Thoughts and Notes from NC

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『現代語訳 論語と算盤』 成功や失敗なんて単なる残りカス

アメリカに移住し、アメリカ企業の日本人の全くいない仕事環境にどっぷり浸かって七年近くなる。家族や私生活を大事にする同僚や上司の姿勢に多くを学んだし、形式よりも合理性を重んじるスタイルは私の肌にあっているし、常に付加価値を出そうと前のめりになっている人たちと働くことは刺激になっている。会社から価値を認められなければ一ヶ月前の通知で、いつでも職を失う可能性がある厳しさはあるが、思いっきり仕事をするに適した環境であると思う。

 

一方で、そういう環境である故に、同僚や部下と接して「疲れる」こともよくある。まず、肩書と給料にものすごく拘る(固執する?)点だ。全員が良くも悪くも常にキャリアアップの機会を貪欲に追求しているので、部署間の人材の引き抜きは日常茶飯事だし、中長期ではなく、短中期的に昇進・昇給の見込みがなければ、キャリアアップの機会のないポジションと見切りをつける人が結構多い。

また、実績として掲げることのできる「成果」を欲しがる人が多いので、日常業務に加えてそういう種まきも一緒にしてあげないと、今の仕事を「退屈な仕事」と判断し、もっとエキサイティングな仕事を求めて、せっせと転職並びに社内異動活動に精を出す人も多い。

「肩書や給料というのは、自分の成した仕事の結果としてついてくるものである」とか、「成果につながる仕事というのは口を開けていて自然に与えられるものではなく、自ら会社やお客様のためになることを考え抜き、今のポジションで自分が何をできるかを熟慮した上で自ら紡ぎ出すものである」とか、そういう原則論を言うと、その場では「その通りだ!」という人が多いのだが、朱に交われば朱くなるではないが、目先の昇進、昇給、華やかに見える仕事に目移りしてしまいがちな人がやはり多い。

良いところも一杯あるのだが、キャリアップの香りが常にする職場づくりをするのは性に合わないし、やっぱり「疲れる」のだ。

 

さて、前置きというか、愚痴が長くなったが、本日紹介する『現代語訳 論語と算盤』は、そんなアメリカのキャリアアップ万歳という雰囲気に食傷気味の私の心を癒やしてくれる良書であった。利益を追求するための算盤勘定も勿論大事であるが、社会の基本的な道徳を基盤の上で築いた富でなければ、長続きはしないし、そもそも素性の悪い富に価値なんてないんだ、という渋沢栄一の原理原則論は、心地よいだけでなく、裏打ちされた実績があるだけに非常に説得力がある。

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

  • 作者:渋沢栄一
  • 発売日: 2014/01/10
  • メディア: Kindle版
 

 

目から鱗の落ちるような名言や勇気の湧く至言に満ちた良書であったが、一番心に響いた箇所を以下引用させて頂く。

成功や失敗というのは、結局、心をこめて努力した人の身体に残るカスのようなものなのだ。現代の人の多くは、ただ成功とか失敗とかいうことだけを眼中に置いて、それよりももっと大切な「天地の道理」を見ていない。彼らは物事の本質をイノチとせず、カスのような金銭や財宝を魂としてしまっている。人は、人としてなすべきことの達成を心がけ、自分の責任を果たして、それに満足していかなければならない

 成功することがゴールというのが常識とかした現代において(渋沢の現代と我々の住む現代は無論異なるが)、成功や失敗というのは残りカスにすぎないのに、そんなことばかり気にしてどうするんだ、という言葉は心に響いた。目先の成功や失敗をカスとまで言い切るその懐の深さがなんとも気持ち良い。道議に従い、自分がなすべきことをするために全力を尽くすことが一番大事であり、結果として成功することもあれば、失敗となることもあるが、個々の成功失敗は大局観を持ってみたらカスみたいなもので、生涯を通じて大義を果たすために邁進することだ大事だ、という言葉はあくせくと日々の業務に追われて、疲れた言葉にエネルギーを与えてくれる。

 

日本資本主義の父と言われる渋沢栄一のこの名著を何故今まで手にすることがなかったのか正直疑問を感じるが、本書は「現代語訳」と銘打っているだけあり、表現が平易で非常に読みやすい。一部、女性の活用などについては、当時としては先進的であったのだろうが、今見ると「えっ、渋沢先生??」と首を捻るところもあるが、まぁ、それもご愛嬌というものだ。まだ読んでないという人には強くお勧めしたい一冊である。

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