岩瀬さんの『生命保険のカラクリ』を読んだので書評を。
- 作者: 岩瀬大輔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/10/17
- メディア: 新書
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本書は、ライフネット生命の岩瀬さんによるセイホの解説本という側面と、ライフネット生命のマーケティング資料という両方の側面がある。本エントリーでは前者に焦点をあて、後者については別エントリーでふれることとする。
本書では、対面で説明を受ければその瞬間は分かった気になれる複雑な生命保険の構造が、わかりやすく分解して解説されており、入門書としては今まで読んだどの本よりもわかりやすい。物事を平易に因数分解できる岩瀬さんの能力がわかりやすさの源であることは間違いないが、それに加え、セイホの素人だった岩瀬さんが玄人に変わりつつある過程で本書が書かれたことも見逃せない。おそらく、彼が10年セイホ業界で今後過ごし、10年後に同じように入門書を書いたとしても、これ以上一般の人にわかりやすくは書けないだろう。
生命保険商品が「保障」と「貯蓄」の二つの機能をあわせ持つことを理解した上で、まず生命保険の基本をなす、「定期保険」「養老保険」「終身保険」の三つの類型について説明していこう。
『生命保険のカラクリ』 〜第二章 煙に巻かれる消費者 P.84、85〜
本書では、「保障」「貯蓄」という切り口と「定期保険」「養老保険」「終身保険」という切り口の2つをきちんと理解すれば、生命保険の商品の話しは大体理解できる、と解説されている。確かに、オプションがついたり、外貨になったり色々複雑になっても、「保障の話しをしているのか、貯蓄の話しをしているのか」、「この商品は定期か、養老か、終身か」という問いに立ち返れば、自分の保有する商品も大抵は理解できる。これは私の外資系生保の担当営業も強調していた(2年に1回くらしか聞かないので、覚えられないのが問題なのだが)。
で、本書の大きなポイント(別の言い方をすれば、ライフネット生命のビジネスモデルの肝)は、将来に向けての「貯蓄」をセイホとセットですることに疑問を呈している点だ。
老後に向けた資産形成をするには、より有利な方法がいくらでもある。終身保険は、高い手数料と販売コミッションを伴う。これらはときには、毎年の利回りから三%を引き去ることになる。
『生命保険のカラクリ』 〜第二章 煙に巻かれる消費者 P.90〜
ネットや通販のような手数料が安い保険会社は事業経費が安い分、対面営業によるきめ細やかなサービスはない。その分を、安い保険料として顧客に還元しているからである。したがって、割高の保険料を払っても手厚いサービスを望むのか、あるいは自分でいくらか手を動かすことで、その分の保険料を浮かせるのか。その「選択」が迫られているわけである。
『生命保険のカラクリ』 〜第二章 煙に巻かれる消費者 P.109〜
- 顧客の資産を最大化することにインセンティヴがなく、かつ資産形成のプロではない生命保険の担当営業に、高い手数料を払って、老後に向けた資産形成をすることは正しいやり方なのだろうか
- 「保障」と「貯蓄」は切り離し、別途フィナンシャルプランナーに手数料を払い、資産形成のためのアドバイスを受けるほうが、資産の最大化のためには有効なのではないか
- そもそも保険の担当営業から手数料にみあった手厚いサービスを受けているのだろうか
など、たしかに多くの疑問がこの件については頭をもたげる。現在のセイホ業界は、複雑な製品、価格体系により「保障」と「貯蓄」の区別をつきにくくし、消費者を煙に巻いているという本書の主張は、全てが全てそうでないにしても、多くのケースであてはまるだろう。
本書は、ライフネット生命のマーケティング資料という面を差し引いても、セイホ業界の構造を理解を強く促し、消費者の主体的な選択の助けとなることは間違いない。これから生命保険に加入しようという人はもちろんだが、既に加入している人も一読することを強くすすめる。本ブログの読者は30代の方が多いと思うが、30代必読と言っても過言ではない。