Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『人生を変える断捨離』 「片づけ」を通した自己実現

先日読んだ『日常に侵入する自己啓発』で整理・片付け術が自己啓発書の大きな一分野となっていることに驚いた。整理・片付けというと、もっとオレンジページ的な家庭向けの雑誌で特集を組むような内容であり、自己啓発との結びつきが私には正直イメージしにくかった。アメリカで流行っているので、近藤麻理恵氏の人生がときめく片づけの魔法』は、読んだことがあるのだが、それと双璧をなす、やましたひでこ氏の『人生を変える断捨離』は未読であった(勿論、断捨離という言葉は何度も聞いたことはある)。私事ではあるが、6月に米国の東海岸から西海岸に引っ越すことが決まった。家の片付けは早急に取り組まなければならない優先事項であるので、興味と実益を兼ねて手にとってみた。

 

本書の前半部分はモノを整理するにあたっての心構え、その思考プロセス、そして原理原則がきれいなのフレームワークに落とし込まれて語られていく。私は物欲はあまりないし、生来モノへの執着もあまりないため、それほど家が汚れているわけではない。なので、あまりこういった整理・片付け術を学んだことがなかったが、なるほどと勉強になることが多かった。筆者は下記の視点でモノを選び、手放していくことを推奨する。

  • 不要なモノ:あれば便利で、まだ使えるが、なくても困らないモノ
  • 不適なモノ:かつては大切にしたが、今の自分には合わないモノ
  • 不快なモノ:長年使っているけれど、違和感や不快感があるモノ

こういう視点で見てみると、確かに手放したほうが良いものは沢山ある。家がモノで溢れているわけではないし、家もかなり広いので、ずっととっておいたが、下記のようなものをこの際なので処分することとした。

  • 新品の文房具:使えるのでもったいない以外に保持する理由無し(不要)
  • キャノンの一眼レフカメラ:子供の運動会ももうないし、スマフォで今は十分(不適)
  • 昔から着ていたランニングウェア:最近購入したウェアと比べるとアガらない(不快)

前半部分は実用的なテクニックやモノを整理する考え方が簡潔にまとめられている。実践的で早速役立っている。モノを捨てるか否か判断する上で、わかりやすい基準があると片付けも捗る。そして、後半に入ると本書は一転して自己啓発書としての本領を発揮しはじめる。

 

端的に言うと、本書は後半部分を通して、「片付けを通して、どうやって自分の気持ちに正直になり、自分を取り戻し、自己実現と自己肯定をしていくか」というテーマを一貫して語っている。この視点は私には新鮮であった。私の周囲にいる人の多くは、受験や学校の勉強で自己肯定感を養い、仕事やキャリアアップを通して、自分の志向を見極め、自分と会社(広く言えば社会)とのあるべき距離を見定め、自己実現をしていくという人が多かった。勿論、私もそういう種類の人間だ。が、仕事やキャリアアップなどせずとも、モノを捨てれば自己肯定感を高め、自己実現ができる、という本書の主張は興味深い。それをきっかけとして人生を好転させているという例が本書では沢山紹介されており、自分の周りにはいないタイプが多かったので面白かった。

確かに、仕事への向き合い方と距離感というのは人によって濃淡がある。また、仕事で自己肯定感を高めたり、自己実現が叶わなかった人もいるだろう。本書は、仕事への取り組みが淡い人に片付けを通しての自己実現の機会を与え、仕事で思うように成果があがらない人へのセーフティネットになっているように見えた。

 

正直、私も妻も仕事やボランティア活動を通して、自己肯定感を養い、自己実現できているので、本書で人生が変わることはない。が、これだけバズワードとして広まっていることを考えると、日本人には考え方として受け入れやすく、取り組みやすいことは容易に想像できる。その場その場の購買意欲のみを刺激する広告やマーケティング活動で溢れている現代社会では、一度は目を通しておいた方が良い本だろう。なお、言語設定が日本語ではない私のブラウザで検索したところ、多くの中国語のサイトが表示されたので、中国でも流行っているのだろう。「断捨離」という三文字が中国人の感覚にも訴えかけるのだろう。近藤氏が「ときめき」を「Spark with Joy」と表現したように、うまい英語の表現があれば、コンセプトとしてアメリカでも流行りそうだ。

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