Thoughts and Notes from NC

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『自分の頭で考える日本の論点』 新出口節と元祖出口節

日本に住んでいる時に一度だけ出口治明氏の勉強会に参加したことがある。キリスト教が歴史的に見て、何故世界の三大宗教になるまで発展したのかというテーマについて、氏独特の壮大なスケール感を熱っぽく参加者に語る姿が印象的な会であった。勉強会の後の懇親会でも、偉ぶること一切無く若者と和気あいあいと話す氏の姿をみて、「あぁ、この人は若い人が本当に好きで、自分の持っているものが若者の役に立つことに無上の喜びを感じる方なんだなぁ」と強く感じ、年をとったら自分もこんなオヤジになりたいと思ったものである。当時ライフネット生命の社長という立場であったので、営業活動と称して自身の名刺を配っていたが、自分の会社のためでなく、自分の楽しみにやっていることは傍から見ていて明らかであった。現在は、ライフネットの職を辞し、立命館アジア太平洋大学の学長をつとめられているが、未来ある若者と接することが何よりも楽しいという氏が、現職につかれたのは必然であり、こういう方が教育界で活躍頂くことは、国益にかなっており、誠にありがたいことだ。

 

本日紹介する『自分の頭で考える日本の論点』は出口氏の新刊である。

自分の頭で考える日本の論点 (幻冬舎新書)

自分の頭で考える日本の論点 (幻冬舎新書)

  • 作者:出口 治明
  • 発売日: 2020/11/26
  • メディア: 新書
 

 新型コロナウィルス対応や日本人の働き方の是非から安楽死や憲法9条改正の是非まで、現代社会が直面する幅広い政界のない問題について、わかりやすく基礎知識を解説した上で、そういった問題に対して自分なりの思考の切り口をどうやって紡いでいくかというプロセスを丁寧に解説した、一冊で二度三度美味しい本であった。博覧強記と壮大なスケール感という出口氏の持ち味は期待通り十分に発揮されている。が、大学の学長という立場が、「出口節」に新なフレーバーを加えている点は見逃せない。未来を担う若者が思いっきり活躍するためには年寄りは何をしてやらないといけないのか、という若者への愛情がKindleの画面からもうもうと溢れ出ていて、筆者の若者好きに拍車がかかっている印象を受けた。

 

本書は22の異る論点と、巻末に「自分の頭で考えるための10のヒント」がまとめられている。自分が興味があるテーマを読んでいくのも楽しみ方の一つであるが、「論点10 日本は移民・難民をもっと受け入れるべきか」は「新出口節」が如何んなく発揮されており見逃せない。移民の受け入れと活用は日本の国力を維持するために不可避であるという出口氏の立場は、移民大国であるアメリカに住む私の感覚に合致していたものであった。また、チープレイバーとして移民を受け入れるのではなく、世界中から優秀な人材を集めて日本を活性化させるために留学生の受け入れを移民受け入れの起点とし、その留学生たちが活躍できる制度設計をすべきという出口氏の見解は着眼点として非常に面白かった。APUの学長として、多くの海外留学生を受け入れて、世に輩出しているが故に耳に入ってくる現実的な政策課題と、それを解決するための制度上の提言が説得力と迫力をもって語られており、大変読み応えがあった。勿論、現代の日本の抱える移民問題を、3万8000年前くらいの日本に遡ったり、世界最古のシュメール人に想いをはせつつ語る「元祖出口節」も健在であることは言うまでもない。

 

前途ある若者のことを真剣に考えてくる大人がいることを知ることで元気がでると思うので若い人たちには、本書を是非手にとって欲しい。また、日本の直面する課題に自分の頭で考える道具を提供してくれるという点で、その課題に取り組む働きざかりの世代にも本書はオススメできる良書である。そして、年寄りのロールモデルとしての出口氏の姿勢に寄り添う方が増えてくれると嬉しいので、年配の方にも是非おすすめしたい。

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