなる。ブリューワリーなどに言ってもビールを飲む場所なのに家族連れで溢れている。子供も退屈をしないように、子供向けのボードゲームや各種遊具が充実しているところが殆どだ。週末の稼ぎ時に、充実した”Family Time”が過ごせない場所は、集客ができないのだ。

一方で、日本並びに近隣の東アジア諸国では、「子供をよりよく育て、子供が社会から評価され、経済的に自立できる道を拓く」ことが、「親の愛情」であると本書では語られる。そうなると自ずと「なるべく良い大学に行くための環境整備」が「親の愛情」表現となり、育てた子どもの社会的評価が「子育ての楽しみ」となるという。それが故に、子どもが成人した後も自立がおぼつかなければ、それは「育てた親の責任」であり、「パラサイト・シングル」増加のような社会的傾向となってあらわれるわけである。「週末に家族とどう過ごしたのか?」という質問は、「どんな特別な"Family Time”を過ごしたか」ではなく、「どんな"家族サービス"をしたのか」という含みを持つことになる。即ち、子育てに伴うのは、「その過程の楽しみ」ではなく、「その過程の結果とそれへの責任」ということになる。

 

「待機児童を解消し、働く女性を支援する」であったり、「イクメンキャンペーンなどをうち、男性の育児参加をうがなす」という施策が有効でないとは思わないし、それはそれで大事である。だが、それらの政策は、見方によっては茨の道のように見える「子育て」に、躊躇する若者を飛び込ませるには明らかにパワー不足であった、との筆者の主張は頷ける。

 

文化的な要因については、変化に時間がかかるし、政策で変更しようにも限界がある。こればかりは若い世代が新しい価値観にふれて、自分にとってよりよい選択をしていくしかない。幸い、日本人はある方向に一度向かえば、そこに向かって変化をものすごい勢いで進めていく力と特質があるので、今後に期待したい(個人的には、海外に出てしまったほうが、手っ取り早く、個人の幸せは実現できると思うが)。

 

一方で政策的な面では何をすれば良いのか。本書は問題の分析は非常に明確であるのに、政策的な提言が皆無と言って等しい。これは私には不思議であった。何故ならば、本書を通読すれば有効な政策は一つしかないことは、誰の目にも明らかだからだ。それは何かといえば、「高齢者から若者世代への異次元の所得移転」だ。現在支給している年金を3割くらい減らし(30兆円ほどの財源確保)、高齢者への医療給付も3割ほど減らして(25兆円ほどの財源確保)、確保できた財源をこれから結婚をしていく20代、現在子育てをしている30代に思い切った支援をすれば、子どもを産むハードルは一気に低くなるだろう。金額はさておき「高齢者から若者世代への所得移転」については一切触れられていないのは、分析するのが仕事で具体的な解決策の提示は苦手という学者としての特質なのか、そんなことされては困るという60代半ばの方の都合なのか、それについての明言はさけ、本書を手に取った方の判断に任せたい。

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