- 作者: ポー・ブロンソン,アシュリー・メリーマン,小松淳子
- 出版社/メーカー: インターシフト
- 発売日: 2011/05/31
- メディア: ハードカバー
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本書の一番の特徴は膨大な量の実証研究がこれでもかとばかりに紹介されていることだろう。とかく主観的になってしまいがちな子育てを、様々な研究成果を元にとらえようとしている点が面白い。「こどもは褒めて伸ばすのが良い」、「嘘つきはいけないことだと教えないといけない」、などのいわゆる「定石」が、時としては逆効果を生むことが反証データとともに紹介されており参考になる。親という生き物は、子供の視点でものをみておらず、子育てについての「思い込み」で子供に間違った接し方をしているということが、本書を読むとよくわかる。
観察研究では、三歳から七歳までの年齢層のきょうだいは平均して一時間に三・五回喧嘩するという結果が出ている。すぐに収まる喧嘩もあれば、長引く場合もあるが、一時間あたりの口論に時間は合計一〇分だ
『間違いだらけの子育て』 〜第6章 きょうだい喧嘩を、叱るだけではいけない〜
うちは娘と倅がいるが、「一時間に三・五回喧嘩する」というのは感覚にはかなりしっくりくる。本書は、「きょうだい関係というのは友人関係のようになくなってしまいやすいものではなく、対人関係の限度を極限までに押し広げられる関係」だという。子供が喧嘩をする度に、「喧嘩しない!仲良くしなさい!!」と言うわけだが、これでは怒られないためにこっそり揉め事をするだけで、根本的な解決には至らない。「一時間に三・五回」生じるような生理的な事象に対して、アドバイスなく子供を押さえつけてもうまくいくわけはない。感覚には数字を示されなくてもわかるのだが、やっぱり数字が示されると私などは腹におちやすい。
また、本書の面白さを統計的な数値を示しつつ、結局のところ「どんなシーンのどんな子供に対してもあてはまるような指導・教育方法なんてないという親にとっての不都合な現実」をつきつけていることだと思う。本書では、「羊飼いとオオカミ」の話と「ジョージ・ワシントンの桜の木」の話がどちらが嘘を減らすための効果があるのか、という調査が紹介されている。結果としては、「羊飼いとオオカミ」によって子供の嘘は若干増え、「ジョージ・ワシントンの桜の木」によって子供の嘘は75%ほど減るわけだが、これはそのワシントンの話でさえ25%の子供には効果がなかったこともあわせて示している。
この調査のポイントは、子供が嘘をつく理由の多くは「大人からしかられる」ことに起因するため、「悪いことをしたとしても怒らないよ、本当のことを言ってくれるとおとうさんはうれしいな」というように罰の免除と良い子という評価をえるために道筋を示すことが大事であるとのことであり、それはそれで納得がいくし、面白い。で、早速娘のことを蹴飛ばした倅に「おねえちゃんのことを蹴ったのかい?蹴ったとしても怒らないよ、逆に本当のことを言ってくれたらおとうさんうれしいな」と言ってみたが、倅は頑として首を縦にふらなかった。
だからといって本書が使えないといっているわけではない。本書の示す膨大な統計データが表すは全体的な傾向のみであり、画一的に適用できるような「魔法の杖」は存在しなく、また一部の統計を盲目的に信じ、画一的な対応をしていると、かえって逆効果になることが多い、ということは本書は教えてくれる。
子育てというのは本当に難しいと思う。子供は大人にとっては矛盾だらけだし、日々理解を越える行動に悩み、いらつくことばかりだ。本書は、そういった日々の親の格闘に対して、本の少しのヒントは与えてくれるが、答えを提示してくれるわけではない。だが、本書は下記の言葉で最後が締めくくられており、日々頭を悩ます親を勇気づけてくれる。
こうした矛盾があっても、子どもに対する理解を深めようとするのは無駄な努力ではない。それどころか、こうした矛盾とおぼしきものを掘り下げていくことで、理解は深まっていく。
子どもが最も謎めいて見える時こそ、私たち養育者が新しいことを学ぶチャンスなのだ。
良書なので、日々頭を痛める父親、母親の方には手に取って頂きたい。