2020年もあと一月で終わろうとしている。2020年のビジネス書ランキングで常に上位を維持している『FACTFULLNESS』は気にはなっていたが、今一つ食指が動かず手にとってこなかったが、やはり話題のビジネス書は目を通しておいたほうがよいだろうという若干後ろ向きな姿勢で本書を読みはじめた。私は、新卒でコンサルタント会社に入り、「事実と事実でないものを区別した上で、事実を元にして判断をする」ということは徹底的に叩きこまれた。なので、本書の「思い込みを排し、データや事実を基に物事を読み解く」というテーマそのものに目から鱗が落ちることはなかったが、一方で「事実というのは、組み合わせ方や光の当て方次第で、間逆の判断を導き出しうる」ことも知っているので、本書で紹介されている、陥りがちな罠(分断本能、ネガティブ本能、直線本能、恐怖本能、過大視本能、パターン化本能、宿命本能、単純化本能、犯人探し本能、焦り本能)にはまらないように、事実に如何に接して、如何に真実に近付くかという10のルールは非常に勉強になった。
FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 発売日: 2019/01/01
- メディア: Kindle版
危機が差し迫っていると感じたら、最初にやるべきなのはオオカミが来たと叫ぶことではなく、データを整理することだ。
『FACTFULLNESS』 第10章 焦り本能
本書では、感染症の危険性についても触れられており、筆者が存命であれば、このコロナ禍で揺れる世界を事実というスポットライトで照らしてくださったことであろう。が、筆者は執筆中に残念ながら亡くられている。残された我われにできることは、本書でえた知見を元に事実やデータを整理し、それらに基き、このコロナ禍の世界を読みといていくことだと思う。幸いにもコロナの感染状況についてはウェブ上で、信じられないくらい詳細なデータにアクセスすることができる。なので、今年のビジネス書ランキングの上位に位置している本書をあらためて激賞するよりも、年末に日本への帰国を予定しているので、帰省予定の東京と、私の住むノースカロライナとウェイク郡の事実とデータを本書の教えの通り整理してみたい。
東京都 |
ノースカロライナ州 |
ウェイク郡 |
|
人口 |
13,999,568 |
10,488,084 |
1,111,761 |
感染者数 |
37,355 |
336,775 |
26,464 |
検査数 |
770,231 |
4,929,602 |
- |
死亡者数 |
468 |
5,035 |
285 |
感染率 |
0.27% |
3.21% |
2.38% |
検査数/人口 |
5.50% |
47.00% |
-% |
感染者死亡者率 |
1.25% |
1.50% |
1.08% |
人口死亡率 |
0.00% |
0.05% |
0.03% |
11月22日時点 |
|||
非常に基本的なデータであるが、これはスタート地点としてはなかなか面白い。こうやってデータを眺めるだけで、新しい発見もあれば、新な疑問もわいてくる。頭に浮かんだ考察を徒然なるままに書いてみたい。
- ノースカロライナは東海岸の片田舎であり、広いアメリカの中でもさびれているほうかと思いこんでいたのだが、何と州別の人口ランキングで全米9位ということが判明。なお、東京より人口が多いのはニューヨーク、フロリダ、テキサス、カリフぉリニアとのこと。
- 感染者数はニュースなどでよくとりあげられるが、やはり人口に対する感染率をみないと状況がみえてこない。わがウェイク郡は州都ラーレーがあるのでノースカロライナの中では、金融都市シャーロットがあるメクレンバーグ郡と並ぶいわゆる都市部だ。ノースカロライナ全体の感染率と比べると3割ほど低いので比較的良いほうではあるが、同じ規模のメクレンバーグ郡は感染率が4.3%と高いので一概と都市部と田舎間の格差という単純化はできないようだ。
- これらと比較すると感染拡大が心配されているものの東京の感染率は驚異的に低い。夜の街に繰り出すなどの羽目を外さなければ、こちらよりは安全そうだ。日本のニュースなどを見ると街や駅には人が溢れており、ソーシャルディスタンスが器をつけなくても保てるウェイク郡とは人口密度が違うので感覚とあわないが、ここまで感染率が違うと明らかにリスクは東京のほうが低いと判断できる。
- 一方で検査数/人口について言うと、これまた驚くべき差がでている。東京の検査数は人口に対して少なすぎるように見えるが、一方でノースカロライナの検査数の多さには驚かされる。勿論、1人が複数回受けているケースも多々あるので、半数近くの人が検査を受けているわけではないものの、私も帰国前にドライブスルーで検査をうけてみようと思う。これらの数字からは、東京には隠れコロナ感染者が一定数いて、実はもっと感染しているのではないかという懸念がある。
- また、感染者死亡者率も興味深い。わがウェイク郡は医療体制が非常に整っているので死亡率をおさえることができていると推測できる。また、東京と死亡者率に大差がないことを考えると、東京の感染者数は検査数は低いものの、そんなに間違っていないのではないかと推測できる。
本書は読み物として勿論面白いし、勉強になるが、実際に10のルールをちらちらと見ながらデータと事実を掘り下げていくと、新たな疑問が広がっていき、真実にぐいぐいと近付く感覚がえられる。人種別、年齢別の感染率、クラスターの発生率など他にも興味深いデータが沢山あるので、本書を参考にしながらデータをもう少し見ていきたい。