Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

大企業で出世する人の特徴

「あなたが日本の大企業に勤めていたら、今頃離婚していたと思う」

 

ある晩妻とワインを飲みながら話していたら、不意にそんなことを言われて驚いた。幸い、私は新卒の頃から外資系企業に務め、現在はアメリカの現地企業に勤めているので、離婚を免れることはできそうだ。妻曰く、私が日本の大企業に勤めていたら、そこでやりがいをそれなりに見つけ、成果もそれなりにあげて、出世もそれなりにして、気付いたらその価値観に染まっていただろうという。就職活動で日本の大企業と外資系企業の両方を見て、外資系のコンサルティング会社に勤めるというのは、私の価値観に従ってしたものだったんだから、妻が言うようにはならないよ、とその時は言った。が、口ではそう言いながらも、何となく妻が言う通りになっていただろうなと正直思った。

 

私は「出世」にあまり興味がない。若い頃はお金もなかったので、昇進をして給料をもっと得たいという欲はあった。が、ある程度まで給料があがると、昇給しても「ふーん」という感じで、そこから得られる幸福度は下がっていく一方だ。「肩書」や「タイトル」への欲もないので、「出世」のために上司にアピールをしたりしたことは一度もない。が、その割には昇進の機会に恵まれてきた。アメリカに転籍をした直後は管理職から外れて、インディビジュアル・コントリビューターの生活を楽しんでいたのだが、さぼっているのがばれて「お前、マネージャーやってくれ」と頼まれた。その後も仕事ぶりが認められ、昇進と昇給を重ね、それなりにポジションを任されている。

 

「大企業で出世する人の特徴」というと半沢直樹的などろどろの出世争いに勝ち抜ける人というイメージがあるかもしれない。が、出世を求めなかったのにそれなりに出世できた自分の経験からすると、強欲なまでの出世欲より大事なものがある。それは「どんな場所であっても、自分なりにやりがいを見つけることができる」ということだ。

ある程度大きな企業に勤めていれば、会社は某かの社会貢献はしているし、組織全体のためにイチ社員ができることというのはそこかしこに転がっているものだ。自分が置かれた状況にいつも前向きにとらえ、その組織の中で自分がどんな貢献ができるのかを考え、そこで見出した意義を元にやる気をもって仕事に取り組む、ということを私は性格的に自然にできる。組織で働いていると、組織の統廃合や会社そのものの統合合併などの波にもまれて、自分の力と関係ないところで割を食うというのはよくあることだし、自分が思っていたように評価されないということなど日常茶飯事だ。が、腐ったり斜に構えてやる気を失うのではなく、やるべきことを考え、そこに自分なりの意義を見出し、それを糧に高いモチベーションで取り組む、ということができる人にとっては会社組織というのは働きやすい場所だと思う。逆に小さなことで傷つき、モチベーションを下げたり、わかりやすいやりがいがないとやる気が出ない、という人は会社組織にはあまり向いていないと思う。組織が大きくなればなるほど、やる気を奪う罠がそこかしこに散らばっているからだ。

 

そこかしこに落ちている小石につまづかず、些細なネタからやる気を自家発電できる、というのは組織で出世する上では大事なことだと思う。が、だからといってそれ自体がとても良いことだともあまり思わないし、そういう考え方は少しづつ廃れていくんじゃないかと最近思う。そういう人材は見方を変えれば、会社にとって都合が良いというだけだし、本当に自分がやりたいことを見逃してしまうかもしれない。

 

最近娘が読んだ『モチベーション革命』という本が面白そうだったので読んでみたのだが、若い世代の人たちを「乾けない世代」とカテゴライズしており、大変興味深かった。

 

その本が言うには、「逆境に立ち向かい、大変な努力の末に何かを成し遂げ、大きな達成感を覚え、そしてステップアップしていく」というのは古い考え方なのだという。われわれ(私は40代)の世代がそうやって、努力やそこでえた達成感を元に邁進できるのは、お金がなかったり豊かでなかったりした時期がある「乾いた世代」だからであり、

生まれたときから十分なモノに囲まれて育った彼らは、「ないものを勝ち得るために我慢する」という上の世代の心理は理解できないのです。さらに言えば、彼らは上の世代に対し「達成」にこだわることのアンバランスさを感じています

『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体新書』

というのが「乾けない世代」の考え方なのだと言う。

 

楽天は「世界一のインターネット・サービス企業へ」、サイバーエージェントは「21世紀を代表する会社を創る」という目標を掲げているが、「世界一」や「21世紀を代表する」という「目標の大きさ」は書かれているが、「何のために」、「なぜ」、「何をするのか」ということが書かれていない。本書曰く、「目標の大きさ」にやる気や意義を感じて全力で走ることができるのは「上の世代」の人たちで、「下の世代」にはぐっとこないらしい。なるほどなぁと思った。

 

本エントリーのタイトルは「大企業で出世する人の特徴」としたのだが、「一昔前、大企業で出世した人の特徴」という方が正しいかもしれない。頑張ることが美徳の世代には、生きづらい時代に徐々になっていくだろう。が、幸いにも年とともに欲望というのが衰えてきているので、シニア版「乾けない世代」としてうまく時代の波に乗っていきたい。

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