『ウェブは資本主義を超える』を読んだので書評を。
- 作者: 池田信夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2007/06/21
- メディア: 単行本
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その幅広いトピックで構成される本書の軸をあえて2つあげるとすると。
- ウェブ周辺の技術革新が、従来の資本主義のどのような前提を崩して、社会の構造にどのような変化をもたらしつつあるのか
- メディア・通信・IT産業において、エスタブリッシュメントが既得権益をどのように囲い込み、その結果として社会が発展することをどのように構造的に阻害しているのか
という点があげられる。
前者については特に第3章「イノベーションの条件」で重点的に語られている。マルクスやハイエクが紹介され、不勉強な私には少し敷居が高いが、小難しさを乗り越えて中身の理解に努めると得るものは大きい。「従来の資本主義のどのような前提を崩して、社会の構造にどのような変化をもたらしつつあるのか」という点について、例えばマルクスが引き合いにだされ、下記のように論じられている。
資本主義とは、現代の企業理論でも、資本家が物的資本の所有権をテコにして労働者を支配するシステムであり、その有効性は人的資本や知的労働の重要な情報産業では低下する。だから、資本が経済システムの中心であるという意味での資本主義の時代は、終わりつつあるかもしれない。この意味ではも、マルクスは正しかったわけだ。
ただマルクスは、資本主義の矛盾を止揚すれば、すべての人々が「自由時間」で暮らせるようになると考えていた。彼は、計画経済によって市場の「無政府性」を克服すれば、飛躍的に生産の効率が上がり、「富の爆発的な増大」が起こって、資源の希少性が消滅すると予想していたからである。もちろん、これは誤りだった。物的資源の希少性が克服されることは永遠にありえないし、社会主義はそれを悪化させただけたった。
しかし、サイバースペースで「マルクス的」な現象が見られるのは、そこでは計算資源の希少性が生産の制約にならない「自由の国」が、ムーアの法則のおかげで局所的に実現しているからである。
『ウェブは資本主義を超える』 〜イノベーションの条件 P.100、101〜
『ウェブは資本主義を超える』というタイトルを表面だけで捉え、単なるウェブ礼賛本と認識してしまうと本書の価値は半減する。読みながら、そして読んだ後に、『ウェブは資本主義を超える』という言葉にはどのような思いが込められているのかをきっちり考えることが向学のためには非常に重要。"なぜウェブは資本主義を超えるのか:ITpro"もあわせて読むことをお勧めする。
少し長くなったので、後者については次回のエントリーで。