「まじかよ〜」と朝から床にへたり込む小学校5年生の娘、昨年の大統領選挙の開票翌朝にトランプを勝利を告げた際のリアクションである。わが家はアメリカのノースカロライナ州に住んでおり、娘の通うアメリカの現地校は白人の比率が26%と非常に低い。学校内の下馬評では圧倒的にクリントン優位であったとのこと、それ故の衝撃である。
もちろん、「まさか!?」というのは、私も同じであった。同僚と昼ご飯を食べている際に、大統領選の話題がのぼることはしばしばあり、「お前は実はトランプ支持派だろぉ」というのはランチタイムの軽いジョークであった。娘の学校と同様に私も白人の同僚は少く、部署を統括するディレクターはイラン人であり、その下に日本人(私)、中国人、フランス人、ルーマニア人、そして一人だけアメリカ人(白人)というようなチーム構成であった。要するに私も娘も、「国際色豊か」というアメリカの一側面しか触れたことがなかったのである。
「アメリカの負け組の逆襲」、選挙後に浮かんできたのは、そんな言葉である。多くの移民を受け入れ、国際色豊かであり、実力がある者が男女を問わずのし上がるというアメリカのイメージは光の部分。アメリカ国内には4300万人もの移民がおり、「ガラスの壁なんてご冗談でしょう」と思わず言いたくなる強い女性たちもこれまた沢山いる。逆の見方をすれば、そういう層との闘いに敗れた白人男性も沢山いるわけだ。今回の選挙は文字通り負け組の鬱積した不満が爆発したと言える。下記はトランプ支持率の内訳であるが、「大学に進学していない白人」の支持率が突出して高く、ものの見事に上述した構図を反映しており興味深い。
この夏の一時帰国の際に、本読みの兄から二冊の本をプレゼントしてもらった。
一冊は『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』。
もう一冊は『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』。
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
- 作者: J.D.ヴァンス,関根光宏,山田文
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/03/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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私がアメリカ在住でトランプ旋風を目の当たりにして衝撃を受けていることを考慮してのセレクションであり、流石というチョイスであった。両書に共通するのは、上述した負け組白人男性の生の声、生身の姿にふれることができる点だ。
『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』は、アメリカの14の州を回り、筆者自らが実施した約150人の一般のトランプ支持者への取材に基づいて書かれている。
トランプ支持者へのインタビューは、なかなか疲れる。5人の話を聞き終わると、座り込みたくなる。それは、政治への期待や希望ではなく、不満を多く聞く取材になるからだろう。
〜『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』 プロローグ P.13〜
という苦労と丹念な取材の元、集められたトランプ支持者の生の声は、歴史的な結果となった先の大統領選挙にまつわる貴重な史実と言っても過言ではない。よくぞここまで食い込んで聞込んだな、という内容のオンパレードだが、それは筆者がニューヨークタイムズの記者ではなく、朝日新聞というインタビューされる側にとっては「謎の極東の新聞社に所属する記者」であったからというのも非常に大きい。日本人だからこそ書くことができたルポタージュであり、トランプ支持者の温度感に触れるための絶好の一冊なので、是非手にとって欲しい。
もう一冊、『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』はトーンがかなり異る。本書の本文には「トランプ」という言葉は一度も出てこない。本書は、アメリカ白人労働者層の現実を生々しく活写したドキュメンタリーであり、その環境から自らの選択と努力で抜け出し、アメリカンドリームを実現した成功者の物語であり、アメリカに存在する二つの階層を中立的、かつ善悪の判断を交えず、そして億せず深く切り込んで対比をした評論書でもある。アメリカ白人労働者層をリアリティを持ち、ユーモアと愛情を交えて語る筆致に引き込まれること間違いなし。こちらも大くの方に手にとって欲しい。