Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

Googleの垂直統合の曲がり角

Nicholas Carrが"Google's vertical integration"というエントリーを書いている。要旨は下記の通り。

  • Internetの普及に伴い取引コストが下がり、企業の組織構造は垂直統合型組織から高度に専門性をもったモジュールで構成される水平分業型組織に転換をはかるというのが一般的である
  • ところが、Googleは垂直統合を地でいっている企業であり、コンピュータ、OS、データセンター、アプリケーションソフトなど、あらゆるものを外部調達せず、自社で手がける
  • 最近は、無線LANネットワーク、多機能携帯電話にみならず、太平洋に敷設する通信ケーブルに対しても投資を行っている
  • フォードのような古典的垂直統合組織が苦戦を強いられ、水平分業組織が隆盛する中で、Googleは果たして唯一の例外として君臨することができるのだろうか


はっきり言って「Googleの垂直統合」というテーマについて書かれたエントリーとしては、1年以上前のエントリーであるものの、下記の2つのエントリーのほうが示唆に富み、明らかに面白い。
My Life Between Silicon Valley and Japan - グーグルの垂直統合思想
アンカテ(Uncategorizable Blog) - Googleの特異な「垂直統合」思想に「文系が悪いメソッド」を見る

「グーグルは何でもかんでもゼロから作りたいとは思っていないけれど、自分たちが思うベストのものが世の中から調達できない場合には自分たちで開発することもやぶさかではない」という考え方は、グーグルの本音であり、今彼らが持っている万能感の表れだろう。

特にGoogleの技術力至上主義という垂直統合組織の裏側の思想に踏み込んでいる点が、Nicholas Carrのエントリーと異なり、本質に迫っている。


ただ、Nicholas Carrのエントリーを読んだ私の収穫は、最近の投資エリアが「Google Chip」という半導体の開発製造ではなく、「無線LANネットワークや太平洋に敷設する通信ケーブル」という領域にシフトしている点だ。これはいくつかの視点で見ることができる。


まず、Googleの投資エリアが、技術力志向から、資本力志向に移ってきているとの見方ができる。無線LANや太平洋へのケーブル敷設にGoogleの高い技術力がどれ程活きるかはかなり疑問だ。Googleの強みが技術力であることは今尚変わりはないが、莫大なキャッシュと高い株価に裏打ちされた資本力に相当な強みであることは間違いない。高い技術力に立脚するのではなく、資本力を拠り所として垂直統合を進めているのであれば、これは成長企業が犯しがちな典型的な失敗の可能性もある。


また、別の見方として、長期的かつ莫大な投資の元にインフラをおさえ、それを参入障壁としてイノベーションを阻害している通信会社への挑戦とみることもできる。電力や通信のようなインフラ産業は参入障壁が非常に高いため、そこに健全な競争原理は働きにくい。また、新しい破壊的な技術を導入しようとしても、あまり効率的になりすぎると食い扶持を失う人がでてきてしまうため(例えば、ガスの検針など)自分たちではあまり改革をおこすことができない。
そういった既存のインフラ産業にチャレンジすることができるのは、破壊的な技術の導入により既存の仕組みを壊すノウハウを持ち、なおかつ今から莫大な投資をするにたる資本力を有する企業のみであり、Googleは双方を満たしている。


Googleが垂直統合を推し進め、帝国の領土をさらに広め、長期にわたって覇権を維持し続けるのか、水平分業でつながり合う企業グループに後塵を拝し、自壊してしまうのかは、その垂直統合思想が何に立脚しているかに大きく依存する。そういう意味で、Googleの技術力に立脚した垂直統合思想は現在曲がり角にきていると言える

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