- 作者: 日本経済新聞社,日経=,日本経済新聞=
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/09
- メディア: 文庫
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一方で、史実的が価値を重視した事実の積み上げであるため、それを受けての取材班の考え・主張は殆ど掲載されていない(意図的におさえているというのが正確)。本書の中には、考えるきっかけやヒントは転がっているが、取材班の考えが提示されているわけではないので、人によっては物足りなさを感じるかもしれない。また、その範囲が広範であるが故に、ボール球が多いという欠点もある。親同伴で就職相談の面接をする学生の話とか、リストラされた会社員が再就職中に「前の会社では部長までいったんですよ」とぼやくシーンなどは、まぁ世相を映すには良いのかもしれないがあまり参考にはならない。やはり史実的な価値の高い文献として読むのがあるべき読み方だろう。
で、そういう形で積み上げらて積み上げられた事実をみて、私が一番強く感じたのは世代間の就労観の差。
内閣府の調査では、転職経験者は二十代前半までで四割を達し増え続けている。先輩世代には、「我慢が足りない」と映るが、終身雇用など旧来秩序は確実に揺らいでいる。「いまのままで良い」と安住せず、もがき苦しみながら自分流の働きがいを探す挑戦が始まる。
『働くということ』 〜第6章 「常識」を疑い壁に挑む P.210〜
滋賀大学教授の太田肇(48)は成果を急ぐ「近道(ショートカット)世代」と名付ける。十−二十代の一割超が一年以内に会社を変わっており、他の世代に比べ群を抜く。明日が今日より豊かになる保障がないだけに、「早く成果を出したい」との思いも募る。我慢不足と非難されるが、そこには「即戦力を求められる重圧と自分の未熟さ」に悩む焦燥感がある。
『働くということ』 〜第2章 世代のズレに悩む P.61〜
経済が右肩上がりに成長し、1つの会社に一生勤め上げれば、退職金も含めて安泰という就労環境で働いた人には、新卒採用して1〜2年で転職をしてしまったり、下積み期間を嫌がり成果を追い求める若者は「我慢が足りない」とうつるかもしれない。ただ、本書で紹介された事実を読み解いていくと、こと就労環境について言えば、下記のような変化がみてとれる。
- 職の安定を確保する一番の手段が、大企業に勤めることから、自分が情熱をもって打ち込める専門性の高い仕事をみつけることにシフトした
- 主体的に転職活動をするためには、外部労働市場で値がつく能力・専門性を30代半ばまでに習得することが必要であり、それができなかった場合にもはや会社は自分のことを守ってくれない
成果を急ぎすぎたり、簡単にあきらめて見切りをあっさりつけることは確かによくないが、そのさじ加減を会社主体ではなく、自分主体でしなければならない、というのが現代社会でのキャリアの積み方だ。30代になったばかりなんて半人前という大企業のペースは、古い就労環境ではよかったかもしれないが、現代においては成果に対してあまりに鈍感であり、キャリアの主体的選択能力を著しくそぐものと言わざるをえない。
現在は、丁度古い就労観と新しい就労観の交差する時代になると思う。それがゆえに「働くということ」、「キャリアをつむということ」、「会社に勤めるということ」について様々な考え方、経験を持つ人であふれており、自分の身近な人にだけ話を聞くことは非常に危険である。日経が、日本の独占的な経済紙というポジションとそのブランド力を活かし、莫大な取材費をかけて集めて様々な人の職業観を文庫版で680円で購入できるというのは驚異的*1。まだ、読んでいない若者にはくどいようだがすごくお勧め。
*1:尚、私はハードカバーのものをもっているので、上記の引用のページ数は文庫版とはことなるかもしれない