Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

テレビCM作成に群集の叡智を活用?

"The High Price of Creating Free Ads "というNew York Timeの記事でアメリカの消費財企業メーカーが自社のCM作成にCGMを利用しようとして、苦悩している様が描かれており、なかなか面白い。要旨は下記の通り。

  • ハインツはユーザに自社のテレビCM作成を委託するキャンペーンを実施し、ある採用者には$57,000支払う予定
  • ハインツは、消費者という安い労働力を利用して、テレビCMを安く仕上げようとしているとの批判もあるが、費用が安いなんてとんでもないという同社の役員は言う
  • コンテストの企画、膨大な応募作のスクリーニング、弁護士によるレビューなど、実際には膨大な作業と費用が発生
  • 応募作品も30秒という枠に動画が収まっていないものから、著作権上明らかに問題あるもの、はたまた母親層の受けが悪そうなものなどまさに玉石混交
  • YouTubeにアップロードされた応募作の中には、12,800回(私が見た時はすでに25,488回)も視聴されたものもあるが、プロの広告代理店の目から見ると品質は決して高くない


この取り組みはJeff Howeの下記の定義と合致するため、正に"Crowdsourcing"といえるだろう。

Crowdsourcing is the act of taking a job traditionally performed by a designated agent (usually an employee) and outsourcing it to an undefined, generally large group of people in the form of an open call.
Crowdsourcingとは、従来は特定の代理人(一般的には従業員)に委託していた仕事を、不特定多数の人に公募形式でアウトソースする活動のことである。

ただ、残念ながらテレビCM作成をコスト削減につながらないばかりか、今までと比較し高い品質のCMができるわけでない、とあまり肯定的なことが記載されていない。記事の中ではなぜ、この取り組みがうまくいっていないのかということまで掘り下げて書かれていないため、私なりに考えてみたい。考えられる理由は下記の2点。

  • ケチャップをモチーフにした30秒の動画」と「テレビCM映像の作成」は全く別物である
  • 多様な情報、視点を集めてうまく集約するというプロセスが機能していない


まず1点目だが、テレビCMを作成するというプロセスは「30秒の動画」の作成から始まるわけではなく、ターゲット消費者の定義、製品のブランドイメージの定義、そのイメージをどのようにターゲットの消費者に伝えるのかの検討、など様々なステップから構成される。
記事を読む限り、応募者の殆どは、ケチャップをモチーフにした30秒の動画」作成にとどまり、テレビCM映像の作成という最後のステップに至るまでの長い前段のステップは割愛されているのが殆どのように見える(まぁ、これは当然といえば当然だが)。
"Crowdsourcing"する側の目指すベクトルと"Crowd"側のベクトルがうまくかみ合わなかった、これがハインツがCGMをうまく活かしきれていなかった一つの理由だろう。


次に2点目。群集の叡智が機能する条件の1つに「集約性」という考え方があり、これは多様な情報や意見を集め、うまく集約する仕組やプロセスがある状態を意味する*1
「集約性」という視点で考えるに、ハインツのテレビCM作成プロセスは、沢山集まった動画の中から一番良いものを選ぶというプロセスであり、沢山集まった動画の良いところを集め、集約するというプロセスではない。言葉悪く言えば、凡庸のモノの中でも一番マシなものを選ぶというやり方であり、巨額を投じて購入するテレビCMスポットに流すほど秀逸な作品がそのプロセスからでてくるとは考えにくい。むしろ、ハインツのケチャップを食べて美味しそう、幸せそうにしている消費者の2〜3秒の動画を集めてテレビCM作成の素材にするとか、そういう活用方法のほうがフィットするのではないだろうか。


ハインツの取り組みは記事を見る限りうまくは言ってなさそうだが、一方で一番大事なのは、こういうチャレンジにアメリカのメーカーが果敢に取り組み、失敗も含めて学習を始めているということだ。日本企業の取り組みの遅れが少し懸念されるが、徐々に拡大するメディアのCGM活用について今後も注目してみていきたい。

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