Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『その後のとなりの億万長者』富と収入の違いを理解し、富を築く

「お金持ちになりたい」、そう思っている人は世の中に沢山いるだろう。野村総合研究所の調べによると、日本の全世帯の中での億万長者(純金融資産1億円以上)の割合は2.5%ほどの模様。50人いたら1人は億万長者というのはそんなに悪い数字ではないが、少数派であることに変わりはない。一方で、アメリカの億万長者比率は9%と日本よりはるかに高い。それを聞いたら、

  • 年収数十億円のプロスポーツ選手や大企業の経営陣
  • 大きくインターネット事業であてた起業家
  • 巨額の報酬をえる医者や弁護士

などのいかにもアメリカンドリームのイメージが浮かぶ人が多いかもしれない。本日紹介する『その後のとなりの億万長者』はそんなイメージを良い意味で壊してくれる良書だ。

 

本書は、アメリカで高い金融資産を保有する層にアンケートに回答してもらい、そこから彼らに共通する行動パターン、特性を導き出している。そして、その調査結果が示している行動特性は、

  • 規律ある消費
  • 堅実で長期間にわたる貯蓄
  • 地道かつ勤勉な資産管理

といった手堅いものばかりで、アメリカンドリームのイメージとは程遠い。本書で紹介される億万長者たちは「年収数千万円稼ぐ」といった手の届く感の薄い遠い世界の人々ではなく、それこそ隣近所にいるおとなしめの老夫婦のような親近感のわく人物像が多い。超高収入、一攫千金という飛び道具を使わずに「お金持ち」になるための基本が凝縮されており、「億万長者も決して夢ではない」という勇気を与えてくれる。

 

富とは収入ではない、また収入は富ではない。

 この言葉を聞いて、目が泳いだ方は、飛び道具を手にしない限りお金持ちになるのは難しい。ここでいう富とは、資産から負債をひいた純資産のことで、筆者は本書で

  • 収入と富をきちんと分て考えるべき
  • 収入と富は相関を示す傾向にはあるが、イコールではない
  • 「お金持ち」かどうかは、収入ではなく、富によってはかられるべきである

ということを何度も強調している。日本では「年収1千万円」という数字はよくでているが、「純資産3千万円」のような数字はあまりでてこない。自分の年収を答えることができない人はいないと思うが、自分の資産額はいくらなのかを把握していないという人は、結構多いのではないだろうか。「お金持ち」への第一歩は富と収入の違いを理解して、富を築いていく意識を持つことから始まる。

 

本書では、蓄財優等層と蓄財劣等層という二つの言葉が良く出てくる。収入がいくら多くても、それらをそのまま派手に使ってしまえば、決して「お金持ち」にはなれなく、そういう人たちを蓄財劣等層と呼んでいる。転職を繰り返してスキルアップと年収アップを重ねていくアメリカ人は、収入の増加にあわせて生活レベルをあげ続ける人が非常に多い。大量消費社会で、日本よりお金がものをいう世界なので、あればあるほど使ってしまう誘惑は高い。高級な住宅街に住み、高い車に乗り、高価なワインを嗜む、というように収入を消費にそのまま回してしまい、富を蓄えない人は瞬間最大風速の生活を楽しむことができるかもしれないが、お金持ちにはなれない。規律を守って富を蓄え、地道かつ勤勉に資産を管理運用した人の中にこそお金持ちがいると言う事実が本書では繰り返し実証研究から語られている。

 

「年収2000万円問題」で政府に批判が巻き起こる反面、NISAやiDeCoの認知度が40%にも満たない日本人は決して資産形成のリテラシーが高いとは言えない。だが、貯金額の多い日本人が、長期かつ勤勉な資産運用という最後のステップにさえ踏み込めば、お金持ちへの道が大きく開けるという点で本書は勇気を与えてくれるだろう。「富と収入の違いを理解して、富を築いていく意識」をまだ持っていない方は是非本書を手にとって頂きたい。

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