『国家の罠』に続き、『自壊する帝国』を読んだので書評を。
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: 単行本
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著者佐藤優はソビエト連邦崩壊という激動期をはさみ、7年8ヶ月モスクワに在住していた元外務省主席分析官。官僚・政治家・思想家の葛藤や人間模様を中心に、ソビエト連邦崩壊という20世紀後半の最大の事件が、当地で目の当たりにした経験を元に巧みに描かれている。ソビエト連邦史に対する学が薄弱な私にはかなり読み応えがあったが、『国家の罠』同様その面白さに一気に読了することができた。
本書の読みどころは下記の3点。
- 外務省のラスプーチン佐藤優がどのように形成されていったのかを知ることができる
- ソビエト連邦という20世紀で最も複雑怪奇な巨大組織が自壊していく様が当事者の人間模様を織り交ぜられながら描かれている
- 国家・民衆を統治する道具としてのイデオロギーの力と限界を感じることができる
特に3点目については、企業の経営の仕組や戦略を構築し、企業という個人の集団を如何に方向付けするかということを職業柄考えている私にはある意味新鮮であった。
どの企業に所属をするかについては個人は主体的に選択することができるが、どの国家に所属をするかは大部分の人にとっては主体的な選択は難しい。そういった非主体的な選択の元に集まった国家という個人の巨大な集団を方向付けするのがイデオロギーであり、企業が戦略やマネジメントシステムの構築を失敗すれば倒産してしまうのと同様に、イデオロギーに根本的な誤りがあれば国家は崩壊してしまうということが、本書からはうかがえる。
核兵器をもつ巨大な軍隊、国内に張り巡らされた秘密警察網、子供の頃から叩き込まれたイデオロギー教育もソ連帝国の崩壊を防ぐことができなかったのである。
『自壊する帝国』 〜序章 「改革」と「自壊」 P.14〜
共産主義というイデオロギーの徹底教育、KGBによる反共産主義者の徹底監視、共産主義以外の出版・言論の統制、他のイデオロギーを志向する人間を精神病院に収容するなど、あらゆる手を尽くして共産主義を浸透させようとした結果が、共産主義と非共産主義の2重構造であったり、政治の腐敗・民衆の退廃であったというのは非常に興味深い。
上記のような視点でイデオロギーを考えるに、国家や企業という枠組みにとらわれず、情報の徹底的な公開と共有、そして消費をするだけでなく、民衆自身が個として供給活動をすることを奨励するWEB 2.0というのも一つのイデオロギーであることに気づく。貨幣経済や民主主義もまたイデオロギー。「オープンソース現象は貨幣経済の原理だけでは説明できない」という言葉は良く聞くが、それをイデオロギーの対立という視点できってみれば、もっと見えてくることもあるかもしれない。*1
*1:結局殆ど書評にならなくなってしまった・・・