「良い文章を書きたい」
文筆家に限らず、こういう想いを持っている人は多いはずだ。特にブログが浸透し、誰でも自分の文章を世に発信できるようになった現在、そういう想いを持っている人はますます多くなっているに違いない。その一方で、
- どうすれば文章が上手くなるのか
- どんなことを日々心がければ良いのか
- どのように自分の文章力を磨けば良いのか
というのは非常に難しい問いだ。「文章術」というのは学校でそれ程体系立てて学ぶわけでもなく、会社でみっちり研修があるものでもない。本屋に行けば文章術の本が溢れてはいるが、量が多すぎてどれを手にとったら良いのかわからない、と悩みをさらに深くする人も多いだろう。そんな悩める人のために『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』は強くお勧めできる一冊だ。
本書は、選びぬいた100冊の文章術のベストセラー、ロングセラーから、ポイントを抽出し、多くの本で紹介されている上位40のポイントをランキング化してまとめたという画期的な本だ。
100冊の本の筆者は、三島由紀夫、川端康成などの文豪、外山滋比古、本多勝一などの大御所、池上彰、佐藤優などの現代の第一線で筆を振るう現役選手、そしてデール・カーネギーなどの海外勢と正に多士済々。100冊の要点を1冊読めば、とりあえずおさえることができるというのが、本書の一番の魅力である。が、本エントリーでは、そういうお得感に追加して、本書の以下三点の魅力を紹介したい。
- 対立した考えが紹介されている
- テクニックを超えた原理原則も紹介されている
- 自分にあった文章術の本を見つけることができる
対立した考えが紹介されている
- 21位 とりあえず、書き始める
- 25位 書き始める前に「考える」
というような一見対立する考え方が、本書では共に紹介されている。これは、100冊の本からの抽出したポイントをランキングするという本書の形式に起因する。決して矛盾ということではなく、文章術に唯一絶対の答えはない、ということの証左だろう。
ある文章の達人は、「事前に要点を熟慮してから書きなさい」と良い、別の文章の達人は「まぁ、まずは書き出してご覧なさいよ」と言っている。「自分にあったスタイルをとっていいのですよ」というメッセージであり、もっと言えば「その時々のあなたの考えのまとまり具合や取り扱うテーマに応じて適した方法を選びましょうよ」というメッセージともとれる。こういった対立軸を一つの本の中で紹介するのは、一人の人が書いた本の中では難しい。この対立した考えが紹介されている、というのは本書独特の魅力の一つだろう。
テクニックを超えた原理原則も紹介されている
文章がすぐに劇的に上手くなるテクニックがあれば良いのだが、そう簡単なものではない。本書のように、要点をまとめてくれた本を読むと、できた気になってしまうのは困ったものだ。先人たちは、そんな浅はかな私たちの期待をお見通しで、下記のような示唆を提示してくれている。
- 28位 日頃から内面を豊かに耕す
- 31位 テクニックでごまかさない
テクニックだけでなく、それを超えた原理原則も紹介されているのは本書の大きな魅力の一つだ。文章術の本を読むと、お手軽なテクニックに目移りしてしまうが、下記のように諭されると、良い文章を書くのに近道はないのだということに改めて気付かされる。
「言葉は身の文」と言われるように、言葉は、書き手の人柄、品位、心の様子、生活をあらわします。「言葉は心の使い」と言われるように、言葉は、その人が心に思っていることを自然とあらわします。
人生観がきちんとしていないと、人の心に響くような文章を書くことができない、ということを常に心にとめておきたい。
自分にあった文章術の本を見つけることができる
本書は、文章術の要点がコンパクトにまとまった良書であるが、さらっと本書を読むだけでは決して文章力は向上しないことにも気付かされる。表面をさらっとなでるだけでなく、自分が心に引っかかったポイントについてさらに深堀りをし、「あぁでもない、こぉでもない」と七転八倒しないと、文章の達人には近づくことは決してできない。七転八倒の一ステップとして、本書をインデックスとして用い、自分にあった文章術の本を見つけるというのは、深堀りをするとても有効な方法だ。
本書では、筆者の選んだ100冊から多くの引用が紹介されている。心に強く響く引用もあれば、それほどでもぐっとこない引用もある。筆者の選んだ各書の読みどころを元に、今の自分に多くの気付きを与えてくれる、自分にあった文章術の本を見つけることができる、これも本書の大事な要点の一つだ。
繰り返すが本書を読んだだけでは、残念ながら良い文章が書けるようにはならない。だが、本書はその長い道のりを歩むための道標となってくれることは間違いない。
「良い文章を書きたい」
そう思っている全ての方に本書をお薦めしたい。