Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『営業力』 営業の感性を磨くために必要なこと

田坂広志の『営業力』を読んだので書評を。

プロフェッショナル講座 営業力―「顧客の心」に処する技術と心得

プロフェッショナル講座 営業力―「顧客の心」に処する技術と心得

この本は評価が分かれるだろうな、というのがまず初めに思った感想。本書は営業をする上でのHow Toではなく原理原則に焦点を当てている。以下目次の一部を抜粋。

売れるのは、商品ではない 人間である
商談における「機会損失」を最小にせよ
「小さな商談」でこそ営業力は磨かれる
商談の前日には徹底的な「予行演習」を行え
商談の直前には「内声プレゼン」を行え
「シーン・メーキング」の技術を身につけよ
いかなる商談も「最初の五分」が、勝負
商談の冒頭で「陰の意思決定者」を見定めよ
部下は上司の「視野の外」に注意を向けよ
エレベータ・ホールで「最後の一瞬」を感じ取れ
商談の帰り道には全員で「追体験」をせよ
かならず「手土産」を持ってフォローせよ

明日から直ぐに効果がでるようなコツとかノウハウが紹介されているわけではなく、「商談前は入念に準備を重ね」、「商談中の相手の心の流れに気を配り」、「商談後は反省会をして、適切なフォローを考える」という原則論がひたすら書かれている。「当たり前のことしか書かれていない」と感じる人もいるだろうが、遠回りでも原理原則をおさえたいという真面目な人や「わかっちゃいるが、なかなか貫けない」という原理原則に戒めとして触れたいという方にはお勧め。


「営業は感性」という言葉を聞いたことがあるが、本書の中でも直観力や皮膚感覚という感性の重要性が度々触れられている。

プロフェッショナルは「機会損失」が見える。
すなわち、プロフェッショナルには、「逃した機会」が分かるのです。「見逃した失投」が分かるのです。たとえ表面的には何事も無いように見えても、一つの場面を振り返って、皮膚感覚で分かるのです。あのときの、あの小さな一瞬が、おそらくチャンスであった。
『営業力―「顧客の心」に処する技術と心得』 〜商談における「機会損失」を最小にせよ P.43〜

それは、極めて直観的なものです。
それは、言葉を換えれば、商談の「後味」とでも呼ぶべきものです。
先ほどまでの和やかな雰囲気にもかかわらず、最後の一瞬の顧客の表情から、なぜか、寂しいものが伝わってくる商談がある。一方、淡々と進んだ商談だが、最後の一瞬の顧客の表情から、なぜか、暖かいものが伝わってくる商談がある。
『営業力―「顧客の心」に処する技術と心得』 〜エレベータ・ホールで「最後の一瞬」を感じ取れ P.146〜

私など、営業っぽいことはちょろっとしかやったことがないので、「営業の感性」はかなり鈍感。たまに、熟練の営業と顧客を訪問することがあるが、同じ場にいるのに、その場で感じとったこと、得たことの量が全く異なることに驚かされる。商談後の作戦会議などで、「○○さん、あの時にこういうことを言ってたけど、雰囲気からすると、実はこういうことだよね」、「○○さんがこういうこと言いかけた時、話がそれちゃったけど、何かこっちに聞いて欲しそうなことがあるっぽかったから次回フォローしよう」とか自分が全く気付かなかったことを色々教えてもらうと、感性が鋭いなぁと感服するし、またやっぱり「営業の感性」って大事なんだなぁと思う。


でも感性が磨かれていない人にとっては、「感性が如何に重要か」という話はあまりありがたい話ではなく、「感性を如何に磨くか」という話がとても重要。本書は直接的にはその問いに対する答えを提供していないが、本書を通して読めば筆者がどのように感性を磨いてきたのかが見えてくる。そう、筆者は目次で紹介したような原理原則を、手を抜かずに、長年にわたりひたすら貫くことを通して「営業の感性」を磨いてきて、そして今も磨きつづけているのだ。


言わずもがなだが、鋭い感性というのは一朝一夕で養えるものではない。また、やり方を間違えると、苦労のわりに得るものは少ない。今年新卒で会社にはいり、営業職についたが右も左もわからないという方には、一丁上がり的なHow To本ではなく、本書のような原則論の書かれた本を是非手にとって欲しい。

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