2023年もいよいよ終わりに差し掛かっている。今年を振り返り、最も注目を浴びた技術といえば、ChatGPTを筆頭とした生成AIだろう。ChatGPTはユーザ数が公開2ヶ月で全世界で1億人を超えるという正に爆発的な拡大をみせた。
私がChatGPTを使い始めたのは今年の2月くらいからで、友人から「英文の報告書などの作成時間が革命的に早くなるから試してみたほうが良い」という勧めを受けて手をつけた。意味が通る英語は苦なく書けるが、
- 役員報告に適した表現で簡潔な英文をまとめたり
- 数単語しか使用できないプレゼンテーションの見出しや箇条書きをインパクトのある表現でまとめる、
というは私はとても苦手だった。が、ChatGPTで自分の書いた英語について、
- Can you revise the following updates to be more executively friednly?
- Could you review and refine the following bullet points for the CFO's presentation deck to make them more concise and impactful?
という風にお願いすると、ものの5秒で私が1時間かけても書けないであろう、美しい表現に仕立ててくれるではないか。今となってはChatGPTは私の欠くことのできない仕事のパートナーだ。
そんなChatGPTを一人のユーザとしてではなく、より俯瞰的な視点で理解をしたいと思い、本日紹介する『ChatGPTエフェクト』を手に取ってみた。最新の技術トレンドを深く理解するのはいつの時代も容易ではない。社会に大きな変化をもたらすような技術のおぼろげながらでも全体像をつかむためには、多角的にその技術を捉えることが必要だ。
本書は、ChatGPTに関する包括的な現状分析を提供してくれる。この本は、開発者、開発会社の経営者、一般ユーザー、学術的な専門家、そして利用企業の経営者といった、さまざまな立場からChatGPTの影響を総合的に論じている。全体観としては、総花的でまとまり欠く点があることは否めないが、時間をかけてまとめあげるよりも、鮮度の高い情報をできる限りまとめて世に発信しようという出版側の意図は理解できる。本書を通して、ユーザもそうでない方も、ChatGPTの現在の地位とその将来の可能性について、より高い解像度をもってイメージをすることができるだろう。
そんな様々な視点からChatGPTと生成AIの可能性を評価する本書は、ChatGPTへの取り組み方が下記の2つの層に分かれることを示している。
- ChatGPTの可能性を積極的に探求し、実践的な利用を試みる人々
- まだよく理解していなく、距離を置いている人々が大多数
この二極化した反応というのは、しばらくの間は続き、両者の適応の差というのはどんどん大きくなっていくだろう。
私はいつも同じことを言うんですが、課題は何かとか、懸念は何かとか言わずに、どんどんやればいいんです。日本にまん延している空気感なのですが、課題を挙げて、何か分かったような気になって、実際には行動しない。それでは意味がないです。黎明期の技術に課題があるのは当たり前ですし、その課題をすぐ乗り越えていくわけです。
『ChatGPTエフェクト』
AIの話になると必ず名前のあがる東京大学大学院の松尾豊教授は上記のように語る。私がChatGPTを触った時に直感したのは、
「ChatGPTを活用して、自分の仕事の仕方を再構築した人間とそうでない人間の間でホワイトカラーでは圧倒的な生産性の差が出る、これはえらいことだ」
ということだ。
初めて触れて以降、日常業務で私は毎日活用している。実際に使ってみると、
- こちらの意図を汲み取ってくれず、的外れの回答をする
- 自身持って答えている癖に、実際には内容が間違えている
ということは決して少なくない。これをもって「時期尚早」、「やっぱり使えねぇおもちゃだな」と評価をする人がいるのもわからなくはない。が、上記にあげた問題点というのは、正直自分の部下に仕事を振った際にも常に起きうることだ。
私は米国で仕事をして長く、アメリカ人の部下にも、インドのオフショアチームにも日常作業や各種分析作業を振ったりしている。できあがった成果物をレビューした際に、言ったはずの作業指示が理解されていないなんてことはアメリカとインドの両方のチームでよく起こることだ。
- ちゃんと説明したはずなのに伝わっていない
- 自分の指示の出し方のどこが悪かったのか
そういう失敗と反省を繰り返しながら、
- アメリカ人には数学的なステップはより細かめに説明をしたり
- インド人には期限とその時点における成果物イメージを具体的に伝える
などの工夫をそれぞれに対してして、成果の品質があげてきた。ChatGPTについても同じことで、ChatGPTが得意な仕事を、期待通りに実施してくれるように適切に指示することは、マネージャとしての私の力量なのだ。
ポテンシャルや成長性を考えると「こいつ使えね~」と切り捨てることなど、私にはとてもできない。ChatGPT をマネージャとして使いこなすための課題を日々解決していくことこそが、ホワイトカラーとしての重要な資質であり、それは人を相手にしていることと殆ど変わらない。そういう意味で私はChatGPTは今後ホワイトカラーが生き残るための分水嶺になりうると感じている。
本日紹介した『ChatGPTエフェクト』は、
- 生成AIの分野に如何に巨額の投資がされ、今後各社が競い合うようにしてイノベーションを加速度的に進めていく機運を感じさせ、
- アーリーアダプターとして積極活用する企業が、果敢にどのような挑戦をし、その適応を進めているかという現状をリアルに描写する
その現状と概要を理解するために格好の書だ。既に活用を始めている方も、名前くらいは聞いたことがある方も、現状を理解するためには格好の書なので、是非手にとって頂きたい。