Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『自己肯定感を上げるOUTPUT読書術』 世界で一番優しい読書のススメ

「本要約動画」というのは、YouTubeで確固としたカテゴリーを築いたと言っても過言ではない。アメリカ在住の私は、新聞や雑誌などの日本の書評が身近にないので、YouTubeの「本要約動画」は散歩中に聞き流すお気に入りのコンテンツだ。

が、その一方で最近の「本要約動画」は私には軽いものが多すぎる。タイトルはぱっと見で興味関心をそそられるが、2時間もかからず読めるような本を10〜15分ほどで要約したものの何と多いことか。食事に例えれば、何となく健康に良さそうなサプリのみをとって、実質的には小便と一緒にトイレに流れるだけ、というのと似た感覚をそういう動画の視聴経験から覚える。残念ながら「あぁ、この本は読んで見たい」と読書意欲を掻き立てられることは少ない。

もちろん、YouTuberの皆さんもアクセス数を稼いでなんぼなので、人目を惹きやすい本を中心に選ばざるをえないという事情があるのもわかる。が、そうするとどうしても、YouTubeの「本要約動画」映えがする本ばかりがタイムラインに並んでしまい、それが最近の悩みだ。

そんな軽めの「本要約動画」全盛の中で、本日紹介する『自己肯定感を上げるOUTPUT読書術』の著者であるアバタロー氏は、異彩を放つ「本要約動画」YouTuberだ。2021年7月時点で登録者20万人を超え、とりあげる本も下記のような哲学・思想系の骨太の古典ばかりだ。

  • 『ツァラトゥストラ』 ニーチェ
  • 『自由からの逃走』 フロム
  • 『方丈記』 鴨長明

難解な古典を、読者に寄り添った丁寧かつ平易な言葉で巧みに解説してくれ、いつも大変勉強させて頂いている。わかりやすさの源泉は、アバタロー氏自身が「わからない」から「わかる」に至った読書と思考の仮定に特に注意を払っているからだろう。マウントをとって「どうだ、俺はモノを知っているだろう」という外連味がなく、自らが歩んだ途に、案内板付きで、「どうぞこちらにお進みください」と読者を導こうとしている優しさがひしひしと伝わってくる。

 

そんな最近のお気に入りのチャンネルの運営者である氏が『自己肯定感を上げるOUTPUT読書術』という本を書かれたというのだから、これは読まなくてはならない。

自己肯定感を上げる OUTPUT読書術

自己肯定感を上げる OUTPUT読書術

  • 作者:アバタロー
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
Amazon

 読後に一番初めに浮かんできたのは、「世界で一番優しい読書のススメ」という言葉だ。アバタロー氏は本を書いても、動画の通り優しい方であった。

 

本書は、「読書を通して、以下に自分たちの人生をより良く、より豊かにしていくか」というタイトルの通り読書術についての本だ。既に読書が習慣付いている人にも、哲学・思想系の本を見事に読みこなす氏の読書スタイルは大変勉強になる。が、普段から本を読まない人も、そのメインの読者ターゲットになっている点が興味深い。

  • どうやって、本を選べばよいのか
  • どうやって、本を読み進めていけばよいのか
  • どうやって、本の内容を咀嚼し、自分の学びとすれば良いのか
  • どうやって、読書経験を通して、自己肯定感を高め、人生を充実させることができるのか

という点について、ゆっくりしたペースで、丁寧に読者を導いてくれる。読書が習慣付いている方からすると、少しまどろっこしいなぁ、と感じるところもあるかもしれない。が、一人の本好きの人間として、ここまで読書の魅力を見事に描ききることができるかと言ったら、私にはとてもできない。なので、本好きな人にとっても、読書の魅力を再確認する読み物として大いに楽しめるはずだ。

 

アバタロー氏の動画の特徴は、本の内容だけでなく、その筆者の人生もかなりの時間をさいて解説するところにある。「この本の要点は3つあります、ワンツースリー」と進める動画が多い中で、「筆者の歩んだ人生をある程度理解しなければ、その思想も十分に理解することはできませんよ」、とただの本要約に留まらないのが魅力の一つだ。そして、氏のチャンネル購読者にとって嬉しいことは、本書の最後でアバタロー氏自身が、どうやって読書を通して自身の人生を切り拓いていったかが紹介されていることだ。本書を通して、氏の成り立ちを知ることができ、チャンネル購読者には新たな楽しみを与えてくれるはずだ。

 

本好きな人にも、本なんて最近読んでないという人にも、本書は強くお薦めしたい。読書の魅力が余すことなく語られているので、中学生や高校生の子どもたちにも是非読んで欲しい。筆者の優しさに触れ、本好きな子どもたちが増えることは間違いない。

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