国際霊柩送還士、聞き慣れない職業だが、海外で亡くなった方の遺体や遺骨の搬送(もしくはその逆)を請け負う仕事である。これだけ国際化が進んでいる昨今で、驚くべきことに、国際霊柩送還を専門にしているのは『エアハースインターナショナル』という会社一社であるという。本書、『エンジェルフライト』はその『エアハースインターナショナル』の仕事、人にフォーカスをあてつつ、海外で大切な人を亡くした遺族の気持ちに寄り添い、「弔い」並びに「日本人の死生観」を問う大作だ。
目を覆いたくなるような遺体処理の現場、悲しみにくれる遺族の心情を活写しつつ、その激務を通して遺族、そして故人に徹底的に寄り添う同社の社員のプロフェッショナリズムを刻々と記し、「死とは、弔うとは?」というテーマにうちのめされながらも、奮闘する筆者の姿も赤裸々に描ききっている。自分の感情をなるべく控えめにし、客観的に取材対象の姿をありありと描く門田隆将のスタイルとも、自らの貴重な体験を類稀な描写力で丸ごと描く角幡唯介とも異なる。取材を通して、自分の描きたいものを葛藤しながら見つけていく自らの様まで作品の対象とする独特のスタイルで、一歩間違えれば、ノンフィクションとして成り立たなそうなアプローチをとりつつ、最後まで見事に描ききっている。
私は現在アメリカに住み、日本に帰る予定は今のところは特にない。取材を通して「死と弔い」について真摯に向き合う筆者の姿を見ると、自分が死んだ際、私の遺体はどこにいくのだろうか、ということについて嫌でも考えてしまう。祖国である日本に帰るのが良いという漠然とした考えはあったが、その答えは自分の中にだけあるものではない。なぜならば、それは家族のあり方そのものだからだ。容易に答えを導き出すことはできないが、本書は考えるきっかけを与えてくれる。海外に在住している日本人の方に是非手にとって頂きたい。