旅にトラブルはつきものである。私はおそらく他の人よりもトラブルと格闘する確率が高い。妻からは「あなたは問題解決能力が高いが故に、トラブルを回避することへの注意力が散漫だから、よくトラブルに巻き込まれるのよ」と言われた。遠回しに褒められているのか、けなされているのか微妙だが、多分後者の方だろう。
アメリカに住んでいるわが家の夏の一大イベントは日本への一時帰国。家族は6週間、私は3週間ほど帰るのが通例。今年は、家族は既に日本に旅立っており、この7月2日の日曜日に私も追いかけて日本に帰国する予定だった。前週は一時帰国前の追い込みで仕事がスーパー忙しかったのだが、少し宿題は残ったものの、何とか6月30日の金曜日の夜を迎えることができた。一切手付かずのパッキングと一時帰国に向けての家のセットアップと残務処理が7月1日の土曜日のTO DO。まあ、午後の2時くらいにはひと通り片付きそうで、落ち着いたらブリューワリーでもいって、来る一時帰国への祝杯をあげようと思っていたのだが、、、なんとパスポートが探せど探せど見つからないではないか。前週はブラジルに出張したため、使ったばっかりなのに何故ないのか全く謎、まさにイリュージョン。オフィスにおいてきたとか、子どものプリントに紛れ込んでしまったとか、どこかの店で落としてしまったとか、一時帰国をしている家族が持って帰ってしまったとか、ありとあらゆる可能性を徹底的につぶしていったがどうしても見つからない。「なくしたモノを見つけることが私の人生」というくらい私はよくモノを失くすのだが、この手のオオモノは大体最後の最後に発見され感動のフィナーレを迎えるのが常。が、今回は「ま、そのうち出てくるさ」が、「ちょっとまずい気がしてきたが、きっと出てくるに違いない」に変わり、「これは流石にやばいかも、ミラクルよ、何とかおきてくれ」をむかえ、ついに「もうお手上げ、ギブアップ」になってしまい、ついにパスポートがでてくることはなかった。
アメリカ在住者が一時帰国間際にパスポートがないことが発覚してどのように対処したのか、というケースが当てはまる人は殆どいないと思うが(散々ググったが、もちろんそんなバカは一人もいなかった)、今回私がとった対応を、万一同じ事態に遭遇してしまった残念な方のためにまとめたておきたい。
1.旅行代理店に連絡をし、フライトのキャンセル
日曜日の早朝に出立する予定が、土曜日の午後遅くとなってもパスポートがないという悲劇的な状況下で気になるのはまず航空券をどうするかということ。一番安いチケットを買っているので、柔軟な変更は望めない。今回はユナイテッドで帰国予定だったのだが、代理店に相談をしたら、今回の私の場合の手続きは下記の通りであった(航空会社、チケットによって条件は異なるので代理店もしくは航空会社に個別に要確認)。
- 飛行機が出発するまでにパスポートが見つからなければ搭乗できないので、キャンセルとするしかない(なお、キャンセル処理は出発の直前まで可能)
- キャンセルをしても一年以内に変更手数料として$400ドルを払えば、再度予約が可能
- 今回支払った金額の範囲であれば、変更手数料以外は発生しないが、それ以上の場合は差額の支払いが必要
- 国際線を前提にしてのフライトであるため、出発地でパスポートが提示できなければ、アメリカ国内の移動もできない
$400はもちろん痛いが、全くキャンセルになるわけではないというのは有り難い。だが、4番目のポイントが今回は痛かった。元々、サンフランシスコ経由で成田に行く予定だったので、領事館のあるサンフランシスコまでとりあえず行って、そこでパスポートの手配を完了させてから、フライトの時間を変更して日本に飛ぶという都合の作戦をねっていたのだが、そういうことはできないとのこと。けち、、、。今回は仕方ないので、ひとまずフライトをキャンセルし、パスポート取得の目処がたってから、再度フライトの予約をすることに。運転して6時間かかるアトランタまで車で行こうかどうしようか悩んだが、けちるのはやめて別途航空券を購入して、アトランタに飛ぶこととした。
なお、補習校への寄付プログラムがしっかりしているアムネットという日本の旅行代理店に予約をお願いしていたのだが、これは結果として大正解であった。アメリカに4年も住んでいるので、そこそこには英語はできるが、やはりプレッシャーがものすごくかかる中、ややこしい話を母国語でできるというのは本当に有難かった。24時間対応で、懇切丁寧に支援や助言をして頂いて、本当に助かった。今後も是非アムネットを利用しよう。
2.ポリスレポートの取得
領事館サイトを調べた際に、紛失や盗難を証明するためのポリスレポートなるものが必要で、これはアメリカの警察から取得しなければならない。パスポートの紛失が発生したのが土曜日だったので、とりあえず最寄りの警察署に電話をしたところ、以下の指示をうける。
- 土曜日だから今電話をしている警察署に直接来ても対応できない
- 近くを巡回している警察官を派遣するから、自宅で待機せよ
まさか自宅に警察を呼ぶはめになるとは思わなかったが、連絡をして1時間ほどでスキンヘッドの警察官がわが家にやってきた。パスポートを紛失して、再発行のためにはポリスレポートが必要なんだと言うと、いつなくしたのか、どこでなくしたのか、盗まれた可能性はあるのか、盗まれたとしたらどこなのか、他に盗まれたものはあるか、など根掘り葉掘り聞かれた。
ぶっちゃけ、いつどこでなくしたかなんて、モノがなくなる場合は大概わからないものだが、そのあたりをぐちゃぐちゃ言っても話が進まないので、「多分、この時に、多分この場所でなくした」とはっきり言い切ることが大事だ。
色々やりとりをした後に、その警察官は、
「うーん、話を聞いていると、これは盗難ではなく、紛失だな。紛失の場合は、ポリスレポートはだせないから」
との回答をするではないか。えーっ!それは困る。万一領事館にポリスレポート無しで行って、ポリスレポートが無いと手続きが進まないと言われると、かなりの手戻りとなってしまう。こんな細かいことは日米で規則を取り決めているわけはないので、国をまたがる役所の処理にはこの手の穴が発生するのが常。この手続きのギャップは、ひと踏ん張りして何とか自分で解決しなければならない。
「飛行の予約の時間が迫っており、どうしても直ぐにパスポートの発行が必要で、そのためにはどうしてもポリスレポートが必要で、紛失の場合でも必ず出せと領事館から言われていて、ないと、チケットがムダになるし、日本にも戻れず、ものすごく困るんだけど」
と許される範囲の誇張を交えて、懇願すると、
「仕方ないなぁ、でもそういうケースは俺は聞いたことがない。ちょっとマネージャーに確認するよ」
とその場で上司に確認をしてくれた。アメリカでは、担当レベルでNOと言われても、「そうなんだ」とあっさり引き下がっては絶対にいけない。何度も辛酸をなめ、磨いてきた「押し」のスキルを、今回はスキンヘッドの警察官に活用することができて良かった。
その後、上司に確認をした警察官は、
「まぁ、何とか出せそうだ、但し、今出せるのはポリスレポートの番号だけで、レポートはそのものは休み明けになるからな」
と言い、自分の名刺にレポート番号を手書きして、私に渡してくれた。この「ポリスレポートの番号」というのが日本の領事館で必要になるものなので、実際のレポートはさておき「ポリスレポートの番号」だけは、必ずその場で警察官から貰わなければならない。もし、「じゃ、手続きしておいたから、後日連絡」なんてことを言われても、必ず絶対に「ポリスレポートの番号」だけは、貰わないといけないことを強調しておきたい。
3.「帰国の為の渡航証明」を取得する
日本に戻らないといけないのに海外でパスポートを無くしてしまった場合は、対応は主に二つある。一つ目はパスポートを新規に発行すること、二つ目は「帰国の為の渡航証明」を取得すること。両者の主な違いは、下記の通り。
- パスポートの再発行は数日かかる可能性があるが、「帰国の為の渡航証明」は1−2日でできる(もちろん領事館の混み具合による)
- 「帰国の為の渡航証明」で日本に帰国する場合は、日本で再度パスポートを新規に作成しないといけない
日本領事館の緊急問い合わせ窓口に週末に連絡をして、色々話を聞いた限り、「帰国の為の渡航証明」であれば、多くの場合は当日に発行できるとのこと。なので、「帰国の為の渡航証明」を何とか当日取得するために下記の事前準備をしていった。
- 紛失一般旅券等届出書(必要)
- 半年以内に発行された戸籍謄本(必要)
- 日本に帰国する旅程表(必要)
- 3.5cm✕4.5cmのパスポート用写真2枚(必要)
- ポリスレポートの番号(必要)
- 最新のi94(念の為)
- 最新のi797のコピー(念の為)
- なくしたパスポートのコピー(念の為)
- なくした査証のコピー(念の為)
なお、「帰国の為の渡航書発給申請書」という書類も作成しないといけないが、これはウェブでは入手できないので、領事館に行って記入する必要がある。
領事館の開館時間である朝9時に領事館に行き、領事に事情をすべて説明する。何とか「帰国の為の渡航証明」を本日中に発行頂きたいとお願いをすると、幸いなことに準備資料が十分であったことと、かつ領事館が空いていたため当日発行をしてもらえることに。領事館でスピード感をもって処理を進めてもらう上で一番大事なのは、きちんとした事前準備であることは強調したい。限られたリソースで、「自分のトラブルは特別で緊急のはず」という人を日常的に支援しないといけない領事館の仕事はとても大変だと思う。パスポートをなくし、パニックになった人が、手ぶらでやってきて、必要な書類の説明に対して、泣いたり、笑ったり、怒ったりするシーンは容易に想像できる(何で戸籍謄本が必要なんだ!とか、、、)。領事館だって人出に限りがあるのだから、申請者にとってはものすごく特別で緊急であっても、その人につきっきりで対応できるわけではない。事前に必要書類などを入念に確認して、事前準備できる書類を万全の形で揃え、「よろしくお願いします!」と差し出せば、相手だって決して悪い気はせず、「できる努力をこの人はしているから何とか力になってあげたい」と思ってくれると思う。緊急の際にあっても、相手の立場も考えながら、支援依頼をすることはとても大事だ。
なお、以下個別の書類について細かな点も記載しておきたい。
「紛失一般旅券等届出書」
この書類は領事館のウェブサイトからダウンロードができる。ブランクフォームを印刷して、自分で記入するのではなく、PDFの入力フォームに必要事項を記入し、印刷するという形式であった。私はプライベートはMAC、仕事はLINUXを使っているのだが、このフォームが何とWINDOWSでしか使用できない。こういう時のために、一応家においてあるWINDOWSで何とか対応できたが、文字コードやアドインを追加インストールするのに結構手間取った、、、。
「半年以内に発行された戸籍謄本」
全ての書類の中でおそらく最も入手難易度が高い。コピーでも大丈夫なので、手元にない場合は日本で家族に取得してもらい、FAXをするなどの処理が必要となる。なお、私は幸いなことに、ワークパーミットを取得するために妻がつい最近「戸籍謄本」を取り寄せており(しかも予備も含めて2通!)、原本ががっつりあった。素敵な妻をもった幸せをかみしめている。
「日本に帰国する旅程表」
領事館の緊急問い合わせ窓口からは、日本に帰国する旅程表が必要と言われた。が、これは少し悩ましい。「帰国の為の渡航証明」が申請日に確実に取得できればよいのだが、もし翌日にずれ込むようであれば、再度フライトの変更をしなければならない。仕方がないので代理店に電話をして、帰国のフライトを変更可能な形で仮押さえしてもらい、仮の旅程表をメールで送ってもらい、「帰国の為の渡航証明」がその日に取得できることが確約できた時点で、フライトの確定をするというやり方をとったが、うまくいった。
「3.5cm✕4.5cmのパスポート用写真2枚」
簡単なようでいて、少し悩ましく、意外と手間がかかるのがパスポート写真。CVSやWALGREENにいけばアメリカ用のパスポート写真はとれるが、日本のものとはサイズが異なる。今回は下記のサイトを利用して、申請用のサイズに手持ちの写真を落とし込んだ。
が、CVSで印刷した際に、写真が勝手に拡大されてしまって困った。CVSの店の中でパソコンを取り出して、サイズを何とか変更して、事なきをえたが、思ったより手間と時間がかかってしまった。
「その他の書類」
私は、パスポートやビザに関する全ての手続き書類は、仕事用のラップトップに保存してあるが、今回はその中から必要そうなものを全てプリントアウトしてもっていった。領事館では「i94がもしあるならコピーさせて下さい」とお願いされたので、提出をした。海外で暮らす上では、自分の身や滞在期間を立証するそれぞれの書類の役割を理解し、電子媒体であっても手元に取り出せるようにしておくことは大事なことだと、数々のトラブルから学んだ。
「どの領事館で手続きをするか」
最後に領事館からみで、今回悩んだことをもう一点。海外在住者であれば、管轄領事館にいくか、管轄外にいくかがひとつの悩みどころになる。私の場合は、ノースカロライナ在住で、管轄領事館はアトランタとなる。ただ、地理的にはワシントンの方が近く、ユナイテッド航空の乗り継ぎもワシントンの方がはるかに良い。大いに悩んだが、
- 実際に出張領事などで何度か顔を合わせたことのある人がいる点
- 管轄領事館の方が私についての情報が多いに違いない点
- 管轄が故に対応もきっと優しいのではないかという邪推
をもって、アトランタ領事館で手続きをした。別に管轄でないといけないわけではないが、選択肢がある場合は、管轄領事館のほうが良い気はするし、今回は大変親身になって支援頂き、しばらくアトランタに足をむけて寝ることができない。
そんなこんなで何とか必要書類を入手し、ただいま乗り継ぎのシカゴ空港にいる私。「パスポートをなくす日」は、モノの管理がだらしない私のXデーだったのだが、Xデーを迎え、乗り切り、ほっと一息というところだ。今回、親身なサポートを頂いた多くの方に感謝したい。なお、この問題はまだ終わったわけではなく、次の課題はどうやって米国に再入国するか。一時帰国の3週間の期間でこの課題に取り組みたい。ブログ記事にするまでもないくらいのあっさり手続きで済めばよいのだが、、、。後編に続く。