Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『16歳のデモクラシー』

本書『16歳のデモクラシー』は、佐藤優氏が埼玉県立川口北高校の2年生を対象に、ラインホルド・ニーバーの『光の子と闇の子』を題材に民主主義について講義をしたものを書き起こした講義録だ。昨今、政治の混乱と民主主義の危機が声高に叫ばれており、「民主主義」は私の2021年の勉強テーマの一つだ。

 

本書は高校生への講義録という形をとっているため、勉強のとっかかりとしては調度良いと正直高を括っていたのだが、思っていたより遥かに難解で不勉強を痛感する羽目になった。第二次世界大戦末期に民主主義の構造的な脆さとその原理の正当性を主張したニーバーの『光の子と闇の子』を理解するためには、古代ギリシアまで遡る民主主義の歴史、フランス革命から第一次世界大戦を一区切りとした十九世紀史、西欧社会の基盤となっているキリスト教の歴史と思想など、幅広い知識が求められるが、博覧強記の筆者がもれなく解説をしてくれるところは本書の魅力の一つだ。

 

とは言っても、ある程度前提知識があるところは読み進めることができるが、勉強不足のところは本書を読めば、そのまま理解までもっていってくれるという懇切丁寧な初学者向けの解説本までにはなっていないので、個別のテーマについて、さらに深堀する勉強を求められる点は、指摘しておきたい(少なくとも私には更なる勉強が求められている)。そういう点で本書は、読めばパッケージ化された知識がもれなくはいっているという構成にはなっていないが、その反面、何故学習が必要なのか、学ぶことの楽しさ、どうやってわからないことを学んで行けば良いのか、という勉強の要点が熱意をもって語られており、「あぁ、わからないからいいや」とならずに、「もっと学習して理解できるようになりたい」という知的好奇心が刺激される形になっており、そこも本書の良い所だ。筆者は強面のイメージがあるが(事実、顔は怖い)、本書からは若者好きという佐藤氏の私の知らなかった一面が垣間見えて、それも面白かった。

 

アメリカ大統領選挙は、過去に例をみない形での決着がつき、バイデンが新大統領として就任することになった。大きく分断されたアメリカ、その民主主義の危機、新大統領がどのように舵をきるのか、など目が話せないアメリカの民主主義を考える題材も本書には一杯つまっている。「お金が最も価値がある」というアメリカの拝金主義的な風潮も、民主主義の成り立ちを振り返りつつ、啓蒙主義やロマン主義などの言葉を使いながら見事に切り出せれており、大変勉強になった。が、ニーバーの『光の子と闇の子』を読みこなせるかといったらまだその段にはないので、2021年により学習を重ねて、現代社会をもう少し見通せる教養をつけたいと思う。向学心が何にしても大事なので、それがかきたてられたという点では、2021年の良い読書のスタートとなった。

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