Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『潜入ルポ amazon帝国』の「潜入ルポ」部分が短すぎる理由

『ユニクロ潜入一年』に引き続いてジャーナリスト横田増夫氏のルポ『潜入ルポ amazon帝国』を手にとる。わが家は家族全員がKindleを持ち、書籍の購入はほぼamazonでし、書籍以外のオンラインの買い物の大半もamazonでするというヘビーユーザだ。幸か不幸かEchoにはまだ手をだしておらず、生活の隅々まで支配されているという段には至っていないが、amazonなしの生活は考えずらいほど浸透はしている。自分の取り皿の上のソーセージの製造工程を見るような怖さは正直あったが、自身の生活に根ざしているものはきちんと理解する必要があるという気持ちで読んで見た。

潜入ルポ amazon帝国

潜入ルポ amazon帝国

 

 

初めにコメントしておくが、本書は『潜入ルポ amazon帝国』というタイトルとなっているが、10章ある章の中で「潜入ルポ」になっているのは、初めの1章だけである。その他の章は、元アルバイトや社員へのインタビュー、他国のジャーナリストへの取材、宅配ドライバーの車に乗り込んでのルポ、マーケットプレイス出店社への取材など通してamazonを多角的に捉えようとするノンフィクション作品になっている。食べているソーセージの中身を知るという私の目的は達成された点で、本書は私の期待値を満たしてはいるが、『ユニクロ潜入一年』のようながっつりした潜入ルポを求めていたので、そこは正直若干期待外れであった。

 

が、この「潜入ルポ」部分の短さがamazonの倉庫の職場としての特徴をとらえているとも言える。要するに書くことがあまりないのだ。本書の1章は筆者自身の「潜入ルポ」であり、渡された端末に従って黙々と筆者が注文をピッキングする様が描かれている。倉庫作業の実情が赤裸々に描かれており、最初は非常に興味深く、読み応えがある。が、一度作業の流れや仕組みを書いてしまうとそれ以外に書くことがなくなってしまったかの如く、文章が細っていってしまっているのが面白い。それは何故かと言えば、amazonが倉庫作業員を完全に大きな機械の歯車の一つとしてしか扱っていないことに起因する。倉庫作業のピッキングなんてamazonに限らず多かれ少なかれ歯車の一つだろうと思う人もいるかもしれないが、そういう人こそ本書の1章を読んでみてほしい。歯車に0.1分の魂も許さないamazonの冷徹ぶりをうかがうことができる。4章ではヨーロッパで同様に潜入ルポを書いたジャーナリストへの取材が紹介されているのだが、他国でも全く同じ状況であることが確認でき興味深い。イギリスのパブで取材をした相手のジャーナリストの一言が印象的でああった。

ここのパブだって、飛びぬけて時給が高いわけじゃない。けれど、ちゃんと働いている人を大切にすれば、人は集まってくるものなんだよ。アマゾンは、人を人として扱っていないことに最大の問題があるんだ。

 

『ユニクロ潜入一年』との対比で見るのも面白い。ユニクロのルポではその職場に、とっつきやすい人もいれば、高圧的な人もいたりして、その職場には人間の顔があった。それぞれ描くことのできるキャラクターがあり、千差万別のお客様が相手であることもあり、描くエピソードにことかかなかったのではないか。また、柳井会長がアルバイトも含めて全員に経営者意識を求めており、それそのものはアルバイトにそこまで求めて檄をとばすってどういうこと?、という疑問はあれど、働く人の潜在能力に期待するという点でamazonと対極で面白くはある。が、amazonは、物流業務についてはそこをマネージする管理者も含めて、「仕組み」に統合された人間性の一切排除された職場であり、一緒に働いている人から雑談をとおして何かを引き出すことも至難の技であることが、伝わってくる。この書くネタの無さ感が潜入ルポとしての読みどころであるというのは逆説的でありながらも興味深かった。

 

ステイホーム生活でamazonでぽちぽち買い物をしている方は多いと思うが、そういう方は興味を持って読めることは間違いないし、付き合い方を考える材料に溢れているのでオススメの一冊である。

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