Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『哲学と宗教全史』 世界の成り立ちや人間の生きる意味とは何か?

「世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?」、「人間はどこからきてどこへ行くのか、何のために生きているのか?」という問いに対して、人間がこの三千年の間にどのように取り組んできたのかを一冊にまとめてしまおう、本日紹介する『哲学と宗教全史』はそんな意欲的な本だ。 

 

著者は本ブログで登場回数が最も多いであろう出口治明氏。私はアメリカに住んでいるので、読む本の殆どは電子書籍ではあるが、直感的に「これは紙だな」と感じ、日本から取り寄せたが大当たりであった。古今東西の宗教史と哲学史がもれなくカバーされており、『哲学と宗教全史』の名に恥じない名著だ。通読して全体のダイナミズムを感じるもよし、個別のテーマについて辞書的に使用するのもよしで、哲学と宗教について興味がある人には必携と言っても過言ではない。

 

本書の一番の魅力は何と言っても縦横の幅の広さだろう。最古の宗教と言われるゾロアスター教が生まれた紀元前1000年に遡ることにあきたらず、人間が狩猟生活から定住生活にシフトし、衣食足りて世界の成り立ちや自分の存在価値を考え初めたという、哲学と宗教の起源にまで考えを馳せるそのスケール感の大きさは、まさに出口氏の真骨頂だ。もちろん、横についてもキリスト教を中心とした西洋の宗教観に限定せず、イスラム教、ヒンドゥー教、そして中国の諸子百家までカバーし、世界の至るところ起きてきた知の爆発をあますところなくとらえようという守備範囲の広さは圧巻である。広く、大きく宗教と哲学をとらえることで、世界や自分自身について人間は考えるべくして考えてきたのだということが感じられる。

 

宗教や哲学は、「世界の成り立ちや人間の生きる意味とは何か?」という問いに対する答えを探すための人間の営為であり続けてきた。哲学から派生した自然科学が発展し、「人間は星のかけらから生まれ、動物であるがゆえに次の世代を残すために生きている」という結論が科学的に導き出されたわけだが、筆者は「皆さんはこの結論で、自分が生きている意味や世界の存在について納得しますか?」と問いかける。客観的な科学現象を超えたところに、「まだわれわれが捉えることができていない人間が生きる意味や世界の存在理由があり、それこそがこれからの宗教や哲学が切り拓いていくべき、新しい問いなのではないか」という問題提起を聞くと勇気がわいてくるではないか。

 

 

そんな新しい地平を切り拓いていくには、知の巨人たちが積み重ねてきた思考の蓄積に乗っかる必要がある。本書は、難解な宗教論や哲学が、筆者お得意の易しい言葉で丁寧に解説されており、教科書として申し分ない。深堀りしたいところをぱらぱらっとめくるには、やはり紙の本に勝るものはない。まだ読んでいない、または哲学や宗教の入門書が読みたいという方は、夏休みの課題図書として購入することを強くおすすめる。

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