Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『人を動かす』 30代からの自己啓発書

『人を動かす』を読んだので書評を。

人を動かす 新装版

人を動かす 新装版

本書は1937年に刊行され、全世界で1500万部を売り上げた自己啓発書の大ロングセラー。あらゆる自己啓発本の原点と言われているだけのことはあり、人間の本質への理解に根ざした、人と接する上での基本原則が明確、かつ非常にわかりやすく解説されている。また、言うは易し行なうは難しという理想論ではなく、明日からでも実践ができる手の届く感に溢れていることが本書の秀逸な点と思う。


社会にでて仕事をすれば、「自分の論理は正しいにも関わらず相手がその考えを受け入れない」、「相手の誤りは明らかなのに相手がそれを認めない」、なんてことは誰でも数百回は経験する。また、「わずかな自分の正当性を主張するために全身全霊で論理を組み立てる人」や「重要性はさておき、自説の論理的な整合性が確保されていることを力説する人」、にも数百人くらいは出会う。
論理的に正しいことを受け入れない、大して重要ではない考えに固執する、というありがちなケースについてカーネギーは下記のように考察する。

われわれは、あまりたいした抵抗を感じないで自分の考え方を変える場合がよくある。ところが、人から誤りを指摘されると、腹を立てて、維持を張る。われわれは実にいいかげんな動機から、いろいろな信念を持つようになる。だが、その信念をだれかが変えさせようとすると、われわれは、がむしゃらに反対する。この場合、われわれが重視しているのは、明らかに、信念そのものではなく、危機にひんした自尊心なのである・・・・・・。・・・<中略>
われわれは、真実と思いなれてきたものを、いつまでも信じていたいのだ。その信念をゆるがすようなものがあらわれれば、憤慨する。そして、何とか口実を見つけ出してもとの信念にしがみつこうとする。結局、われわれのいわゆる論議は、たいていの場合、自分の信念に固執するための論拠を見いだす努力に終始することになる
『人を動かす』 〜誤りを指摘しない P.172〜

「危機に瀕した自尊心」とはよく言ったものだと思う。我が身を振り返ってみると、人の自尊心を気にせず誤りを指摘したり、自分の自尊心を守るために自説に固執したりしたことが多々ある。自分の苦い経験に基づき、そういった事態に陥らないように、おぼろげながら自分なりの予防策を講じているつもりだが、「危機に瀕した自尊心」という切れ味のある言葉にふれ、パズルの大事なピースが見つかったような感覚を覚えた。


人を説得する12原則の1つ「相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない」という章で上記は紹介されているが、「相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない」という一見するとありきたりな言葉も、著者の人間の特質に対する深い理解に根ざした解説と共に読むと、すっと腹におちる。1500万人以上の人に読まれている自己啓発書の古典だけのことはある。


ただ、自分の経験から考えるに、20代の人は本書を読むにはまだ早いと思う。自己の欲求に身を委ねたり、自分の正当性を認めさせるために議論を戦わせたり、ノーガードで突撃したり、人を激しく非難したりすることは時として必要だし、そういったことを通して経験した成功・失敗という実体験がなければ、本書を読んで目から鱗はそれ程おちないだろう。20代の頃からあまり処世術に長けすぎるのも面白味がない。若い方は、本書はもう少し年をとった後の楽しみにしておいたほうがよいと私は感じた。


その一方で30を超えた人は巷に溢れる自己啓発本、ノウハウ本はしまいこみ、自身の苦闘を思い返しながら本書をじっくり読むことをお勧めする。人を動かす三原則、人に好かれる六原則、人を説得する十二原則、人を変える九原則の『人を動かす』合計三十原則が触媒となり、今までの自分の積み重ねた経験が一層の輝きをますことになるだろう。
『道は開ける』も購入済みなので、正月にゆっくり読みたいと思う。

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