「やるべきことができない、続かないのは、あなたのやる気の問題ではなく、仕組みの問題」という最近の自己啓発に流行である「仕組至上主義」に食傷気味の方には本書はおすすめ。「仕組至上主義」は自らの意志力の弱さという自己管理上避けては通れぬ道をあえて避けて通っている点で一般受けしやすいが、自分の意思力の強さ弱さを問わず、仕組で全て解決というのは無理がある。本書では、意思力がうまく働かずに、好ましくない行動をわれわれがとってしまうメカニズムが優しい言葉で説明され、その失敗を避けるための具体的な指針まで提示がされている。最近の流行に反し、意思力の強さ弱さに正面から取り組んでいる点で他書と趣を異にする。
- 作者: ケリー・マクゴニガル
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2013/04/26
- メディア: Kindle版
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何かを変えるには、現状をきちんと「知る」ことが大事。惰性で誘惑に従ってしまった過程にあえて意識を向け、その過程を「知る」ことによってコントロールを利かせるという本書のアプローチは非常に興味深い。例えば、本書では「ドーパミンの作用は行動を起こすためのもので、幸福感をもたらすものではない、ドーパミンが放出される時に感じるのはあくまで『期待』であり、『喜び』ではない」と紹介されている。どういうことかと言うと、目の前の杯が空きそうになると、脳内でドーパミンが放出され、「お酒を飲むと美味しくて楽しい」という『期待』が高まって興奮状態になり、次の一杯を注ぎ、杯を口に運ぶように促される。実際に放出されたドーパミンの作用に従って行動をしている時に本当に『喜び』を感じたかどうか意識を向けて観察してみると、必ずしもそれが『喜び』につながっているわけではないという。実際に我が身を使って実験をしてみたがこれは確かに正しい。自分の行動を振り返り、『期待』に従ってとった行動が実際の『喜び』につながっているのかを「知る」、その結果、自己をよりコントロールしやすくなる、こういった考えが様々な形で本書では紹介されている。
意思力が弱い自分を卑下したり、叱咤するのではなく、目先の快楽に走ったり、抗ったりする自分の様々な一面を知り、目先の快楽に走る欲求をそのものはコントロールせずに受け入れ、結果として自分がとる行動をうまくコントロールする術を身につけましょう、というのが本書の肝。大変な売れ筋なので、逆に手にとることに躊躇したが、新しい発見があって面白かった。「仕組至上主義」にはもう飽きたという方にはおすすめの一冊。