- 作者: 加藤仁
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/06/16
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
現場の中で培った経験に基づき自分流の経営哲学を築きあげ、異なる業態、異なる状況のいくつかの企業をその哲学に基づき再生させていくその姿は、正にプロの経営者という言葉がぴったり。
戦後の焼け後で青春時代を送り、企業に入ってからは今日より明日の幸せを追い求めてきた一人のサラリーマンとその仕事をじっくりと描きたい。戦後日本の企業社会を象徴するような叙事詩のような長編を書き下ろしてみたい。
『社長の椅子が泣いている』 〜あとがき P.488〜
とあとがきにある通りの、加藤仁氏渾身の約500ページにも及ぶ長編であるが、溢れる臨場感と河島博のかっこう良さがあいまって一気に読了できた。経営者の葛藤が生々しく描かれる様は『インテル戦略転換』に通じる臨場感があり、「経営」を学びたい人には、ちまたの本屋にあふれる経営書を読むより、ずっとおすすめ。
河島は、現地従業員にたいして本社の流儀を押しつけたのでもなければ、MBA取得者のように理論優先の経営論をぶったのでもない。どこまでも自分で考え、自分の言葉を下へおろしていった。
『社長の椅子が泣いている』 〜第五章 P.208〜
「中期三ヵ年計画」の作成にあたった高木哲也や佐藤陳夫にたいして、河島はこう厳命した。
「書店に並んでいるようなビジネス書を参考にして、月並みな経営計画をたてるな。あくまでも自分で考えてくれ」
他社を真似たり、横並びの発想をしたりの、企業から独自性を失わせるマネージメントを、河島はもっとも嫌っていた。
『社長の椅子が泣いている』 〜第七章 P.269〜
米国法人の社長になった時とヤマハの社長になった時の2つのエピソードに徹底的に自分で考えるという河島ウェイがにじみ出ている。定量的に経営判断をするとか、権限委譲によるエンパワーメントとか、現場主義であるとか、こういってはなんだが「いわゆるよくある話」が本書には沢山でてくる。だが、それが徹底的に自分で考え抜いた上の「自家薬籠中の方針」であるが故に、淡々とし、美しいほど一切ぶれない。ぶれることなく、数々の施策が実行に移され、様々な大きな経営課題が着実に解決されていく様は、読んでいて非常に気持ちいい。
その一方で、立志伝中のヒーローとは一線を画し、悩み、苦しみ、もがき続ける等身大の河島博の姿も本書では描かれているのだが、もがき苦しみながらも、経営者としての芯が「ぶれない」その一貫性が、河島博の格好よさを一段と際立たせる。
『インターネットの法と慣習』とか、『ザ・サーチ』とか、実はつん読状態になっていて「あぁ、読まないといけないなぁ」と思っている本がいくつかあるのだが、Blogoshpere界隈で話題となっている本だけ読んでいてはいけないなぁ、ということは本書を読んで強く感じた。
"tokyokidの【書評】日記:書評・社長の椅子が泣いている"
こういう良書に対して、上記のような中身の濃い書評がもっとBlogoshpereに溢れるとよいと思う。