「シリコンバレー精神」の発売記念で開催された、梅田さんと吉岡さんの対談イベント「「シリコンバレーのビジネス風土」と「オープンソースの思想」」に参加してきた。本書の舞台である1996年から2001年のシリコンバレーで経験・時間を共有されたお二人の対談という粋なはからい。YouTubeへ動画をあげるためか、通常の対談より互いに寄り合う構図が、バーのカウンターで酒を飲みながら語りあっているようで、なかなか面白かった。
で、中身の話を2つばかり。
オープンソース組織とマネジメント
タレントは無駄遣いしてはいけない。なので、Oracleの開発では達成すべき目的に向かって、チーム全員が総結集するように開発当初に強烈な方向付けを行う。
チーム、及び組織全体を一つの目的達成に向けて意識をぴったりあわせるというのは、組織が大きくなれば成る程難易度が高まる。ただ、大事を成すためには「1mmでも才能を無駄遣いしてはならない」という方針のもと、大きな開発の前に方向付けを強烈に行い、ぶれないようにするというのはさすがOracleといった印象を受けた。
一方で、マネジメントと呼ばれる人々は何をなすべきかということを考えるに、戦略・戦術を決め、それを組織に浸透させ、それがぶれないようにモニタリングをする以外に実はやることはあまりなく、できているできていないは別として大企業は組織の方向付け、及びその方向性の維持(これがすごく大変・・・)に多くの労力をかけているのは間違いない。
そう考えると、ある方向に向かうために自発的にタレントが集まったというオープンソースの組織に何故マネジメントが必要ないかというのもなんとなく理解できる。向かうべき方向は決まっている、必要なタレントもそろっている、自発的にその方向にむけてガリガリと皆が言われずともコードを書いている、こんな組織にMBAあがりの経営者がきても何もすることはない。逆に1つのミッションのもとに必ずしも集まってきたわけではない人間を1つにまとめあげることを実現するのがマネジメントの妙ということも理解できる。
オープンソースと"Crowdsourcing"
ビジネスがリナックスを発見し、IBM・HPなどの企業がOSの専門家をどんどん投入してから、Stable、Scalable、Secureなシステムに飛躍的に発展した。リナックスカーネルの開発体制について言えば、個人・法人も含めたトップノッチ中のトップノッチが集まっているので、一プライベートカンパニーがその陣容をそろえるのは不可能。
吉岡さんが上記のようなことをおっしゃっていたが、その時に頭に浮かんだのが"Crowdsourcing"という言葉。自発的に集まっている個人ではなく、企業の視点でリナックスを考えるに、
- OSという広範で複雑度の高いソフトウェアを構築するための陣容を1社で整えるのはもはや困難
- とは言え、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを提供する上で必ずついてくるOSを他社に100%依存してしまうというのはリスクが高い
- であれば、群集の叡智と自社のOSのノウハウをミックスし、市場への訴求力の高いOSを競合他社に依存しない形で自社が利用可能な状態にするのがよい
というような構図が見えてくる。これは
"Crowdsourcing"とは、企業や団体が従来従業員やアウトソースによって実施していた業務機能を、不特定多数のネットワーク上の人に対して公に発信することにより受託することを意味する。
という定義と合致するのではないか。即ち、OS開発という従来自社で実施していた業務機能をオープンソースのコミュニティに委託していると言うことができる。そして、自社のトップノッチもそのコミュニティに参加することにより、リナックスそのもの機能を高めるだけでなく、リナックスに対するノウハウの自社での蓄積と他の自社製品とリナックスの親和性を高めるという非常にしたたかな作戦に見える。
まだ、思いつきの段階だが、「オープンソースと"Crowdsourcing"」という関係について今後考えを深めていきたい。
最後に自戒の念をこめて、吉岡さんの下記の言葉を引用させて頂きたい。
オープンソースという現象は、物理的には実際に起こっているという事実はあるが、まだまだ色々わからないことだらけ。決してわかった気になってはならない。
※参考
9/1(金)東京、対談イベント「「シリコンバレーのビジネス風土」と「オープンソースの思想」」
梅田望夫氏との対談イベント:「シリコンバレーのビジネス風土」と「オープンソースの思想」
「シリコンバレー精神」+「オープンソース思想」対談ログ