Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』 政教混濁の国アメリカ

先日アメリカ人の友人とメキシコ料理屋でビールを飲んでいた。そうしたら、彼の知人がたまたまいて、「おぉぉ、こんなところで会うなんて!」みたいな感じで盛り上がっていた。その知人としばらく雑談をしたのだが、どうもその知人は私の友人が通う教会の神父さんだった模様。

友人と食事をしていた際に、彼の知り合いにあって紹介をされたという何気ない日常の一幕ではあるが、「あぁ、アメリカ生活には、教会というコミュニティが深く根ざしているんだなぁ」と改めて確認する機会となった。

 

本日紹介する『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』は、アメリカの社会と政治に宗教がどのような影響を及ぼしているかを、俯瞰的にまとめた良書だ。

個人によって信仰の度合いに濃淡はあれど、本書によるとアメリカ人の85%はキリスト教徒だという。が、キリスト教徒といってもその中で、右派左派・保守革新などに別れており、福音派、バプティスト、メガチャーチ、プロテスタント、カトリックなど、様々な区分けがある。アメリカは、プロテスタントが主流であるが、カトリックと異なり中央で管理する組織がないため、分派が多くてとにかくわかりにくい。正直それぞれの特徴や違いは、アメリカに住んでいてもよくわからない。本書はそのあたりをわかりやすく説明してくれる。テーマそのものの複雑さ故に、少し読み応えがあったが、理解を深めることができた。

 

トランプ政権の政策やバイデンとトランプの大統領選などの、最近の出来事がふんだんに出てくるので、理解もしやすい。「大使館のエルサレム移転」はその一つの例だ。

「エルサレムをイスラエルの首都として認定し、大使館をテルアビブからエルサレムに移転する」というトランプの宣言は世界中で物議をかもした。イスラエル寄りのアメリカが遂に実行した外交政策の一つであり、「トランプ流政治」の代名詞だ。その賛否を論じるのは、私の力量を大きく超えるため、ここでは触れないが、本政策の実行は「キリスト教福音派」と「ユダヤ教信者」というアメリカ社会において無視できない影響力を持つ人たちの多くが長年指示してきた政策であることは、考える上で重要なポイントだ。

Pew Research Centerの統計によると、福音派はアメリカ人全体の25%を占める。ユダヤ教徒は全体の2%に過ぎないが、政治経済への影響力は人口比に対して非常に大きい。トランプが選挙公約としてかかげ、そのメインの支持基盤であるキリスト教福音派が推す政策を実行に移すというのは民主主義の理念にはそっている。

少し毛並みが違うだけで、日本の政治家で道路族や農林族という方々が、建設業界や農協の票を見込んで彼らの推す政策を実行することと、そう変わりはしない。自分たちの業界を豊かにするような政策を誘導する利権団体はアメリカにも勿論沢山あるが、それにプラスし宗教が大きな要素として入り込んでくるのが、アメリカ政治の複雑なところであり、その複雑さを理解する視点を本書は提供してくれる。

 

アメリカのノースカロライナの田舎道を車で走ると、果てしなく一本道が続き、家と家の間が20-30メートルくらいある風景をよく見る。果てしなく続く一本道の両脇には畑と牧場、車窓から見える生き物は馬と牛ばかりで、人が歩いているなんてことは殆どない。そんな一本道に、突如として立派なピカピカな教会が出現するというのは、どこの田舎町でもあること。「掘っ立て小屋しかないのに、なぜこんな立派な教会が!?」といつも驚かされる。

ニューヨークやロスなんてアメリカの中で例外であり、広大なアメリカはわが州だけでなく大体こんなもんだ。選挙カーで走ったところで一票もとれないだろうし、街頭演説をしたところで馬と牛しか聞いてくれない。そんな田舎町で人が多く集まるのは、ショッピングセンターか、教会くらいだ。選挙にいくかどうかもわからない人が集まるショッピングセンターよりも、釣れればごそっと票がとれる教会というのは、選挙の主戦場となるのは当然のことだ。

 

アメリカ合衆国憲法の第1修正条項で政教分離が保証されているものの、実際のところアメリカ政治は宗教と切っても切り離せない。政教分離とは名ばかりで、「政教混濁」といった様相を呈している。そんな、アメリカ社会と政治の重要な宗教という側面を理解する上で、本書は格好の良書なので、興味のある方は是非読んでみて頂きたい。

 

 

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