Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『ブロックチェーンの描く未来』 記録と契約のパラダイム・シフト

「あれ、筆者は大学の教授、研究員だったけ?」という錯覚を覚え、筆者の経歴を確認することが読んでいる間に何度かあった。本書『ブロックチェーンの描く未来』に溢れるのは新技術への熱狂といよりアカデミックな探究心だ。

ブロックチェーンの描く未来

ブロックチェーンの描く未来

  • 作者:森川夢佑斗
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 筆者森川夢佑斗氏は株式会社Gincoを創業し、仮想通貨のウォレットアプリやブロックチェーンについてのコンサルティングサービスを展開している。注目を集める技術を手掛ける企業の創業者がその技術について語る本を書くと、往々にして「何故この技術が今アツいのか」という論調になりがちだが、本書は人類の記録と契約に関わる歴史を振り返りつつ、何故ブロックチェーンが記録や契約のパラダイムを大きく転換させる可能性を秘めているのかについてアカデミズムを漂わせながら語られている。

 

「文字を用いた厳密な記録の作成は、一部の特権的な専門技術者によって行われる」「記録はそれを保管し、継承していく力と必要性のある権威のもと、その管理能力によって維持される」ということが一般的とされてきたのです。

『ブロックチェーンの描く未来』 P.91

 記録というのは、日本という国家やギネスワールドレコーズなどの団体によって権威付けされて初めて価値をもつものであって、その価値を担保するために税金なり、認定費なりの対価を我々は払っている。その対価は適正なんだろうか、またその中央の権威というのはそれ程信頼できるんだろうか、テクノロジーの力でよりよい仕組みを実現できないだろうか、ということが本書の主題である。

 

ベタな例を一つ紹介しよう。老後の生活資金の確保のために、毎月一定の金額を年金として支払い、その支払った記録を年金機構という国の権威ある機関に保管してもらい、将来然るべく年から年金を受給する運用を成り立たせるために、年金にプラスをして税金という対価を払っているわけではある。その記録が間違っていたというニュースが世間を騒がしたことは記憶に新しいし、杜撰な管理を行っている国の機関に税金という形で多くの対価が支払われており、それがいくらかも分からない上、将来年金がいつからいくら貰えるかも分からない状況というのは決して理想的とは言い難い。が、それ以外に多くの手段が提供されているわけではないので、仕方がないというのが現状である。

 

中央の権威が実はそれ程信頼できず、かつその費用が適正かどうかが判断できないのであれば、記録の正確性の担保を中央ではなく、コミュニティーに所属をする人が分散的に実施し、予め定められた納得感のあるガラス張りの対価を払う、というようなことは果たしてできないのだろうか。その答えがブロックチェーンにあると筆者は本書で様々な例を用いて説明する。これは国営会社を民営化しようというレベルの話ではなく、国家という枠組みそのものをぶち壊しかねない可能性を秘めており、まさしく記録と契約のパラダイム転換だ。

 

本書では、前回紹介した『WHY BLOCK CHAIN』より、詳細な技術的な説明がなされており、私はその理解をより深めることができた。詳しくは本書を読むことをおすすめするが、よく話題にでる仮想通貨ビットコインのみでなく、新しい契約の形であるスマートコントラクトやイーサリアムについての解説もあり、ブロックチェーンの仮想通貨にとどまらない拡張性がわかりやすく解説されている。その反面、仮想通貨に投資をしている日本人の多くは、ブロックチェーンの仕組みをそのまま使っているわけではなく、投機目的にその利用が留まるという悲しい現実も本書では紹介されており、ブロックチェーンの展開に向けての諸課題も包み隠さず語られており、勉強になる。。

我々が日々行っている記録や契約という行為の前提にチャレンジをするブロックチェーン。本書はその可能性に触れてみたい、より理解を深めたい人には一推しの一冊である。



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