あまりにネタがないので、今読んでいる最中のファーストリテイリングの柳井さんの『一勝九敗』の読中感想を。
- 作者: 柳井正
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/03/28
- メディア: 文庫
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本書の骨子は、「新しい事業というのは失敗することのほうが多いし、いくら計画に時間をかけたところで当初の予定通りものごとが進むなんてことは殆どない、だから高い目標と成功のイメージを決めた上で、開始前の計画・分析に時間をかけすぎず、新しい事業にどんどんチャレンジし、臨機応変に軌道修正したり、失敗から真摯に学んで次に活かすことこそが成功の秘訣」ということ。タイトルの『一勝九敗』というのも、「新規事業なんて10に1つうまくいけば良いほうだ」という柳井さんの思いがこめられている。
「迅速に行動し、失敗から学ぶ」なんて話は、まぁ今やどこでも語られている話とは思うが、本書のすごいところは、いかにファーストリテイリングが失敗をしてきたかという失敗談が生々しく語られ、そしてその失敗から得たことがどのように現在の同社の成功の礎となっているかについて、超具体的に語られている点。『インテル戦略転換』や『巨象も踊る』も生々しい迫力にあふれていたが、本書は舞台が日本であるという点で、その迫力は外国産を凌駕する。
また、本書を読むと、ファーストリテイリングという会社は、外部の専門家の使い方が卓越していることがわかる。創業時や会社の成長期はお金もない上に、人もいないというのは、どこでも同じ話。なので、外部の専門家をいかに有効活用するかが、急速な成長を支える上での重要な要素。外れくじをひいたり、使いかたを間違えるとお金の無駄遣いになるが、けちってなるべく自社でやったり、とにかく安さにこだわると、支出は少なくなるが、収入増へのインパクトも少なくなってしまう。そういう難しさがある中、同社は第一号店の出店、東京進出、原宿店のオープンなど要所要所で外部の専門家の力を積極的かつ有効にレバレッジしており、ほんとにうまいなぁと思う。
特に面白かったのが広告代理店の使い方の箇所。
いままで付き合ってきた日本の広告代理店は、こういうキャンペーンをやるから、ここでこう金を使って、テレビはこの時間帯で、こういうタレントを使うという、話が手段のことばかり。何を伝えたいか、それをどういう方法で伝えるかという、根っこの部分の話はほとんどないことにある時、気づいた。
広告主のことを本当に理解しているクリエイターが、本物の才能を発揮し、適切な媒体を使ってCFを流すことが成功の秘訣だと思う。・・・<中略>
ワンデン・ケネディ社は媒体の手配を一切せず、完全にクリエイティブだけに徹した広告代理店なので、その「クリエイティブという機能」を我々は買い、媒体手配のときになって初めて電通などを使ったということだ。「機能」に対して相応のお金を支払う、これが経営の原則だ。
P.121、122
「機能」に対して相応のお金を支払うためには、自社が本当にしたいことは何で、それをするために自社に足りないリソースは何かが、クリアに認識できていなければならない。わからないことは専門家に丸投げという日本企業にありがちな安易な外部依存の姿勢はそこには一切みられない。そして、本書を読んでいると、この「機能」に対してお金を払うという原則も、外部の会社に業務を委託し、値段の割には成果が低いという失敗経験を重ね、そこから学んだ結果であることがよくわかる。電通をクリエイティブさに欠く媒体手配の専門会社と評する厳しさも、多くの失敗経験から紡ぎだされたものなのだろう。
経営者の回顧録は今までたくさん読んできて、IBM、インテル、GEのような世界に冠たる超優良な巨大グローバル企業のものは、読み応えもあり、トップレベルに入るくらい面白かった。だが、やはり外国産よりも国産のほうが、より生々しさがあるだけでなく、おかれている状況がより近いため、具体的に参考になることが多く、何よりも迫ってくる迫力がある。日経ビジネスの記者がアメリカまでジャック・ウェルチを訪問し、インタビューしにいった際に、ジャック・ウェルチが「日本にも素晴らしい経営者がいっぱいいるのだから、わざわざアメリカにまでこないて、日本の経営者の声を日本の読者に届けるのがあなたの仕事だ」と諭していたのを見たことがあるが、それは読者にもいえること。つい外国産に食指が動いてしまうが、今後はもう少し国産を読み漁ってみようと思う。