長く本棚でほこりをかぶっていた『民主化するイノベーションの時代』を読んだので書評を。
- 作者: エリック・フォン・ヒッペル,サイコム・インターナショナル
- 出版社/メーカー: ファーストプレス
- 発売日: 2005/12/09
- メディア: 単行本
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1. リード・ユーザーは重要な市場動向の最先端に位置している。したがって、現在リード・ユーザーが経験しているニーズは、後になってから市場にいる多くのユーザーが経験することになる。
2. 自分のニーズに対する解決策を獲得することにより比較的高い効用を得ることが期待できるため、その多くがイノベーションを起こす。
『民主化するイノベーションの時代』 〜第2章 リード・ユーザによる製品開発 P.40〜
イノベーションの研究は、製品の作り手、サービスの提供者である企業が如何にイノベーションを起こすかという点に焦点があたることが多いが、筆者はユーザー自身がイノベーションを起こし、それを如何に活用するかという点に焦点をあてている。こういった軸足そのものは決して新しいものではなく、以前からあるものだが、ユーザー一人一人がエンパワーされ、活躍の場所が増えるだけでなく、個々人でできることが多くなっている現代でより注目すべき研究領域だと思う。
本書では、いくつかの実例とともにリード・ユーザによるイノベーションの成果を紹介しているが、企業が長らくイノベーションの担い手あった領域において、リード・ユーザイノベーションが圧倒的な成果をあげた例としては、オープンソースくらいしか紹介されておらず、その他はマウンテンバイクなどかなりニッチで、規模の小さなケースの紹介が多い。筆者自身も諸手をあげて、リード・ユーザによるイノベーションを賞賛しているわけではなく、下記のように一定の条件においてのみそれは有効に機能すると、一歩ひいてみているあたりが如何にも学者らしい。
すべてのイノベーションがユーザーによって低コストで実現するということではない。ましてやそもそもユーザーによって実現できると言っているわけではない。本質的には、メーカー側の製品開発における規模の経済性よりも、個々のユーザーの集合体によって保有されるイノベーション資産の範囲の広さから生じるメリットのほうが大きい場合、ユーザーはより低コストでイノベーションを起こせることに気づくことになる。
『民主化するイノベーションの時代』 〜第7章 イノベーション・コミュニティ P.125〜
いくつかのニッチな領域で機能してきたユーザー・イノベーションも、情報技術の進化により分散したユーザーが緊密にコミュニケーションがとれるようになり、そして個々のユーザの活用可能な資産が強化されることにより、従来の範囲を大きく超える可能性がでてきたといって、言い過ぎではないだろう。Web 2.0のブームもすっかり廃れ、今は猫も杓子もクラウド・コンピューティングだが、「ユーザーの集合体が保持する資産の範囲の経済性」という視点は、バズワードの動向とは関係なく、非常に重要な視点と思う。