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ktdiskのブログ

読んだ本の感想、所々の雑感、日々のあれこれを綴るブログ。

日本の次の10年と「パラダイス鎖国」観

パラダイス鎖国』を読んだので書評を。

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

筆者は本ブログの読者であれば紹介するまでもない、"Tech Mom from Silicon Valley"の海部美知さん。緩急はあるものの、海部さんのブログはかなりの読み応えのあるエントリーの多い。なので、本書の多くはブログの焼直しだろうと思って手にとったが、その予想は良い方に大外れ。本書はまったくの書き下ろしと言っても全然言い過ぎではない。


パラダイス鎖国」というテーマ設定の秀逸さは、私ごときが改めて強調するまでもないが、本書を読んだ上で考えるに、日本の次の10年を考える上で最も重要なキーワードの1つと言っても過言ではない。これは、「パラダイス鎖国」状態を自ら創出して、そこから収益をあげている日本企業に勤める人だけでなく、日本進出を既にしている、または考えている外資系企業に勤める人にも間違いなくあてはまる。何故なら、対外的にアクセスしやすい鎖の外の日本マーケットのみをビジネスをするのか、さらなる投資をして鎖で覆われれている日本マーケットにまで進出するかは、対日戦略を考える上での根幹となるからだ。


上記の議論をさらに突き進めると議論が終わらなくなってしまうので、続きは別のエントリーにゆずるとして、本書の評に戻る。テーマ設定の秀逸さ以外に本書の価値をもう1点指摘するなら、日本人が気づきにくい、他国と比較した上での日本人の優位性が、見事に表現されている点だろう。

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

日本はこれまで外国の真似ばかりしてきた、自分の頭で戦略を考えてこなかった、ということが世上よくいわれる。しかし、それは一昔前までの話であり、その後も常に欧米と非欧米との間で孤高のマイノリティとして生きてきた日本は、いつの間にか、「果てしなき生産性向上」という、これまで誰もやってこなかった戦略に行き着いている。「追いつけ追い越せ」は、ポピュラーな方法であり、単純な努力によって実現の可能が高い。しかし、新興国の多くは、そこから次の段階になかなか移れない。日本はその隘路をすんなり脱した。日本人の勤勉な国民性がこれを可能にしたのであり、ほかの国がおいそれと真似のできるものではない。誰かが戦略的に考えてそういうやり方に至ったというよりは、貿易摩擦や円高という目の前の危機をいくつも乗り越える過程で自然発生してきた方法だが、それはすなわち、日本人の特性を活かし、また日本人の気質に合う、きわめて独自の戦略であったのだ
パラダイス鎖国』 〜第3章 日本の選択肢 P.111、112〜

「果てしなき生産性向上」という戦略は、日本人の気質あっているので、日本人はすんなりできるが、他国の人には容易には真似できない重要な差別化要因であると位置付けている点が面白い。
自分の良いところを人に指摘されて気がつくがごとく、アメリカに住み、アメリカ人に囲われて生活・仕事をしている海部さんだからわかることが本書では他にも多く指摘されており、そのポイントは読み飛ばさず日本人としてしっかりかみしめ、再認識すべきところだと思う。


よいことも書いたので、残念だった点も。本書で一番残念だったのは本のイントロの部分。ダボス会議のセッションの話の後に

2005年、日本で夏休みを過ごしてアメリカに戻ってきたときに、こんな疑問がふと湧いた。日本は、誰も強制していないけれど、住み心地のいい自国に自発的に閉じこもる「パラダイス鎖国」になってしまったのではないか、と感じたのである。
パラダイス鎖国』 〜はじめに P.4、5〜

と初めて「パラダイス鎖国」という言葉が登場するが、これはかなり唐突感が強い。私などはブログを愛読しているので、まぁわかるが、そうでない人はこの箇所で眉間にしわがよるのではないだろうか。本の中核となる言葉なのだから、もっと丁寧に登場させて欲しかった。P12、13あたりの具体性あふれる箇所をイントロにあてたほうが、立ち上がりとしてはスムーズだっただろう。まぁ、これは筆者というより編集者の問題の気もする。
また、「孤高のマイノリティ」、「内なる黒船」、「厳しいぬるま湯」などのキャッチーなキーワードが多くでてくるが、これらの単語も特段の定義もなく、文脈の中で一度紹介され、その後その単語への理解を所与として論が展開される。これは多分に私の読解力の問題もあろうが、コトバの力に頼りきらずに、もう少し丁寧にコトバを扱った方がより多くの人に受け入れられるのではないか。


良書にしょうもない注文をつけてしまったが、冒頭に述べたとおり、本書のテーマは次の10年の日本を考える上で欠くことはできない。私も一層思索を深め、自分の「パラダイス鎖国」観をきちんと構築したい。

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