- 作者: 梅田望夫,茂木健一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05/08
- メディア: 新書
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『フューチャリスト宣言』を読んだ。梅田さん二冊目の対談本で、今回の対談相手は脳学者の茂木健一郎さん。作家平野啓一郎さんを相手に『ウェブ人間論』では
- ウェブの進化が人間のどんな本来の欲求を引き出すのか
- それに伴い、人間はどのように変わっていくのか
というような「人間の根源の変化」を軸に対談がされたのに対し、本書では
- ウェブの進化が対談者二人の生活・行動規範にどんな変化をもたらしたのか
- 変化の最先端での行動は、二人のフューチャリストにどんなビジョンを思い描かせたのか
- そのビジョンと談合・エスタブリッシュメント社会との間にどんな軋轢が生じているのか
など、ウェブの進化を追い風に受けて新しい活動に邁進する二人の知識人の「今今」の思いが生々しくつづられている。
「新しい分野で挑戦をする若い人を支える大人のオプティミズムの提唱、及び叱咤激励」で本書は満ち溢れているということを想像していたのだが、実際に読んでみると若干異なる。もちろん、「若い人を支える大人のオプティミズム」は本書の随所にみられるのだが、それはどちらかというと脇役で、「エスタブリッシュメントとの摩擦に日々接する著者自身へのエール」や「著者の同世代の人に対するフューチャリスト同盟への参画の呼びかけ」という方が主役のような読後感を私は持った。
私たちはいま、時代の大きな変わり目を生きている。それは、同時代の権威に認められるからという理由だけで何かをしても、未来から見て全くナンセンスなことに時間を費やし一生を終えるリスクを負っている、ということだ。
同時代の常識を鵜呑みにせず、冷徹で客観的な「未来を見据える目」を持って未来像を描き、その未来像を信じて果敢に行動することが、未来から無視されないためには必要不可欠なのである。『フューチャリスト宣言』 〜おわりに P.207〜
「おわりに」に本書のエッセンスが相変わらずの巧みな表現で上記のようにまとめられている。ぱっと読んだ時は、梅田さんのブログでよく展開される若手に対する大人のオプティミズム全開のPhraseかと思い込んでしまったのだが、よりシニアなフューチャリスト予備軍への呼びかけのようにとらえることもできる。
もし、「ウェブの進化」が「未来」を今の跡形も残らないくらい明るく変えるのであれば、その「未来」の姿を描くフューチャリストが脳学者とコンサルタントのみでは心もとない。もしそれが社会に対する大きな地殻変動をもたらすのであれば、ウェブがもたらす明るい未来を信じるフューチャリストは大企業の中、政治家の中、学校の中、はたまた飲食店主の中など我々の社会の構成要素全ての中に幅広く存在する必要がある。その点においてシニアなフューチャリスト予備軍に訴求することの意味は大きい。
『ウェブ進化論』の出版を通して、平野さんや茂木さんというあるジャンルの感受性豊かな権威に訴求したように、この『フューチャリスト宣言』が「フューチャリスト同盟」がより幅広く伝播することの契機となるとよいと思う。
「フューチャリスト」、「フューチャリスト同盟」という言葉が社会のどの層に、どれくらい浸透するのかを楽しみにしたい。