Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

MySQLはどこへいくのか?

オープンソースソフトウェアは一体誰のものなのか、というテーマを考える上で、現在のMySQLは格好の材料だ。

  1. 2008年2月、Sun MicrosystemsMySQL Abを買収
  2. 2009年1月、MySQLの創設者Monty Wideniusが、MySQLのコミュニティブランチであるMariaDBをリリース
  3. 2009年2月、Monty WideniusはSunを退社し、MySQL関連のエンジニアリングサービスとMariaDBの開発をするMonty Program Abを設立
  4. 2009年4月、OracleがSunを買収
  5. 2009年5月、Monty Wideniusが、MySQL、派生コード、バイナリ、トレーニング、サポートなどを提供する中立的なコンソシアムOpen Data Allianceを設立

MySQLをとりまく環境は上記のようにめまぐるしく変わっている。プロプラエタリ・ソフトウェアの世界であれば、2.と4.が決定的なイベントとなり、MySQLを所有しているのはOracleと断言できる。もちろん、2009年5月の現時点で、MySQLというTrademarkの権利を保持するのはOracleであるため、言葉だけをとらえれば「MySQLOracleのもの」と言うこともできるが、それは表面的な点しかみていない。


MySQLの創設者のMonty Wideniusは、MySQLというTrademarkの権利は保持していないものの、MySQLから派生したディストリビューションであるMariaDBを作り、MySQLのコアな開発陣、コミュニティに対して以前強い影響力を保っている。同じソースコード、独立したディストリビューション、より強いコミュニティへの影響力を保持するMonty WideniusはMySQLを所有していないと言えるのだろうか?
仮に、2008年2月以前のMySQL開発コミュニティの主要メンバーの殆どが、MariaDB及びOpen Data Allianceになびき、OracleMySQLの機能強化がそれ程すすまないなんてことになったら、Oracleの所有するMySQLは果たして本当にMySQLと言えるのだろうか。少なくとも、ナンバーワンのオープンソースDBでいられないことは確かだ。


"オープンソースと緩い所有権"というエントリーでも引用したが、"Homesteading the Noosphere"(日本語訳:ノウアスフィアの開墾)ではオープンソースの所有権について下記のような考え方が提示されている。

In fact (and in contradiction to the anyone-can-hack-anything consensus theory) the open-source culture has an elaborate but largely unadmitted set of ownership customs. These customs regulate who can modify software, the circumstances under which it can be modified, and (especially) who has the right to redistribute modified versions back to the community.
実際問題として(そして「だれでもなんでもハックできる」という合意があるという理屈とは正反対に)、オープンソース文化は入念ながらほとんど認識されていない所有権の慣習を持っている。この慣習によって、だれがソフトを変更できるか、どういう状況でそれが変更できるか、そして(特に)だれが変更バージョンを再配布してコミュニティに戻せるか、が規定されているんだ
"Homesteading the Noosphere"(日本語訳:ノウアスフィアの開墾

仮に、OracleMySQLコミュニティからそっぽを向かれてしまったら、もしくはMySQLコミュニティ自体が骨抜きにされてしまったら、OracleはTrademarkという知的財産権以外は所有しないことになってしまう。それでも、MySQLを所有していると言えるのだろうか。私はNoだと思う。


もちろん、OracleがMonty Wideniusを中心とするMySQLコミュニティをうまく活用する可能性も十分にある。MariaDBを"Red Hatでいうところのfedora"に位置づけ、Oracleの所有するMySQLを"比較的枯れて安定した機能を提供するRed Hat Enterprise Linuxのような商用オープンソース"に位置づけるというのはコミュニティ活用の一つのアイデアではある。このアイデアはMonty Wideniusが自身のブログでLarry Ellisonに以前提案したものだが、それについてのアップデートが何もないうちにOpen Data Allianceの設立がなされた。結局、MySQLMariaDBの関係は、Red Hat Enterprise LinuxSUSE Linux Enterpriseのような異なるディストリビューションとなってしまうのだろうか。


MySQLは一体どこへいくのか。引き続き目が離せないトピックだ。

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