Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『つながりっぱなしの日常を生きる』

中年女性社会学者によるアメリカの若者の声の代弁、というとシニカルすぎるきらいがあるが『 It’s Complicated(邦訳:つながりっぱなしの日常を生きる)』はそんな本だ。筆者のダナ・ボイドはソーシャルメディア、若者の教育問題の専門家。2009年には”Women in Tech”にも選出された気鋭の若手学者だ。本書は、166名のアメリカのティーンに筆者自身が実際にインタビューをし、彼らの置かれる状況を浮き彫りにし、メディアで語られるステレオタイプな若者のネット利用像に真っ向から挑んでいる。10代の若者の声にならない声をエスタブリッシュメントに届く形で発信しており、同年代の子持ちの私からすると筆者は正に中年の鏡である。

It's Complicated: The Social Lives of Networked Teens

It's Complicated: The Social Lives of Networked Teens


少し内容に入る。「直接的な対人関係を避け、スマフォとにらめっこしてSNSなどにのめり込む」というのがメディアで語られる若者像であるが、筆者はこの見方を否定する。ティーンは別にFacebookTwitterが好きでスマートフォンにかじりついているわけではなく、友達とつながっていたいという今も昔も変わらない年頃の子どもの健康的な欲求に従っているだけ、と筆者は強調する。あるインタビューを受けた女の子が語っていた「FacebookTwitterでつながるよりも直接顔を合わせて友達に会えたらどんなに良いか」という正直な気持ちが印象的であった。自由に社会と関り合いを持ちたいという自然な思いを実現する方法が、昔は公園やショッピングモールにたむろすることであったが、現在はたまたまFacebookTwitterがそれを実現する殆ど唯一の方法、ということが繰り返し本書では語られる。*1


2章のPrivacyは子持ちの私に色々示唆を与えてくれ面白かった。私の子どもはまだFacebookなどは使用していないが、もし使い始めたら私はきっと安全という建前を掲げ、フォロー・チェックをするだろう。設定次第で私が見れなくすることもできるわけだから、私が見れるものは「見ても良い」ことだろう、というのが親の視点だ。が、ティーンにとっては「技術的にできること」と「実際にすること」の間には百里の隔たりがあり、自分のポストを親が逐一チェックをすることは、人が電話で話している内容を聞き耳をたてるのと同様にマナー違反と考えるようだ。また、プライバシーを権利と考えるティーンももちろんいるが、多くはそれを信頼の問題と考えている、という話も面白かった。親が自分のポストをチェックすることは、権利の侵害・マナー違反であり憤りも覚えるわけだが、「あぁ、自分は親から信頼されていないんだなぁ」という失望も強いとのこと。まぁ、何だかんだで結局私はチェックすると思うのだが、それを子どもがどのように感じるのかを事前にすることは大事であり、とても参考になった。


少し子育て中のおっさん視点が強くなったので、もう少し視点を高くしたい。本書でなされている主張の中で最も重要なものは、「テクノロジーで可視化された問題点の原因を多くの人は誤ってテクノロジーに求めてしまう」という点だ。インターネットと人とつながるテクノロジーでティーンがエンパワーされることで、彼らと彼らをとりまく環境の良い所も悪い所も、綺麗な所も醜い所も可視化される。悪い所や醜い所はテクノロジーそのものが作りだしている場合ももちろんあるが、その大半は元々社会に横たわっているものだ。インターネットが売春や性犯罪を助長するみたいな見方もあるが、そこの規制を強くしたところで、買春する人や性犯罪者が世の中からいなくなるわけではなく、別の形でティーンに忍び寄るだけの話であり、安易にテクノロジーにその原因を求めるメディア、規制を強めて仕事をしたふりをする政治家・官僚に筆者は疑問の目をむける。人は、目に見えやすいテクノロジーに原因を求め、社会に根ざした深い問題から目をそむけがちだが、技術の力で何が変わって、何が変わらないのか、そこを見極める努力を怠ってはならないと筆者は本書後半で強調し、その見方に私は強く共感する。


他に紹介したい読みどころは沢山あるが、長くなったのでこのあたりで。id:yomoyomoさんの書評を見て、原書にチャレンジしてみたが、読み応えがあり、様々な視点で参考になった。ソーシャル・ネットワークなどのテクノロジーの動向に関心がある方だけでなく、年頃の子どもを持つ人にもお薦めの一冊。

*1:もっとも、余程の大都市でなければ公共の交通機関が整備されておらず、運転免許をとるまでは、自由に移動ができかないという、アメリカならでは事情・制約がこういう状況を助長していることは間違いない。

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