私はアメリカでマネージャー職につき、5年以上経つ。はっきり言ってアメリカのマネージャー職は大変で、面倒臭い。何が大変かというと、
- リーダーとして自分の指針を指し示すことが常に求められる
- 自分のチームの仕事が、如何に価値があり、キャリア形成にどのように役立つのかを明確に示す必要がある
- チームメンバーに単なるダメ出しではない、価値ある生産的なフィードバックをすることが常に求められる
- 「できる人間」を繋ぎ止めるために内外の労働市場との熾烈な闘いを繰り広げなければならない
という辺りが頭に浮ぶ。勿論、上記の多くは日本の管理職にもあてはまるかもしれないが、求められる度合いは大きく異る。特に最後のポイントについては日本と全く異ると言っても過言ではなく、その大きな違いはアメリカでは個々人が能動的にキャリアの選択を積み重ねていくところにあると思う。
アメリカの人たちの頭の中には、「自分自身のキャリアの選択をどうしていくべきか」というテーマが常駐していて、
- この職場、このポジションで自分は何を獲得できるか
- このまま働き続けて昇進やキャリアアップの機会はあるか
- 他に自分の強みを活かすことができる機会はないか
- 自分をより高く評価してくれる会社や組織はないか
というようなことを常に考えている。
中途採用の面接では、どの候補者もそういう点でこちらを値踏みするし、自分のチームメンバーとも少なくとも四半期に一度は上記のポイントについて腹をわって話すことが求められる。私の勤める会社は、Fortune 誌の 2021 年版 「働きがいのある企業 100 社」のランキングでも比較的上位に位置するため、外からの候補者も多いだけでなく、社内の異動活動も活発だ。多くの社員は自社のリクルーティングページを常にチェックしており、今の組織よりもよい機会が社内にないかアンテナを張り巡らせている。どの部署でどのポジションが空いているというのは、社員間の雑談でよくでる話題だ。
日本のように自分のキャリアの選択を会社に委ねる人は非常に少数だ。というのも、その選択権こそが自分が持っている重要なカードと多くの人が考えているからだ。マネージャー職にある人は、多様な価値観やキャリア観を持つプロフェッショナル集団をまとめ、自分のチームの強さを高めるために、多くのエネルギーを割かなければならない。ただ、大変な反面、そういう活発な労働市場がアメリカ企業の労働者のクオリティとその会社自身の競争力を高めているのだと日々実感している。
先日、USJの再建を担った森岡毅氏の『苦しかったときの話をしようか』を読んだ。進路の選択に悩む大学生の娘にあてて、氏のキャリア論が熱っぽく語られている良書であった。これから就職活動をする学生には勿論強く薦めたい書であるが、自らのキャリアの選択を会社に委ねてしまっている日本の会社員にも是非読んで頂きたい。
実は”選べた”のに、今からでも”選べる”のに、多くの人はそれでも選択しない。なぜならば、神様が”選択のサイコロ”だけは自分の手に委ねてくれているのに、それに気がついていないからだ。
『苦しかったときの話をしようか』
P&Gに新卒で入社して以降、自分のキャリアの選択を戦略的にしてきた筆者の言葉から学べることは多い。正直、ずっと外資系企業で、しまいにはアメリカに移住してしまった私の話など、多くの日本人の方にはあまり参考にならないかもしれない。が、日本に根ざしながらも世界で活躍し、日本社会の色々なことと戦いながら、キャリアを力強く築きあげてきた筆者の言葉は傾聴に値する。
理屈だけでなく、具体例を交えながら、
- 自分の強みを如何に見つけ
- それを如何にブランディングし
- そしてどのように磨き上げていくか
などの実践的な内容が、懇切丁寧に語られている本書は、多くの人に参考になるはずだ。正直、書かれている内容はよいものの、体育会系の筆者のカラーが色濃くですぎているので、最近の若者にはとっつきにくいかもしれないので、会社と自分のキャリアに悶々としている中堅会社員のほうが、楽しく読めるかもしれない。
日本の労働市場に活力をもたらす本書のような良書をより多くの方に手にとって頂きたい。