『日本人が海外で最高の仕事をする方法』というタイトルで、Amazonのレビュー結果が抜群。海外で仕事をする日本人としては、これは読まないわけにはいかない、と手にとって見た。これは確かに良書である。
筆者は、ソニーで20年もの間、9カ国の国々で仕事をしたという強者。その筆者の成功体験と失敗体験を赤裸々に語り、多用な価値観、バックグラウンドを持つ人と仕事をする上での肝を記している。私は、アメリカの会社のアメリカ本社で現地採用社員として働く身なので、いわゆる「赴任」のカテゴリーにはあたらないが、本書で語られる仕事論の普遍性の前で、その程度の違いは重要ではない。
本書では、赴任先のベトナムでベトナム語で有名な歌をカラオケで歌ったり、赴任先の韓国でアクの強い郷土料理を楽しむことを通して、現地の社員に受け入れられていく筆者の姿が紹介されている。だがこれを、小手先の人気とり、と捉えては同じことをしても、決して成功はしない。筆者の行動の背景にあるのは、相手に対する強烈なまでの興味・関心である。自分に興味を持ってくれる人に、人は興味・関心を持つ。相手に興味を持ち、その興味を満たすために、相手の領域に果敢に飛び込み、徹底的に行動を移す筆者の姿に、各国の現地社員が強く惹きつけられていく様子は本書の見所の一つだ。
また、国や地域で単純に人を一括りにせず、飽くまでも「個」に焦点をあてている点もとても勉強になる。赴任した国々で筆者が先ず取り組むのは「現場回り」だ。まだ、その国になれない中で、強行スケジュールを組んで「現場」を回り、一人ひとりの社員に耳を方向け、真剣に向き合う姿とその徹底っぷりには舌を巻く。現地法人を単なる会社ではなく、現地で働く人の集合体として捉え、「個」にきちんと目を向けた形で様々な施策をうっていく姿は正にプロの経営者だ。下記の文章は筆者のそういう姿勢がよく表れている。
ビジネスにおいて、「人」を単なる交渉相手とか、乗り越えるべきハードルとか、単なる労働力とか、単なる役職というような、無機質なとらえ方をしてしまっていることが、ないでしょうか。たとえ表面に見えているものがそうだとしても、その裏には必ず、さまざまな面を持った人間一人ひとりの姿があります。そのことを意識するだけで、表面に見えているものを違って見えてくるかもしれません。
『日本人が海外で最高の仕事をする方法』
海外での仕事を経験する意義は、単に海外慣れしたり言葉を学ぶことではなく、異なる文化、異なる考え方、異なる環境などの自分と異なるものと向き合い、自分自身並びに会社をその多様性に対応させ、変化させること、だと筆者は説く。私は、日本から赴任してきている日本企業に勤める方たちと話をする機会が沢山あるが、少し日本語ができるだけのアメリカ人をやたら重宝したり、複数の企業の人があつまるゴルフ・コンペで自社の人間だけの組を作るよう調整する、など海外にいながら、なお内向きな日本企業の姿勢を目の当たりにすることが多い。これから海外に赴任する機会のある方、現在赴任中の方には是非本書を手にとって頂きたい。