- 作者: ロバート・スコーブル,シェル・イスラエル,酒井泰介
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/07/20
- メディア: 単行本
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- これからの我々がむかえるのは「会話の時代」であり、
- 「会話の時代」では、企業は顧客/社会とがちんこで双方向のコミュニケーションをとることこそが重要で、
- 顧客の声に耳を傾け、それを受けて対話をするための最強のツールがブログである
というのが本書のメッセージ。
がちんこのコミュニケーションとは、賞賛も批判も嘘も真も全部ひっくるめてオープンな場で議論・対話するということ。本当に顧客のことを考えており、顧客に本当の高い価値を届けることができるのであれば、ブログを持って"Naked Conversations"をしてご覧なさい、と本書では強調されている。
ただ、この"裸の対話"というのは、鍛え抜かれた肉体美を持つ者だからこそ効果があるわけであって、「脱いでもすごくない」企業が裸になって貧弱な体を見せたところで正直者との評判はたつかもしれないが、決してそれ以外に効果をえることはできないことを本書を読んで感じた。
ブログは確かに「顧客の声に耳を傾け、対話をする」ためのツールとして、相応の機能を有しているが、所詮はツールであり何かを確かな効果を約束してくれるわけではない。タイガーウッズと同じドライバーを使っても300ヤードのショットが打てないのと同様に、ブログを持てば本書で紹介されているマイクロソフトの"Channel9"のような成果を誰もがあげることができるわけではない。
本書に下記の記載があり、何故企業ブログが効果的なのかが端的に語られている。
ブログは管理できないから信用があり、事実に基づいているから持続性があり、会社の製品やサービスについてのコメントに基づいているからパワフルだ。賢い会社ならオンライン上での批判に学ぶものだし、どんな情報源に基づいてでも製品やサービスを継続的に改善するものだ。
『ブログスフィア』 〜第7章 P.158〜
「管理できないから信用があり」というところがポイントで、これは「世間に自社をこういう風にとらえて欲しい」というような企業の意図の入る余地はあまりないことを意味する。ブログがあとに残すものは企業が顧客/社会と積み上げたコミュニケーションの結果という事実のみである。事実を積み上げることは誰でもできるが、実のある事実を積み上げることができるかどうか、積み上げた事実に基づき顧客との関係・自社の製品/サービスが向上するかはその会社次第である。
ブログを開設した後の道のりが、はてしなく長く、険しいことは企業は十分に認識しなければならない。小さな会社はさておき、典型的な大企業で高い効果をあげることのできる「脱いでもすごい」会社は、全体の1割にもみたないのではないだろうか。
本書がただのイケイケなビジネスブログ礼賛本であることを危惧していたのだが、手間の問題、法的な問題、ブロガーと広報との軋轢、解雇の危険性についてもちゃんとページが割かれた本になっている。
ロバート・スコーブル、シェル・イスラエル『ブログスフィア:アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち』(日経BP)
id:yomoyomoさんが指摘されているように、本書はイケイケなビジネスブログ礼賛本とは明らかに一線を画する。リスクや様々な障壁をきちんと理解して、がっぷり四つでビジネスブログに取り組もうとしている方にとっては、間違いなく本書は良書である。