Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

Wikipediaも"ゆるやかな階層制"

昨日に引き続き、Nicholas Carrの"Wikipedia and open source"からの引用。

The problem with those who would like to use "open source" as a metaphor, stretching it to cover the production of encyclopedias, media, and other sorts of information, is that they tend to focus solely on the "community" aspect of the open-source-software model. They ignore the fact that above the programmer community is a carefully structured hierarchy, a group of talented individuals who play a critical oversight role in filtering the contributions of the community and ensuring the quality of the resulting code. Someone is in charge, and experts do count.
The open source model is not a democratic model. It is the combination of community and hierarchy that makes it work. Community without hierarchy means mediocrity.


"オープンソース"をメタファとして使用し、それを押し広げ、百科事典、メディア、その他の情報の分類に適用しようとしたがっている人の問題は、"オープンソースソフトウェアモデル"の"コミュニティ"という特徴しか注目していない点だ。彼らはプログラマのコミュニティ上に注意深く構築された"階層"が存在し、才能溢れる個人が重要な監視役を果たし、そのコミュニティから提供される貢献にフィルターをかけ、コードの品質を確認しているという事実を無視している。誰かが責任をもち、専門家が重視されているのだ。
オープンソースモデルは民主的なモデルではない。それは"コミュニティ"と"階層"の組み合わせだ。"階層"のないコミュニティは凡庸であることを意味する。

オープンソースがなぜ成功したのかを議論する時、共同体への帰属意識を強く持った人が集まってつくられる"コミュニティ"の力にばかりが注目され、あたかもそこに"階層"なんかなくとも同等の成果がえられたかのよう考えている人が多いが、まったくもってけしからん、といったところか。
上記のことから、"階層"のないWikipediaの成果は凡庸であるということを暗に言いたいのかもしれないが、それについては少し疑問を覚える。
確かに、オープンソースは中央でコントロールをする人間は存在するため、ゆるやかではあるが"階層"は存在すると思う。ただ、Wikipediaにも"階層"という要素が全くないかと言えばそんなことはない。

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

ゆるやかな階層制のもっとも有名な例は、パソコン用OSのリナックスを開発したグループだ。・・・<中略>
そして、次に見ていくように、この分散化のアプローチはソフトウェア開発に限らず、他の多くの知的生産物においても同じように利用できるのである。
・・・<中略>オープンソース・ソフトウェアに影響を受けたふたりは、内容が開放された百科事典を作ったのである。
フューチャー・オブ・ワーク』 〜第四章 P.67〜69〜

上記のようにトーマス・アローンの『フューチャー・オブ・ワーク』でふれられているように、Wikipediaオープンソースと同様の「ゆるやかな階層制」という組織の形態をとっている。Wikipediaというプロジェクトの運営や方針について決めるウィキメディア財団が存在し、資金調達までやっている。誰でも編集できるということが問題視され、ユーザ登録をした人間のみに編集権を与えるなどの対応がとられたことも記憶に新しい。以上のことからWikipediaがコントロールをする人間不在で完全な民主制のもと運営されているわけではないことは明らかだ。

注目すべきはその"階層"のゆるやかさの度合いであり、

  • 組織はどこまでゆるやかにできるのか
  • テクノロジーの進歩がどこまで組織をゆるやかにするのか
  • ゆるやかにすればするほど効果があがる構築物はなんなのか

なんてことが今後必要となる議論なんではないだろうか。

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