「何故、歴史を学ぶのか?」、そんなシンプルな問いを子どもから問いかけられたら、小難しい説明はおいておき、「まぁ、この本でも読んでみなさい」と取り敢えず渡してしまいたい、『歴史を活かす力 人生に役立つ80のQ&A』はそんな本だ。
筆者は、本ブログでお馴染みの出口治明氏。本書は、「織田信長が明智光秀に討たれたのは、どこに失敗があったのでしょうか」、「スペイン風邪が第一次世界大戦を終わらせたというのは本当ですか」、「ローマ帝国がキリスト教の迫害から一転して、国境としたわけは」などの歴史をからめた80の質問に筆者がテンポよく答えていく、という形式で進んでいく。わかりやすく平易な言葉を使いつつ、関西弁の口語も交えながらのユーモラスな文章が展開されるので、中学生や高校生でも楽しみながら読め、「あぁ、歴史って面白いなぁ」と感じることもできるだろう。
どの質問も単なる歴史の知識の開陳で終わることなく、筆者の膨大な歴史の知識を元に「タテ思考(ある歴史の事柄を他の時代の似たような出来事と関連づけて類似点と相違点に着目しとらえる考え方)」を最大限に活かした独自の着眼点で解説されるている。個別の歴史の出来事が、新な物語りとして語られる小気味良さが味わえ、一度読み始めたら、なかなかやめられない本であった。目次をみればわかるが、あげられている80の質問は、まとまりがあるようでない雑多なテーマの集合体だ。それらが、矢継ぎ早に投げられても、常に軸をぶらさず的確に、そして楽しそうに打ち返す筆者の姿をみれば、歴史を学ぶ理由は「自分の頭で考えるための思考軸を自分の中に作る」ことにあることを読者は自ずと実感できるはずだ。「連合王国(イギリス)の歴史で、最大の失敗といえば何でしょうか」に対する答えが2020年の1月のEU離脱(ブレグジット)と断じ、それを「ナポレオンによる大陸封鎖令を自ら実施するようなもの」と喝破しているが、現在進行形の事象を独自の思考軸でとらえている好例だ。色々な意見がありうる内容についても、「私はこう考えますよ、でも他の見方があれば、是非教えてください」というオープンなスタンスで臨んでいるのも、勉強を続けて思考軸を磨き続けている筆者ならではの余裕だろう。
本書は、その他にも「消費税10%増税と徳川吉宗の享保の改革」、「毛沢東と西郷隆盛」、「ラグビー日本代表と鎌倉新仏教」など意外な取り合わせで現代社会を読み解く多様な視点を提供してくれる。発想を自由に飛躍させながら、自分の頭で考えた視点を読者に問う筆者の姿は、「あぁ、歴史を勉強すれば、こんなに色々な物事の見方ができるんだ」と若者もきっと向学心を持つことだろう。『歴史を学ぶ理由は、自分の頭で考えるための思考軸を自分の中に作ることにある』なんて、偉そうに子どもに説教するより、自由に楽しそうに語る筆者の姿をみせることが、子供の向学心をかきたてるにははるかに効果的だろう。
APU事務局です。平素は出口治明ならびにAPUを応援をいただき、ありがとうございます。出口が1月上旬より療養 期間をいただいております。ご心配をおかけいたしますが、当面皆様のメッセージに本人がお答えできない状況です。大学からの発表は下記公式HPをご覧ください。https://t.co/ImzFvqKAQC
— 出口治明 (@p_hal) 2021年2月18日
そんな、出口氏、本年1月上旬より病気療養中とのことで心配だ。今は治療に専念され、また元気な姿で活躍を頂きたい。くれぐれもお大事にしてください。