「真の実力(曖昧な定義だが・・・)」が5倍というわけではなく、「時価総額という指標で図るゲーム」の中での実力が5倍ということ。同じような事業をやっていても、よりフリーキャッシュフローが出やすいのような戦略を取り、資本効率を高めるような財務リストラクチャリングをやっていかないと、時価総額では圧倒的な差がつき続ける。
米国ではこれを指標に20年くらい経営されてきたのだが、わが国では企業経営者が本気で株主利益を考え始めたのは、ほんの数年。だから、新しい「株主利益を最大化する」というルールのもとでの経営が定着するまでは「下駄をはかせる」必要があると考える。
岩瀬さんの"三角合併解禁に反対"というエントリーを読んだ。企業の「時価総額」というのは、「資本効率がいかに高いか」というゲームのルールに基づいた企業価値の尺度であり、同じような規模で、同じような事業を営み、同じような価値をお客様に提供し、同じくらいの利益をあげている会社であっても、資本効率を高める施策の優劣如何で、「時価総額」で大きな差がでるとのこと。
上記を読んで思い出したことが2つ。
1つ目は、"粉飾資本主義"という生々しいタイトルの本に記載されている「機関投資家資本主義」という言葉。
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そして、現在のアメリカは「機関投資家資本主義」であり、経営者に過度に株主価値を重視させ、そして株価そのものをあげる強いプレッシャーをかけるのが特徴とのこと。この過剰な機関投資家による株価上昇へのプレッシャーが、金儲け主義を招き、エンロンの経営者を粉飾決算に走らせたと本書では指摘されている。
考えるに機関投資家というのは、自分の保有する株式の株価を上昇させるという第3者に対する責任と義務を持つ唯一の株主あり、そういう側面が短期的かつ過度の株価上昇へのプレッシャーとなっていると思われる。
次に思い出したのが『ルービン回顧録』の下記の記載。
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有名な製造業のCEOとの昼食会で、印象深い話を聞いた。彼は市場が短絡的に反応するので、自社で練り上げてきた意欲的な長期戦略をきちんと実行することができないと、苛立ちをこめて語った。そしてつい先日、主要な機関投資家たちを集め、企業の長期的な経営計画を説明したときの話を持ち出した。彼は「長期的な経営計画を推進するためには、いま投資をしなくてはならないのだ。そうすれば将来、かくがくしかじかの利点がある」と訴えたそうだ。すると機関投資家側からは、「将来のための投資などどうでもよいことだ。われわれは御社の長期的な計画に反対しているわけではないが、長期的に投資を続けるつもりがないからだ。われわれが気にかけているのは御社の次の四半期のことだけなんだ」という答えが返ってきたそうだ。
なんともげんなりする話しかつ、若干極端な例かもしれないが、こういう考えを持った人間が、アメリカ型機関投資家資本主義の少なくない人数を構成しており、彼らは会社の所有者であるため、その期待に応えることも経営者としての責任と義務であることも確か。
上記の2つの引用から、岩瀬さんのエントリーへの私の理解をまとめると
- 「機関投資家資本主義」という仕組みは「企業の真の実力」を表す上で、良い面*1もあるが、悪い面もある*2
- 良い面はさておき、悪い面にのみこまれることなく、過度のプレッシャーをさらりとかわしながら真の企業価値の実現に注力するには、それなりの経験値が必要
- 短期株価上昇主義への耐性、およびそれをあしらうリテラシーというものが日本の経営者にまだ十分備わっていないため、ソフトランディングのためにはもう少し猶予期間が必要
という感じになる。
ソフトランディングのためには猶予期間が必要というのは理解できるが、ただ本当に猶予期間を設けてソフトランディングするという道そのものが長期的に見てよいことなのだろうか。本日は長くなってしまったので、その疑問については明日のエントリーで書いてみたい。